祖父話2-3 孫と取り巻きの話し合いの裏で その3
セリアテスが学園に入るまでに、まだ5年ある。学園の方も改革が必要なのはわかっているから、年が変わってからでもいいかと思っていたのは確かだ。
セルジアスは令嬢に質問をしながら、妥協点を探しているようだ。
だが、デルフォート伯爵令嬢の言葉にも一理ある。騎士を目指すスクワーレ伯爵令嬢とセリアテスでは、目指すものが違うから取る学科が違うものが出てくるのは仕方がないことだ。もしセリアテスが一人になった時に、近づいてくるものがおったら。
セリアテスはやさしい子じゃ。5年あれば高位貴族らしくなるじゃろう。じゃが『女神様の愛し子』として、不公平な対応をしないと考えているセリアテスに、近寄ってきたものを拒むことなどできるのだろうか。それならば、気持ちを入れ替えると言っている彼女らを、このままセリアテスのそばに置くのもいいのかもしれん。
『親衛隊』などと言う言葉は聞いたことはない。それはセルジアスも同じようで、この短い時間に目まぐるしく思考を巡らしていることじゃろう。わしのほうに視線を向けてきたのも、自分の判断に自信が持てないのだろう。
結局ビアンカに『親衛隊』のまとめ役を押し付けることで、決着はついたようじゃ。
そのやり取りを令嬢の親たちは黙って見つめていた。親たちにも令嬢たちの覚悟を認めさせてから、わしらはサロンを出て応接室の方に移動をした。そこには数人の男女が待っていた。
「セルジアスお義兄さま、突然のお呼び出しで驚きましたわ」
ウルリーケが椅子から立ち上がり、挨拶もそこそこにそう言った。その横にリッパート侯爵夫妻、デーベレ伯爵夫妻、マークィス子爵夫妻が不安そうな顔で立ち、入ってきた我らに頭を下げた。
カトリーナたちの親たちにも、念のために呼び出しをかけておいたのだ。ウルリーケから「娘がご令嬢と親しくさせていただいているみたいなので、お話しませんか」と、連絡をさせてルートーガー公爵家に来させておいた。何事もなければ、ルートガー公爵家とこれから懇意になる、かもしれないという可能性を示して、急なお茶会をしたで済んだのだ。
だが事情が変わり、ウルリーケに皆を連れてくるように連絡をした。詳しいことは何も伝えていないから、皆不安に思っているのだろう。
「ああ、ウルリーケ、済まなかったね。少し事態が変わったので、話しておきたいことが出来たのだよ。リッパート侯爵、デーベレ伯爵、マークィス子爵。急に呼び出してしまい、申し訳なかった」
「いえ、大丈夫でございます。それよりも、何かございましたのでしょうか」
皆を代表するようにリッパート侯爵が、セルジアスに問いかけた。
皆を席につかせたところで、セルジアスが簡単に何があったのかを話して聞かせた。娘の行動にどの親も、目を白黒させていた。
「わかりましたわ、フォングラム公爵様。我が娘ビアンカがその『親衛隊』なるものの長を致すのですわね。『親衛隊』なるものがどういうものかはよくわかりませんが、『女神様の愛し子』の邪魔にならないものにさせますわ」
ウルリ―ケが心得た様に微笑んで言った。リッパート侯爵、デーベレ伯爵、マークィス子爵は不安そうな顔をしていたが、娘が決めたことに異を唱えるつもりはないらしい。
このあと、係累ではない彼らとも協力体制を敷くことになった。この3家はルートーガー公爵家の下に就くことになると決めた。うちの下では彼らに文句をいう輩がいるかもしれんでの。
それと共に、各家から警備をしている者の中から、フォングラム公爵家に数名学びに来ることが決まった。もちろんそのものが抜けた穴はうちとアルンスト侯爵家、ルートーガー公爵家から人員を回すことが決まった。各家に残った警備担当の者たちは、その者たちが鍛えることになるじゃろう。
とにかくセリアテスに心安らかに過ごさせるために、わしらは出来る限りのことをすることにしたのじゃ。
各家の当主たちもここに来た時と表情が違っていた。特にイェネヴァイン侯爵とライヒェン侯爵、リッパート侯爵は真剣な顔で、意見を言っておった。『女神様の愛し子』のことを差し引いても、他国の間諜に自分の屋敷を伺われていたなどと聞かされては、穏やかな顔もできないじゃろ。
他の者たちも、さすがリングスタットの貴族じゃな。他国に侮られるものかと、夫人たちまで気合が入ったようじゃ。
話は来年2月に行われる各国の王族が集まる王族会議のことにまで及んだ。さすがに各国の大使館に王族を滞在させることはできないだろうということだ。そこまで想定して大使館をたててはいないのだから。王宮にも62か国の王族をすべて受け入れることはできない。そこで、公侯爵家に各国の王族を滞在させるのはどうかという案が出た。各家には3王家を担当してもらうことにする。それぞれの国から連れてくる人数にも制限を掛ける。それが守れないというのであれば、自国の大使館に宿泊をしてもらう。
そう決めたことと、セリアテスにも話して了承を得たことを伝えた。
さすがに『女神様の愛し子』の威光を、ここで使うのかという視線を皆から向けられたが、『どうせ王家を振り分けたら文句を言ってくる国があるのだろうから、使えるものは使っておくに限る!』の言葉に納得をしておったのだった。
320話




