医師話3 若輩者の観察は続く・・・
翌日、朝食をとり、令嬢の気持ちも落ち着いていると連絡がきたので、令嬢のもとへ向かいます。
今日は昨日のメンバーに宰相と学者も加わりました。
部屋に着くとまず医師長があいさつをしました。
「おはようございます、セリアテス嬢。私は、王宮医師のイェルン・ウェルナーといいます。体調はいかがですか」
「おはようございます。・・・えーと、気分はいいです。体も昨日より楽に起きていることができます。それと・・・ベッドから降りた時に足に力が入らなくて転びそうになりました」
「怪我はしてないですね。では、診察させていただきます。楽になさっていてください」
医師長が診察のために、呪文を呟きながら左手を令嬢の方に向けると、ご令嬢の目が輝きました。
そういえば先ほど公爵が令嬢に、昨日診察をしていないのではないかと聞かれて、魔法で診察をしたと答えたと言っていましたね。すごく興味を持たれたようで、どういう魔法なのか聞かれたとか。
「身体のほうはもういいですね。ただ、7日間動いていなかったので、筋力が衰えています。まずは無理せず少しずつ動かしていきましょう。すぐに元のように動けるようになるでしょう」
医師長の言葉に一部疑問がわきましたが、またあとで聞くことにしました。
それよりも、ここからです。医師長と令嬢のやり取りに集中しましょう。
医師長と令嬢の会話は予想していない方向に話が進みました。
医師長が「憶えていないと言ったことについて」聞いたら、「覚えていないとは言ってません」と返ってきました。それどころか、自分が言った言葉はすべて覚えているようです。
この後の医師長の質問にもよどみなく答え、ただ一つ覚えていたことも話してくれました。
医師長は令嬢の言葉に次の言葉がでなくなったようです。
次に魔術師長が令嬢に話し始めました。
魔術師長の質問に、考えながら答えています。
令嬢の答えを聞いてなるほどとおもいました。
「思い出せないだけで知っていると思うことうことは、まだあるのではないでしょうか」は 、確かにあるとおもいます。
たとえば、公爵家のご令嬢の部屋とか、実際に見れば知っていると思われるのではないでしょうか。
次に宰相閣下が話しかけました。
閣下は、令嬢の名前のことを聞いています。あと、他のご家族のことを。
特に思うことはなかったようです。
皆様黙ってしまったので、私も聞いてみたかったことを質問してみることにしました。
「あの、私からもいいでしょうか」
国王陛下が頷いてくれました。
「私は王宮医師のパウル・ウルバーンといいます。セリアテスお嬢様は7日間高熱を出して寝込んでいたと聞かれたとおもいますが、その間お嬢様はうなされていました。何か夢を見ていたのではないですか」
ご令嬢は手を口元にあて、考えながらこたえてくれました。
「・・・ゆ、夢・・ですか。・・・見ていた・・・ような・・気もするの・ですが・・。すみません。思い出せないです」
「あ、いえ。そうですよね。高熱を出していたのですから、覚えていなくても仕方がないですよね」
おおー。言われればそうだよね。
おもわず苦笑がもれました。
けど・・・なんだろう。なにかを、誤魔化してる?・・ような、気がするのは気のせいなのだろうか。
私のあとに、学者の方も質問しました。
魔力のことと、髪の色が変わったことについてです。
この質問も考えながら返事をしていますが、覚えていないからよくわからないのでしょう。
国王陛下も令嬢に話しかけましたが・・・陛下、その質問はないでしょう。
自分が誰かわかるかなんて。
令嬢は見事「国王陛下」だと言い当てました。
ですが、陛下を覚えていたからではなくて、周りの状況をよくみていて導き出した答えでした。
陛下は・・・あー、いえ、・・・。わかってもらえてよかったですね。
公爵が皆様に移動の提案をしました。
私達は頷くと、陛下があいさつをして部屋を出ていきました。
私達はまた会議室に戻りました。会議室には誰もいませんでした。
王妃様や大臣方がそろうまで、誰も話をしようとしませんでした。
皆様が揃い、先ほどの令嬢とのやりとりを話しました。
王妃様も大臣方も言葉も無く聞いていました。
一通り話が終わると沈黙がこの場を支配しました。
王妃様が動いて侍女に飲み物を用意するようにいいました。
しばらくして、皆様にお茶が配られました。
一口飲んで、喉が渇いていたことに気が付きました。
誰かがホッと息をつきました。
皆知らず知らずのうちに息を詰めていたようです。
31話です。
えーと、ちょびっとおわびを。
文字数で切り上げて投稿していた結果、区切りが悪いところで切ることになってしまいました。
前話とのつながり的に読みにくいかもしれませんが、ご容赦ください。
では、次話で。
訂正完了しています。




