21-5 取り巻き令嬢たちとの話し合い3
令嬢方は動揺したようにあちこちに視線をさ迷わせています。さすがに不快に思っていたと言われては、言い訳は出来ないと思ったのでしょう。
私は視線を右のほうに向けました。ゆっくりと心の中で5まで数字を数えてから視線を目の前に座る皆様に戻しました。
「皆様に誤解のないように言いますけど、私はこの日記の内容から皆様のことを、友人から外すと決めたわけではありません」
「そ、それは」
「では、どうして」
レイチェルとミラルテスが呟くように言いました。蒼白な顔のまま言われたので、もしかしたら本人も呟いたことを意識してないのかもしれません。
「少し語りますけど、よろしいでしょうか」
私は微笑みを浮かべて皆様の顔を見ながら言いました。皆様は私の顔を見つめたまま頷きました。
「皆様もご承知のとおりに、私は女神様から『愛し子』と言っていただきました。その時に女神様は『私の言葉をよく聞きなさい』とおっしゃいました。私はその言葉が何を指すのか考えました。何故、他の誰でもない私のことを『愛し子』と呼んで『私の言葉を聞け』と言ったのかを。結論はすぐに出ました。それは私が王宮で倒れていた間に、夢で見ていたことだろうと思い至りました」
私は一度言葉を切るとカップを持ち紅茶を一口飲んで喉を湿らせました。
◇
あの夢は、すごく衝撃的なものでした。そして実現するのなら、この世界に甚大な被害を及ぼすものでした。あまりに現在と離れすぎていて、実感は湧かないものです。でも、今までの記憶と引き換えにするように心に残ったあの情景は、いまも深く記憶に残っています。
目が覚めた私は困惑しながらも、そのことについて情報を集めていきました。断片的ながらもピースが合うように、揃ってきた事実に私は混乱しました。もしかしたら忘れているだけで、私には使命といえるものがあったのではないかと思ったのです。
だから女神様に『愛し子』と言われて『私の言葉をよく聞きなさい』とおっしゃられたのを聞いて、安堵したのよ。でも、それと共に別の不安を持ったりもしたのだけど。
『女神様の愛し子』となっても、私は今までと変わらずにいられるのかと、思ったりもしたの。でも『女神様の愛し子』としてのお披露目の時に、皆様の様子を見て変わらずにいることは無理だと思いました。今までに『女神様の愛し子』といわれた方がいたのなら、私もその故事に習えばよかったけど、それは無理だとわかりました。それどころか、偽りの名前の女神様の『神子』と呼ばれていたことが分かったでしょう。ちゃんと書物に名前が残されていたのに、なんでそのようなことが起こったのかはわからないけど、『神子』に関することは参考にするわけにはいかなかった・・・。
だから私は自分で考えるしかなかったの。女神様は私に何を望み、私はどう振る舞うべきかを。
自分の振る舞いで出した結論は一つです。『女神様の愛し子』である私は『特別を作らない』ということです。出来うる限り皆様に平等に接したいと思いました。
そう考えた結果から『セリアテスの友人』である皆様に、友人から外れていただくことを決めたのです。
◇
私の言葉を静かに聞いていた令嬢方は、フィリナへと一人、また一人と視線を向けました。そして代表するようにミラルテスが口を開きました。
「セリアテス様のお考えはわかりました。ですが、セリアテス様はお言葉に反しておりませんか。そちらのスクワーレ伯爵令嬢は『セリアテス様の特別』に見えますけど」
私はミラルテスを見つめました。微かに頷いてから口を開きました。
「そうですね。端から見れば『特別』に見えるでしょうね」
「それでしたら、私もスクワーレ伯爵令嬢と同じに」
「ですが、それは皆様の思い違いです」
ミラルテスが私の言葉に、勢いこんで言ってきました。その言葉をすべて言い切る前に、私は言葉を被せました。皆様はその様子に、また目を見開いて私のことを見つめてきました。
「お忘れでしょうか。このフィリナは私が倒れる原因となった、怪我をさせたことを」
皆様の視線がまたフィリナに向かいました。そして今度は探るような視線を私に向けてきたのです。私は真面目な表情のまま言葉を続けました。
「フィリナはそのことの贖罪のために、私の失くした知識を一緒に勉強して手伝いをするはずでした。ですが事態が変わったために、もっと過酷なことを命じました」
皆様は私の言い方に驚きながらも、次の言葉を固唾を飲んで待っています。
「フィリナには何かあった時に私を守れるように・・・いいえ、守れなくても盾ぐらいにはなれるように、女性騎士となってもらうことにしました」
「ひっ」
誰かが悲鳴のように息をのんだのでした。そして皆様は顔を見合わせました。探るように顔を合わせていますけど、なんと言っていいのかわからないみたいでした。
309話。




