21-9 取り巻き令嬢たちとの話し合い7
私は瞬きを繰り返して私を囲むように立つ、クラーラお姉様たちを見上げていました。お姉様たちは顔色を悪くしています。それに対して、令嬢方は何が起こっているのかわからないという風に、不安そうに私たちのことを見つめています。
「どうしましょうか、クラーラ姫様」
「どうするもこうするもないわ。私達には何も言えないし出来ないでしょう、ローザ王女様。これは叔父様に任せるしか」
そこまで言った時に、足音が近づいてきてサロンの扉が勢いよく開きました。
「セリア!」
ミルフォードお兄様たちです。ですが三人とも怖い顔をしています。ツカツカと私のそばに歩いてきて、お兄様は私のそばに跪いて私の左手を取りました。その手を自分の額に当てて懇願するような声を出しました。
「セリア、頼むからそんな無茶はやめてくれ。君の魔力量は多いけど、彼女たちを守ろうとするだなんて・・・。また倒れてしまったかもしれないだろう」
「大丈夫です、ミルフォードお兄様。私は彼女たちの無事を確認したかっただけですから」
安心させるつもりで言ったのに、顔を上げたお兄様は悲痛な顔で言いました。
「それでは、彼女たちに何かがあったらどうするつもりだったんだい。セリアは見捨てられるような子じゃないだろう。彼女たちを守るために魔力を使って・・・場合によっては複数人を相手にしたかもしれないのに。助けが来るまで一人で守るつもりだったのか」
「そんなつもりはありませんでした。ただ、何事もなくすめばいいなと思っていただけですけど」
これは本当の気持ちです。魔力量が多いと言っても私は魔法のことをよくわかっていません。火や水の魔法を使うことはできると思いますが、離れた場所にその魔法を放つことは難しいことだと思います。そうなると、私に出来ることは守ることだけです。もしすべての令嬢が狙われてしまった場合は無理かもしれませんが、それでも出来うる限りのことをしたと思います。
いえ、杞憂に終わったのですけどね。
「何事もなく・・・じゃあ何かあった時には守るために魔力を使うんだよね。それも彼女たちだけじゃなくて、その家族や使用人も守るように」
お兄様が絞り出すような声で言いました。私はその言葉に目を瞬かせました。そしてお兄様の言葉の意味を、言いたいことを考えます。
私が彼女たちを守るということは、私が視ている状態の時に皆様の館が襲われてしまったということで・・・。傷ついた人たちを私には見捨てることはできないでしょう。そうしたらその方達まで守ろうとすることでしょう。ですがもし、六家が同時に狙われていたら・・・。私は皆様をお守りで来たのでしょうか。
いいえ、それ以前に魔力についての知識がないに等しい私が、そのような使い方をしたら、すぐに魔力はなくなってしまうのかもしれません。
かなり無謀なことをしようとしたのだとわかりました。
「ごめんなさい、お兄様。私が軽率でした」
なのでシュンと項垂れながら言いましたら、お兄様は私の左手を両手で包み込むようにしてきました。
「わかってくれたかい、セリア。次に同じようなことをしようと思った時には、私たちに言うこと。いいね」
「はい。お兄様」
お兄様は安心したように微笑んでくださいました。
「あ、あの、セリアテス様、まさか、私達のことも」
声がした方を向くとカトリーナ、イリーナ、アデリーナが、青い顔で立っています。確かに三人のことも気にかけていたので、私は頷きました。
「ああ~、どうしましょう」
カトリーナは顔を両手で覆ってしまいました。その肩にイリーナとアデリーナが手をかけて、何かを小声で話しています。
そうしたら、また廊下が騒がしくなり、サロンの扉が乱暴に開けられました。入ってきたのはオットマー先生です。その後ろから、お父様たちを含めた大人たちがぞろぞろと入ってきました。
オットマー先生は私のそばに立ち見下ろしてきます。私はパッと立ち上がるとオットマー先生に言いました。
「ごめんなさい、オットマー先生。私が考えなしでした」
頭を下げた私の肩にオットマー先生の手が乗りました。顔をあげると真剣な顔で私のことを見つめています。少ししてホッと息を吐き出しました。そして顔を上げるとお父様たちのほうを見ました。
「大丈夫だ。セリアテス様には、大事ない」
お母様が大人たちの中から抜け出て私のそばにくると、その胸に抱きしめられました。
「お母様」
顔を上げた私の頬に雫が落ちてきました。
「お願いよ、セリアテス。一人で背負い込もうとしないで。セリアが公平であろうとする気持ちも、自分が原因で危ない目に遭ってほしくない気持ちもわかるわ。だからといってセリアがそこまでのことをしなくていいのよ。もう、あんな思いをするのは嫌なのよ」
お母様は私を胸に抱いたまま、崩れ落ちるように座り込んでしまったのでした。
313話です。




