医師話2 若輩者はジッと、見ている・・・
公爵令嬢が目を覚ましたと侍女が知らせに来ました。
公爵夫妻は急いで部屋を出て行きました。
医師長と私も公爵令嬢のもとに行こうとしましたら、部屋にいた方が全員ついて来ようとしました。
王妃様に全員で向かわない方がいいと言われて、誰がいくかで議論が始まりました。
結局これも王妃様の一声で決まりました。
もちろん、医師長と私、魔術師長、それから国王陛下です。
公爵令嬢がいる部屋に向かう途中で、他の医師も合流しました。
公爵令嬢がいる部屋の扉が開いたのが見えました。
公爵が令嬢を抱きかかえています。
私達に気が付くと反対方向に歩き出しました。夫人と子息も続いて歩いて行ってしまいます。
医師長が声をかけましたが、足早に歩いていってしまいます。
廊下の角を曲がって姿が見えなくなってしまいました。
私達も小走りに追いかけましたが、追い着けるかどうか・・・。
「フォングラム公爵はどうしたのだろう」
誰かが呟いていました。
廊下の角を曲がったところで公爵一家に追いつきました。
見れば、女官長が立ちふさがっていました。
公爵はこちらを見ると舌打ちをしました。
えっ、あの有能で穏やかなフォングラム公爵が?
舌打ち?
うそだろ。
国王陛下に言われてしぶしぶという感じに、令嬢を部屋に連れて戻りました。
私達は部屋に入らず会議室に戻りました。
しばらくして、公爵と子息が会議室に来ました。
公爵が先ほどのことを詫びられています。
国王陛下が楽しそうに話されて、言われている公爵は憮然とした顔をしていました。
王妃様のとりなしで、令嬢が目覚めた後の様子を聞くことができました。
ご子息の話に皆様の顔が渋い顔になっていきました。
医師長や学者の眉間にしわが寄っています。
国王陛下が見解を聞いてきました。
医師長も学者も高熱による意識の混乱による幼児退行ではないかと話していました。
私も同じように思いました。
だけど、私は他に気になっていることがあったので、彼女と話がしたいと思っています。
侍女が公爵令嬢の支度ができたと知らせに来ました。
あらためて、私たちは彼女の部屋に向かうことになりました。
向かう間に国王陛下と公爵が話されていました。令嬢に、倒れてから今日までのことを伝えていない、ということが、わかりました。
公爵も疲れていて、判断力が落ちていたんだなと私は思いました。
部屋に着いてご令嬢の顔を見たら、落ち着いているように見えました。
医師長が魔法でご令嬢の状態を確認しています。
大丈夫なようです。
公爵がこの7日間のことを話しています。
令嬢は黙って聞いていたけど、・・・なんだろう。違和感を感じます。
彼女は話を聞き終わると首をかしげながら聞いてきました。
「あの、魔力ってなんですか?」
と。
あれ、フォングラム公爵令嬢だよね。
魔力のことを知らないって。
おかしい。意識の混乱がまだ続いている、にしては落ち着いているし。
魔術師長が令嬢に魔力について説明したけどわかってないようにみえました。
周りを見回すと皆、目と目を見交わしあっています。
魔術師長が他に分からないことはあるか聞いています。
それに答えた彼女の言葉は私たちに衝撃を与えました。
「あの、私は・・・どこのだれで、何という名のものでしょうか?」
私の周りの人は騒然としました。
私は彼女の言葉を頭の中で反芻しました。
周りの声は聞こえてきません。
えっ、自分がわからない。
回らないあたまで考えていたら、一つの単語が浮かんできました。
「記憶喪失?」
気が付くと口から言葉が出ていました。
誰かがハッと息をのんだのが聞こえてきました。
周りの方たちが一斉に動き出したので、皆と一緒に部屋を後にしました。
会議室に戻るまで誰も口を利きませんでした。
待っていた王妃様や大臣方に国王陛下が令嬢の状態を話しています。
王妃様は話を聞くと「なんてことなの」といって手で顔を覆うって泣き出されてしまいました。
国王陛下は王妃様を慰めるように肩に手をおかれました。
フォングラム公爵は何も言わずにじっと座っています。何かを思案しているようです。
医師長たちが話し合っていますが、簡単に結論がでるはずがありません。
何と言っても令嬢の状態が一時的なものなのか、そうじゃないのかわからないのですから。
話を聞きたくても、目覚めてから今の事態にショックを受けているだろう令嬢に、無理をさせるのはよくありません。
話し合いは、今日はもう令嬢に話を聞かずに、様子を見守るということに落ち着きました。
それから、明日以降に詳しく診察することになったので、令嬢にはもう数日王宮にいてもらうことになりました。
その夜のことです。
令嬢が休まれたあと、あの後の様子を公爵や部屋付きの侍女から話を聞いていて・・・。
国王陛下や魔術師長、医師長に公爵が怒られました。
夕食の時に家族の話をしたそうです。
ここにはいらっしゃらない、前公爵夫妻のことや公爵の姉君、弟君のこと、その家族のことなども話してしまわれたそうです。
公爵は言ってはいけないことだと思わなかったようですが、「何がどこまでわからないのか」がわかるまで何も言うなと言われてしまいました。
でも、家族の団らんで家族の話ができないとなると、何を話したらいいのでしょう。
と、同情はしましたが、医師としては明日までは何も話さないでほしいとおもいます。
30話です。
パウル君目線です。
お父様が語れなかった部分が入ってきました。
でも、若者なので表現がおとなしめですね。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
では、また、次で。




