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月光の姫と信望者たち  作者: 山之上 舞花
第2章 女神様の愛し子になってから
295/444

20-6 臨戦態勢は整っていました・・・

私は図案がファリアの手によって破かれるのを、茫然と見ていました。もし、座っている私が手を伸ばしたとしても、奪い返すことはできなかったことでしょう。


ガタン


と、椅子を鳴らしてフィリナが立ち上がりました。そのままツカツカと靴音を鳴らしてテーブルを回ると、ファリアのそばに行き腕を振り上げました。


バチーン


フィリナの平手がファリナの左頬に当たりました。ファリアはしばし茫然と頬を押さえました。我に返るとフィリナに食ってかかりました。


「なにをするのよ。本性を出したわね、野蛮人」

「そうよ。こんなものでセリアテス様に取り入ろうだなんて」


ファリアに続いてオリビアも、フィリナに言いました。フィリナは令嬢たちのことをキッと睨みつけました。


「あなたは何をしたのかわかっていないのですか。この図案は私だけが書いたものではありません。セリアテス様と一緒に書き上げたものです」


フィリナの言葉にファリアの顔から血の気が引いていくのがわかりました。


「えっ、嘘・・・そんな」


そう呟いて口元に手を当てて震えだしました。そのファリアから令嬢方は一歩離れました。ファリアを庇うのではなく、逆に自分たちにまでとばっちりが来ないようにという態度に嫌気がさします。ファリアもそんな令嬢方の様子に傷ついたような顔をしています。


「あ、あなたが悪いのよ。紛らわしいことをするから。あなたがここにいなければこんなことにはならなかったのに!」


ファリアはフィリナに指を突きつけると、叫ぶように言いました。


「あらあら、これは何事かしら」


居間の扉が開いて、そこからビアンカが姿を見せました。ビアンカだけでなく3人のご令嬢が一緒です。それから、クラーラお姉様とローザ様とマイン様まで一緒に現れました。


本当ならローザ様とマイン様はいらっしゃらないはずでした。でも、私のことを心配したお二方はクラーラお姉様と王女同士の親交を深め合うという名目で、屋敷にいらしたのです。ですから、私はいらしたことは知っていてもこの時まで会っていませんでした。


居間に入ってきた皆様を見た令嬢方は、気まずそうにしています。ファリアの顔色は蒼白で、震えているのがわかります。


その様子に私はやり過ぎてしまったと思いました。いいえ。そもそも最初から間違えていたと、気がついたのです。なので、これ以上は話が進む前に止めようと口を開こうとしました。


「本当にどういうことかしら。セリアテスにローザ王女とマイン王女が来ているから、一緒にお茶をしないかしらと誘いに来てみれば。(わたくし)、今日はセリアテスにお客様が来るだなんて聞いていないわ」


一足先にクラーラお姉様が口を開いてしまいました。私はお姉様の顔を見て、これ以上は話さないでいう念を込めて見つめました。それをどう解釈したのか、お姉様は私のことを見て頷くと、にっこりと笑いました。そして近寄ってくると私の肩に手を置いて言いました。


「あなたたち、セリアテスに何をしたのかしら。私はあなたたちが常々セリアテスのことを蔑ろ(ないがしろ)にしていたことを知っているのよ。今また、セリアテスに不敬を働いていたのではなくて」

「いえ、私たちは・・・」

「そうです。不敬など働いておりませんわ」

「マダー子爵令嬢以外は、ねえ」


レイチェルとミラルテスがお互いをチラチラと見ながら、お姉様に告げました。レイチェルの最後の言葉に皆様の視線がファリアに集中しました。ファリアは口を何度も開けたり閉じたりして、やっと言葉を紡ぎだしました。


「わ、私は、そんなつもりじゃなかった、のです。セリアテス様が、お書きに、なられたなんて知らなかった、から」


切れ切れにそこまで言って、ファリアの目から涙が溢れてきました。それを見た私は椅子から立ち上がって振り向くと、お姉様のことを見つめました。


「待ってください、クラーラお姉様。これは行き違いから起こったことです」

「ああ、セリアテス。わかっているわ」


クラーラお姉様は私を優しく抱きしめると、耳元に囁きました。


「やさしいあなたのことだもの。無理にすることはないのよ。これ以上は私達に任せなさい」


お姉様は私を抱きしめたまま、声を張りました。


「まずは何があったのか話してくださらないかしら。事情が分からないことには公平な判断ができないわ」


お姉様の言葉に令嬢方が屋敷に来てからのことを説明しました。彼女たちの主観からの話です。公平を期するためか、お姉様はフィリナにも何が起こったのか聞きました。フィリナは淡々と居間で起こったことを話しました。


この間、ずっとファリアは泣いていました。ですが誰も彼女のことに構おうとしません。手巾を取り出すこともせずに、ポロポロと涙をこぼし続けていました。


お姉様は両方の話を聞き終わるとにこやかに笑いました。


「事情はよーく分かったわ。そしてあなたたちの非常識さもね。あなたたちはセリアテスの友人に相応しくないわ。私から叔父様たちに伝えますから、お帰りになってくださいな」



294話。

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