表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
月光の姫と信望者たち  作者: 山之上 舞花
第3章 魔法と領地ともろもろと
341/444

23-6 わからないことは聞くに限ります・・・よね

「セリア、大丈夫かい。顔色が真っ青じゃないか。執事長、話はここまでにして、セリアを休ませよう」


お兄様が私の顔を覗き込みながら言いました。執事長は頷いて、扉のほうへ行こうとしました。


「待ってください。もう少し・・・もう少しだけ、話を」


執事長は立ち止まり、私のほうへ戻ってきてくれました。


「ですが、お加減がお悪いようですし、本日は王宮に行かれるのはお辞めになられた方がよろしいかと思います。そのことも早くお伝えした方がいいでしょう」

「執事長、聞いてください。私は間違えたのかもしれません。女神様のお言葉を、違うように解釈したのかもしれないのです」

「それはどういったことでしょうか」


私の言葉に執事長は穏やかな声で聞き返してくれました。その声は焦る私の気持ちを落ち着かせてくれました。


「私は女神様が『私の言葉を聞きなさい』と言ったことを、ゲームの知識のことだと思っていました。だからゲームの中で起こる『魔物の大量発生』が、この世界でも起こることだと考えたのです。でも、これが間違っていた可能性があるのです。いいえ。間違っているのが正しいのだと思います。魔物はもう現れなくなっただけなのかもしれないのです」


私の言葉を聞いた執事長は少し考える素振りをしました。それから私と目を合わせて言いました。


「いいえ、セリアテス様、『魔物の大量発生』は必ず起こります。周期的にも起こらないわけがないのです。逆にこの40年ほどの間に魔物の目撃情報や被害にあったという話を、全く聞かないことのほうがおかしいのです。ですから、このことについてはセリアテス様は間違ったことを言っておりませんよ」

「本当に、そうなのでしょうか。・・・それでしたらいいのですけど」


私の思い込みで発した言葉が、この国だけでなく全世界に影響を与えてしまうのです。私は今更ながらに怖くなってしまいました。


(取り返しがつかないことを言ってしまう前に、女神様に聞くことが出来れば・・・)


そうすればこれからの有事に備えることも、迂闊なことを言わないように気を付けることも、出来るだろうに思います。


「それでしたら、女神様にお聞きになさったらいいのではないですか」


私が考えたことに執事長が返事をしたと気づき、目を瞬いて執事長のことを見ました。穏やかに微笑む顔を見て、口に出してしまっていたことに気づかされました。


「えーと、女神様に聞くとは、どういうことでしょうか?」

「言葉の通りですよ、セリアテス様」

「えっ? ええっ! 女神様とお話が出来るのですか!」


私は驚いて、テーブルに手をついて立ち上がりました。執事長は「ええ、もちろんです」と微笑んでいます。身振りで落ち着いて座ってくださいとされて、ハッとした私は椅子に座り直しました。私が表面上は落ち着いたのを見て、執事長は説明してくれました。


「セリアテス様、時々神殿から女神様のお言葉を発表されることがあります。セリアテス様は女神様のご意思をどうやって神殿の方々が知ると思われますか。もちろん勝手に神官たちが発表しているわけではございませんよ」

「えーと、神託・・・が、降りるとか?」

「はい。その場合もございます」


女神様からご意思を伝えらることがあるんだと納得しかけて、『も』と言われたことに「ん?」となりました。あれ? もしかして。


「女神様からだけでなく、こちらから問いかけが出来るのですか」

「はい。もちろんでございます」

「そ、それでは、今、ここで出来ますか?」


私の言葉に、執事長は笑顔のまま動きを止めました。それからゆっくりと表情が真顔に変わりました。


「そうですね。出来ないことはないかもしれませんが・・・おやめになった方がいいでしょう」

「どうしてですか。女神様とお話しができるのでしたら、一刻も早く」


言い募ろうとした私の唇に指が当てられて、私は言葉を止めました。それをしたお兄様のほうを向きましたら、お兄様はにこりと笑いました。


「焦ってはだめだよ、セリア。よーく考えてごらん。みんながみんな、女神様に祈るだけでお話しが出来るのなら、セリアが『愛し子』に選ばれることはなかっただろうね」


お兄様の言葉に頭に上った血が下がっていくように、気持ちが落ち着きました。そうですよね。そう簡単に出来ないことだから、滅多に神殿からもお言葉の発表があるわけではないのでしょう。


でも、執事長が『出来ないことではない』と言ったのは、私が『女神様の愛し子』だからなのでしょう。もしかしたら女神様が私の呼びかけにお答えくださって、お返事をしてくださるのかもしれない。だから出来なくはないかもしれないことなのでしょう。


それを止めるということは、リスクが大きいのかもしれません。もしかしたら、魔力をごっそり持っていかれてしまうとか?


その可能性に気がついた私は、背筋を震えが走っていくのを感じました。


もし・・・何も考えずに女神様に呼び掛けて・・・運よく話が出来て・・・でも、魔力をごっそり持っていかれたら・・・。倒れるくらいならいいけど、命の危険を伴うレベルだったら?


魔力がなくなりしわしわのかっさかさになって横たわる自分を想像してしまった私は、また顔色を悪くしたことでしょう。



340話



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ