医師話4 眉間にしわがよるのは気になることがあるからで・・・
「それで、皆様はどうお考えになられたのかしら」
王妃様の問いかけに王様がまず答えました。
「そうだな、まず思ったのは、彼女は私が知っている、セリアテス嬢ではないということだな」
「今までのセリアテスと違うと?」
「ああ。彼女はあんな話し方はしなかった」
「話し方だけですの?」
「雰囲気からして全然違う」
「雰囲気・・ですの?」
「ああ、それに、・・・何と言っていいかわからんが、彼女の言葉は・・年相応じゃないというか、・・・自分と年が変わらない者と話していたような・・・」
「年齢に相応しくない話し方ということですの?記憶がないからそういう風に感じたのではないのですの?」
「いや、・・・しっかりとした話し方だった。いくら淑女といわれたセリアテス嬢でも、あそこまでの受け答えはできまい」
「フォングラム公爵は陛下のお言葉をどう思われまして?」
「私も、陛下の言葉の通りだとおもいます。娘にはああいう受け答えは出来ないでしょうし、しないでしょう」
ご令嬢の部屋に行かれた方々も頷いています。
感じていた違和感の正体は7歳らしくない受け答えだったのですね。
「では、次に、記憶喪失についてはどうおもわれましたか?ウェルナー医師長」
「記憶喪失なのかどうかは、わかりませんでした」
「わからないのですか?」
「いえ、・・・すみません。セリアテス嬢が言った「わかりません」という言葉が印象に残りまして」
「印象に残った言葉・・・ですの?」
「はい。彼女の記憶喪失は確実だと思います。彼女が倒れる以前のことで覚えているのは怪我をした時のことだけなのでしょう。ですが、目が覚めてから今までのことは一語一句覚えているようです。」
「一語一句?」
「たぶん相手が言った言葉も覚えているのではないでしょうか」
「でも、それは・・・昨日の全部の会話を聞いたわけではないのでしょう」
「はい。全部ではありませんでしたが、・・・明日、今日の会話を聞きましたらすべて答えられるのではないかとおもいます」
「それは・・・」
「記憶を失った代わりに記憶力が増したなどという話も、今まで聞いたことはありませんが・・・」
「そうですわね。そのような話は聞いたことはありませんわ」
「はい。ですから、注意してみていくしかありません」
医師長の言葉に私達医師は大きく頷きました。
「わかりましたわ。では、オットマー魔術師長。あなたはどう思われまして」
「私からは申し上げることはありません」
「何もないのですの?」
「はい。子供らしくない受け答えだったことは陛下がおっしゃられたので。他の、私との会話の返答はもっともだとおもいました」
言葉の割には何かが気になるのか魔術師長は腕を組んだままでした。
「そうですの・・・。では、宰相様。あなた様はいかにお考えになられまして」
「私は本当に覚えていないのだなとおもいましたね」
「覚えていないと?」
「私が聞いたのは名前とここにいない家族のことですが、本当に知らないという反応でしたね」
眉間にしわを寄せたまま宰相様は王妃様に答えました。
「では、学者のキンブリーどの、あなたはいかがです?」
「わしから言えることは何もないのう。魔力のこともわからんようじゃったし、髪の色が変わったことも、元の色を知らんから、比べようがないと言われてしまったからのう」
学者殿もお手上げの動作をしながら王妃様に答えました。
「そうですの。・・・では、他に気になったことや気が付いたことはありまして?」
私は迷いました。
気になっていることはあるのですが、見当違いのことだったらどうしましょうか。
ですが・・・。
32話です。
今回、あと2話続けて投稿します。
それでパウル君目線が終わります。
では、次話で。