20-7 間違いに気づいたのに・・・
クラーラお姉様の言葉に令嬢方の顔色が変わりました。口々にお姉様に言い出しました。
「クラーラ様、いくらセリアテス様の従姉だからってそれはあんまりですわ」
「そうですわ。私達はフォングラム公爵夫人に公認していただいた友人ですのよ」
「私たちはセリアテス様のことを思って言わせていただいたのです」
「セリアテス様の友人に相応しくないのは一人だけです」
「わ、私はセリアテス様のおそばにいるのにふさわしいようにと努力しております」
レイチェル、ミラルテス、クラリス、ディリーナ、オリビアの順に申しました。その様子をクラーラお姉様は冷たい微笑みを浮かべたまま見つめていました。
「あら、嫌だ。私が言った意味がわからないだなんて。本当にこんなのでセリアテスのそばに居れたものだわ。ああ、そうだったわね。厚かましさは折り紙付きだったものね」
お姉様の言葉に令嬢方はカッと頬を赤らめました。
「ひどいですわ。私たちが何をしたとおっしゃるのですか」
「そうですわ。私達はセリアテス様のことを第一に考えていますのに」
その言葉を聞いたお姉様の顔から笑みが消えました。
「よく言うわね。私が知らないとでも思っているのかしら。確かに私はこの国の者ではないわ。でもね、可愛い従妹の周りで起こっていることを知らないと思われていたなんて心外だわ。どれだけ私やセリアテスのことを馬鹿にすれば気が済むのかしら」
「待って、お姉様。それ以上は」
『言わないで』と続ける前に、お姉様は腕にすがりつく私をそっとどかすと、令嬢方を見据えました。
「本当にこのような者たちが、可愛い従妹の友人だなんて。口から出てくる言葉は嘘ばかり。主家筋の、ましてこの国で一番の高位貴族であるフォングラム公爵家の令嬢であるセリアテスを、蔑ろにしていたのは知っていてよ。それにね、あなたたちがセリアテスが怪我をしてから一度も、お見舞いに来ていないことも知っているわ。いいえ、それよりも、セリアテスが怪我をしたお茶会の時に、あなた方は何をしていたのかしら。なぜセリアテスが怪我をした時にそばに居なかったのかしら。一緒にいたはずよね」
お姉様の言葉に令嬢方は、視線を逸らして俯いてしまいました。私はこれ以上はやめてほしいとお姉様の腕を再度つかもうとしました。だけど、そばに来たローザ様とマイン様とビアンカに阻まれてしまっています。
先ほどお姉様が私から離れると、心得たようにローザ様たちがそばに来て、私のことを庇うように前に立ちました。マイン様は私の左手を握ってくださいました。
「クラーラお姉様」
私が声を出したら、ローザ様が囁いてきました。
「大丈夫よ、セリア。私達に任せておいて頂戴。セリアが自分ですることなんてないのよ」
「そうよ、セリア。この1年、セリアはよく我慢していたと思うわ。私だったらあんな子たちをそばに置きたくないもの。やさしいセリアのことだから今まで言い出せなかったのよ。大丈夫よ。クラーラ様に任せておけば、いいようにしてくれるわ」
ビアンカが少し意地の悪い顔でそう言いました。ビアンカなりに彼女たちのセリアテスに対する態度に思うところがあったようです。
でも、違うのです。私は間違えました。こんなやり方をするべきではなかったのです。
「違う・・・違うのよ」
私はビアンカとローザ様を押しのけて前に出ようとしました。でも、二人は体に力を入れて退こうとしてくれません。
「セリアおねえさま?」
隣からマイン様の戸惑ったような声が聞こえてきました。まだ左手はマイン様と繋いでいます。お姉様が令嬢方に言う言葉が遠くに聞こえています。すぐ近くにいるのに届かない。このままでは決定的な間違いをしてしまいます。
「ねえ、あなた方はどう思ったかしら。ええっと、先にお名前を教えてくださるかしら」
お姉様はビアンカと現れた3人の令嬢方のほうを向いて、名前を尋ねました。
「はい。私はリッパート侯爵家の娘、カトリーナ・ジリエ・リッパートと申します。クラーラ姫様」
「私はイリーナ・マデリーヌ・デーベレです。家は伯爵家になります」
「わ、わたくしは、マークィス子爵が娘、アデリーナ・クリエール・マークィスでございます」
令嬢方はお姉様と令嬢たちとのやり取りを目を丸くして見ていたのです。それが話し掛けられて、驚いた顔をしながらも答えていました。
「そう、リッパート侯爵家のカトリーナと、デーベレ伯爵家のイリーナに、マークィス子爵家のアデリーナね。それで、この子達の言葉を聞いてどう思ったかしら。本当の気持ちを教えていただける?」
お姉様の笑顔の問いかけに3人は顔を見合わせてから、まずはカトリーナが口を開きました。
「本当の気持ち・・・今まで私が見てきたことを踏まえてお話してよろしいでしょうか」
「ええ、もちろん」
「私から見てもそちらの皆様の態度は、日頃から目に余るものがあったと思います。主家であるセリアテス様を蔑ろにしている感じを受けていました」
カトリーナの発言を皆様は固唾を飲んで、見つめていたのでした。
295話。




