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月光の姫と信望者たち  作者: 山之上 舞花
第2章 女神様の愛し子になってから
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従兄話 ローラントの思い

私はいま、フォングラム公爵家の自分用の客間に戻ってきたところだ。ソファーに腰かけると背もたれに体を預けて、息を吐き出した。本当なら、オスカーとミルフォードのところにすぐにも行きたいところだけど、少しは二人で話す時間をあげないとね。


このひと月。・・・なんということだ。まだひと月しか経っていないのか。あまりにもいろいろと起こり過ぎてこのひと月が倍の2カ月にも3カ月にも感じるじゃないか。


目を瞑った私の脳裏にはサンフェリス国で起こったことから、セリアテスに起こったことまでが浮かんできていた。私は知らず拳を握っていた。


女神様は残酷だ。


今回こちらに来る道中に母が話してくれたあの話は、私にはどうにも胡散臭くて本当のことに思えなかった。だけど、セリアテスが『愛し子』に選ばれた日の夜、オスカーとミルフォードが危険を冒して、大人たちの会話を立ち聞きしに行った。そうしたら神官長だけでなく、女神様まで現れたそうだ。といっても、姿を現したのではなくて、声を届けてきただけだったそうだけど。


オスカー達の話では女神様はとても祖父のことを信頼なさっているみたいだ。でも、おかしいだろう。なんで神官ではなく、祖父なんだ。


いや、これが母の話の証明なのだろう。


それでも思ってしまう。


何故、セリアテスには『愛し子』として加護を与えて、ロデリックとマーカスのことはお見捨てになったのか、と。


サンフェリス国はそこまで重要ではなかったからなのだろうか。


なのに、何故、我が国を第2に格上げするようなことを言ったんだ。第2が途絶えたと言われたというけど、第2(・・)ちゃんと(・・・・)ある(・・)じゃないか。


女神様が考えていることがわからない。


それよりも第7の後継国がどこなのか、明らかにしてもいいはずだ。それをしないということは・・・。

それに、何故、リングスタット国に利するようなことばかりするのか。

・・・それも違うか。リングスタット国ではなくて、フォングラム公爵家に利するようなことを・・・。


考えが堂々巡りになってきた。


私は祖父のことは好きだけど、陛下や父が言うほど素晴らしい方だとは思えなかった。確かに祖父と話すのは面白いし、いろいろなことを知れて楽しい。そういった意味では尊敬をしていたのだと思う。だけど、母の話を聞いてから、どうしても祖父のことを前のように思えないことに気がついていた。


セリアテスを守るために、守護騎士になると決めたオスカー。私にはオスカーが何を思ってそういう考えに至ったのかわからない。だけど、必要なことなのだろう。


我が弟ながらオスカーは天才なのではないかと思う。私と4歳差があるのに私が学んでいることを、理解できているのではないかと思う時があるのだ。だけど、オスカーは私を立てることを忘れない。自分が表に立たないように、力を抜いているようだ。


本当ならオスカーが将来国王になったほうが国が発展するのかもしれない。でも、オスカーは絶対私が生きている限りは国王にはならないだろう。そこだけははっきりと断言できる。


ああ、駄目だな。やはり私には祖父が考えていることも、弟たちが何を思っているのかもわからない。


だけど・・・大人は信用できない。

これはわかる。


可愛い、可哀そうな、私の従妹、セリアテス。


記憶を失くす前から、君はとても優しい子だったよ。それでも自分を押し殺して、高位貴族らしくあろうとしたね。まだ7歳なのに。君に何がそうさせたのかわからないけど、私達は・・・私は、その努力する姿に頭が下がったよ。小さな君のその頑張りが、私もと、奮い立たせてくれたんだ。


記憶を失くしたのがよかったのか悪かったのかはわからない。でも、これからの君がどうか幸せになれるように、私は祈ろう。


困難が待ち構えていることはわかっているだろう。それでも、自分の使命として、潔いまでに受け入れた君だもの。乗り越えられると信じているよ。


私は君のそばにはいられない。でも、サンフェリス国からいつでも支援の手を伸ばせるようにしておくからね。


・・・

ああ、そうか。だから、オスカーは君の守護騎士になったのか。私やクラーラが自国で動けないのを歯がゆく思わないように、弟である自分がそばで君を守るということで、私達も安心させてくれようとしたのか。


本当に我が弟ながらどこまで先を見通せているのか。


あと、どれだけセリアテスのそばにいられるのかわからないけど、国に帰るまで、セリアテスのことを甘やかしてやろう。離れていても頼りになるお兄ちゃんがいると、覚えこませておこう。もちろんミルフォードにも。


さて、そろそろいいかな。オスカーとミルフォードに会いに行こうか。


私が立ち上がった時に扉をノックする音が響いた。私は声をだし、そして、訪ねてきた彼らのことを笑顔で迎えたのだった。



304話。


閑話です。

今回はローラント目線になります。


書いていて、泣いてしまいました。

彼のいろいろな思いが溢れてきた回でした。


ここまでお読みいただきましてありがとうございます。

また次話で、会いましょう。

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