23-14 女神様とお話・・・です?
『私を呼ぶのは我が愛し子のセリアテスですか』
女神像から声が聞こえてきました。・・・いいえ、違うのかもしれないです。直接頭の中に響いている気もします。
「はい、女神さま」
『まあ~、本当にセリアテスなのね。嬉しいわ~』
女神様のはしゃいだ声が聞こえてきました。続けて聞こえてきた言葉に、私は頬を引きつらせました。
『なんということかしら。むさいもしくはよぼよぼのおじいさん以外からの呼びかけなんて久しぶりだわ~。それにこんなに可愛らしい女の子からだなんて。声もくっきりはっきり聞こえるし。やはりセリアテスと私との相性はとてもいいのね』
・・・えーと、むさいもしくはよぼよぼって、神官長様方のことですか?
いえ、それよりも・・・その、女神様ってもっと厳かな方だと思っていたのですけど・・・。
というか、お一人でキャーキャーと嬉しそうに何やら呟いていますし・・・。
どうやら・・・はしゃいでいらっしゃるみたい?
えーと・・・どうしましょう? しばらく待つしかないのかしら。
女神様の様子を窺いながら(というよりも伝わってくる気配を感じながらが正しいかしら?)しばらく待っていたけど、女神様の興奮は収まりそうにありません。なので、私から話しかけることにしました。
「あの女神様、お話したいことがあるのですが、よろしいでしょうか?」
私の言葉にハッとしたような気配が伝わってきました。それから『コホン』と取り繕った咳ばらいが聞こえてきました。
『ごめんなさいね、セリアテス。あなたからの呼びかけが嬉しくて、興奮をしてしまったわ。それで、お話とは何かしら』
柔らかな語り口に安心した私は、組んでいた手をほどいてお腹の前で握り直しました。
「あの、女神様にこんなことをお聞きしていいかどうか迷ったのですが・・・。えーと女神様、私は何を皆に話せばいいのでしょうか。女神様は『私の言葉を聞きなさい』とおっしゃいましたが、何が女神様が言ってほしい言葉なのかわからないのです。どうか指針となるものを示していただけないでしょうか」
切実に困っているのだと、女神様に訴えました。気がつくと組んだ手を胸の前に持ち上げていました。
私の言葉に女神様は・・・。
『あっ・・・ああ~・・・あああああーーーー!』
何やら頭を抱えて髪をかき回す様な気配が伝わってきました。
『やだー、私ったら。なんてことかしら』
今度は落ち着きなく動き回っているような感じがします。
『そ、そうよね。本当に私ったら、肝心なところでボケをかますんだから』
またまた言葉が聞こえてきましたけど、これって独り言・・・ですか? 返事をするのは・・・ひかえた方がいいのかしら?
戸惑っている私に、女神様が大きく『はあ~』とため息を吐かれたのがわかりました。そして落ち着きを取り戻された女神様が、話しかけてきました。
『ほんっとうにごめんなさいね、セリアテス。あの時以降、何も伝えなくて。言い訳ではないのだけど、地上の混乱が収まるのを待っていたの。それにセリアテスに負担を掛けたくなかったのよ』
「えーと、ありがとうございます?」
つい疑問形でお礼を言ってしまいました。女神様が柔らかく笑われたような気配が伝わってきました。・・・というか、苦笑をされたのでしょうか。
『私からもセリアテスに話したいことがあったのよ。本当に丁度良かったわ。でもその前にセリアテスの疑問に答えるわね。みんなに伝えてほしい言葉は、私からセリアテスに伝える言葉なのよ』
「そ、それじゃあ」
私は顔から血の気が引いていくのを感じました。きっと蒼褪めた顔色になったことでしょう。
「申し訳ございません、女神様。わ、私は勝手にいろいろ言ってしまっています。魔物の大量発生が起こるだなどと、予言のようなことを言ってしまいました。あ、あの、訂正してきます」
オタオタと祭壇の前から離れようとしましたら、穏やかな女神様の声が聞こえてきました。
『待ちなさい、セリアテス。どうか落ち着いて。そのことは間違いではないのよ。だからね、もう少しお話をしましょう。ね』
間違いではないという女神様の言葉に、私はホッとして足から力が抜けてへたり込んでしまいました。
『まあ、大丈夫かしら、セリアテス』
「あ・・・はい。すこし、力が抜けてしまいまして・・・」
足に力を入れて立とうと思ったのですが、立ち上がることができません。女神様の前で無様な格好をお見せしていると思ったのですが、体は言うことを聞いてくれないのです。
焦る私は、ふんわりと温かい力に覆われました。と思ったら体が持ち上がり、力に支えるように立つことが出来ました。
それと同時に恐慌を起こしかけた心も、落ち着いていきました。
『本当にごめんなさいね。あなたを慌てさせるつもりはなかったのよ。どちらかというと私の不甲斐なさのせいで、あなたたちに迷惑をかけているのだもの』
女神様の言葉に目を丸くしました。続いて言われた言葉に私はもっと目を丸くしてしまいました。
『そうねえ、私からの話の前に、セリアテスは女神のことをどのくらい知っているのか、聞いてもいいかしら?』
350話




