23-19 女神様からみんなへの言葉?
しばらく待っていると、扉が開きました。レオポルド神官長を先頭に呼ばれた皆様が部屋の中へと入ってきました。もちろん緊張した顔のソニック君と、一番最後に扉を閉めて扉の前に留まったコモナー執事長もいます。
「女神様のお呼びにより、参りました」
レオポルド神官長が、神妙な顔で女神像に向かって話しました。
『ええ、皆、揃っているようね。皆を呼んだのは、セリアテスから話を聞いて伝えておかなければいけないことが出来たからなの。まずは先日、皆の前に姿を現して私が言った言葉についてよ。「セリアテスの言葉を聞きなさい」と私は言いましたね。それは必要な言葉を私からセリアテスに伝えるから、セリアテスがその言葉を皆に伝えてくれるということです』
女神様は言葉を切り、みんなの様子を窺っているようです。みんなは戸惑った顔をしたり、冷静に努めようとしているのか表情には出さないようにしているみたいです。
『だけど、セリアテスが伝えたという魔物の大量発生については、これから必ず起こることだと言えるわ』
女神様の言葉にみんなが息を飲むのがわかりました。
『このことについては、先ほどセリアテスに話してあるから、あとから聞いておくように』
大人の方たちは神妙な顔で頷いていました。
『それから魔法のことだけど、私は皆が魔法を使えるように、この世界を整えています。ですが魔法の使い方はあなた方が決めるように言い、その様子を見守ってきました。あなた方はセリアテスの指摘で今までの魔法の使い方の効率が悪いと気がついたのはいいのだけど、それを正すのにセリアテスに頼ろうとするのはやめなさい』
レオポルド神官長は驚きに父と祖父の顔を見つめました。魔法のことは神殿とは関わりのないところで起こったことでしたので、話が伝わっていなかったのでしょう。
『いいこと、皆もよく覚えておきなさい。セリアテスはまだ7歳の子供なのです。大人の庇護を必要とした子供です。私がセリアテスのことを愛し子と呼んだことで、必要以上に期待をさせてしまったのは、申しわけないと思うわ。でも、セリアテスは普通の子供なの。少しだけ他の皆より女神である私と相性がいいだけの子供。それ以上に特別な力などない、ただの子供なのよ』
大人の方々は戸惑ったように、お互いの顔を見合っています。その中でもレオポルド神官長のうろたえ方は、子供の私から見てもかわいそうなくらいです。
『レオポルド神官長、神殿にも混乱させるようなことをしてしまって、ごめんなさいね』
「はっ、・・・いえ、・・・め、女神様の思し召しのままに」
女神様に話しかけられて、汗を額に滲ませた神官長は返事をしました。そんな神官長に女神様の言葉が続きます。
『でも、あなたには厄介な役目を押しつけることになってしまったわね』
「はっ?」
女神様の言葉を一言も聞き漏らすまいとしている様子の神官長は、言われた言葉を測りかねたのか小さく疑問の声を漏らしました。
『フォンテインの大神殿は何とかしてセリアテスを呼び寄せようとするでしょう。私が駄目だと言ってもセリアテスに大神殿に居ると言わせようとするはずだわ。それでなくても今、セリアテス付きにする聖騎士の選抜をしているのでしょう。本来なら神殿を守るべき聖騎士なのに「女神の愛し子」の聖騎士にするために』
神官長の額から頬へと一筋汗が流れ落ちていきました。
「め、女神様に於かれましては、し、神殿の、聖騎士のことは、ご不快であられますか」
『あら、誤解をさせてしまったのならごめんなさいね。私は地上のことに口を出すつもりはないのよ。神殿のことはあなた方が決めたことですもの。でも、今までの慣例だとかそれは当てはまらないとかはどうでもいいのだけど、セリアテスの意向をどう考えているのかと思っただけよ』
女神様の言葉に神官長は、首をギギギッと鳴りそうな不自然な動きで私のことを見てきました。
「セ、セリアテス様、には、ご、ご不快な思いを」
「えーと、別に聖騎士の方々が私につくのは構いませんが、それは神殿関係だけの時にしてほしいかなー、とは思っています」
女神様がうまい具合に話してくださって助かりました。まだ、聖騎士の方々とはお会いしてませんが、面倒なことになりそうなのは目に見えています。ただでさえ、フォングラム公爵家とリングスタット王国の騎士団とのあつれき? を、目にしたので、聖騎士の方々が揃ったらどうなることかと、案じていたのです。そのことも女神様に言いましたら、「そうねえ、少し私から釘を刺しておこうかしら」と言ってくれたのでした。
しばらく思案なさった神官長は、一つ頷くと言いました。
「わかりました。セリアテス様、聖騎士の件に関しましてはお任せください。女神様におかれましても、神殿の在り方についてフォンテインの大神官と協議しまして、女神様の御心に沿うものへと変えていくとお約束いたします」
『そこまで気負わなくていいのよ、レオポルド神官長。それでなくてもセリアテスがリングスタットに居ることで、あなたに負担がかかるのです』
「そのことにつきましては、光栄と言わせていただきます。敬愛する女神様のお力になれるのであれば、これくらいのことは負担ではございません。私に与えられた使命と甘受いたしております」
神官長はそう言うと恭しく頭を下げたのでした。
355話。
もう少しだけ女神様とのお話は続きます。




