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月光の姫と信望者たち  作者: 山之上 舞花
第2章 女神様の愛し子になってから
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20-5 刺繍の図案・・・が

この方たちはどうしてこうもすらすらと思ってもいないことを言えるのでしょうか?


私は皆様の口上を表情を変えずに聞き終わりました。一応声を掛けなければなりませんよね。完全に釣り上げるためにはどちらとも取れる言葉で、でも明言はしないように気をつけないと。


でも、何か嫌です。この数日で、主におば様方からこういう時の対処の仕方は教えられましたが、騙すようで好きになれません。


でも、これが高位貴族には必要なことなのですよね。狸と狐の化かし合いではないですけど、こんなことばかりだと嫌になってしまいます。


ああ、だからお母様も、社交界では仮面をつけていらしたのね。相手に侮られないように、自分の弱みを見せないように、付け込まれないように。


私は一度瞬きをしてから口を開きました。


「皆様、ご心配いただきありがたく思いますわ。まだ数日しか経っておりませんから、わからないことだらけですけど、これから少しずつ勉強をしてまいります。ですので、大丈夫ですわ。では」


そう言ってから、私はサラエのことを見ました。


「少し喉が渇いたの。お茶をお願いして、いいかしら」

「畏まりました」


サラエが私に答えてお辞儀をしたけど、口元が緩んでいるのが見えましたよ。顔を上げた時には無表情に戻っていましたけど。流石です、サラエさん。


私はそのまま居間に向かって歩き出しました。その後をついてくる足音が聞こえます。先に言ってあったので、アロンさんも止めません。


はあ~。駄目ですね。気を抜くとまだ、さんつけをしてしまいます。必要なことだからと、さん付けを禁止されたのですが、年上の方を呼び捨てにするのは、抵抗があります。


居間の扉を開けて中に入りました。


「フィリナ、図案はできたかしら」

「セリアテス様、こちらでいかがでしょうか」


私はフィリナの隣に座り彼女が紙に書いた図案を見ました。こちらの刺繍は彼女の世界の刺繍とは少し違います。手巾やタイなどに刺繍するのはワンポイントだそうです。


私はどうせなら縁に飾りをつけたいと思ってそう言ってみたのです。母と祖母は面白そうと言ってくださいました。なので、先ずは図案を考えて紙に書いてみてから、刺繍をしてみようということになったのです。


「ええ、そうね。では色はどうしようかしら。初めてだからまずは自分のものを作ってみることにしましょう」

「そうですね。それがよろしいかと思います」


フィリナと真面目に話していたら、向かい側から声が聞こえてきました。


「セリアテス様、どういうことですの。何故、そのようなものをおそばに置いていらっしゃるのかしら」

「そうですわ。セリアテス様には私達がいますのに」


顔を上げるとイェネヴァイン侯爵令嬢レイチェルとライヒェン侯爵令嬢ミラルテスが私達を・・・いいえ。フィリナを睨むように見つめていました。もちろん、他の四人の令嬢たちも同じように見つめてきました。


「おかしいかしら。フィリナは私のお勉強を手伝ってくれると、約束してくださったからここにいるのよ」


私は軽く首を傾げながら瞬きをしてから、令嬢方のことを見つめました。令嬢方は私の様子に微かに頬を染めてボーと見つてきました。すぐにハッとした顔をして、「コホン」と咳ばらいをしました。


「それでしたら、そんな子ではなくて私たちがお手伝いいたします」


デルフォート伯爵令嬢クラリスが自分の胸を叩くように手を置いてそう言ってきました。


「私たちはセリアテス様のおそばにいましたもの。その子はセリアテス様のことを何も存じ上げてませんわ。私達のほうがお役に立ちます」


エルセルム伯爵令嬢ディリーナも胸を張るようにそう言いました。


「どうかお考え直しください、セリアテス様。セリアテス様にお怪我をさせたようなものをおそばに置くのは危険です」

「そうですわ。大体スクワーレ伯爵家は平民上がりの家です。セリアテス様のおそばに寄れるようなものではございません」


ツェロット子爵令嬢オリビアとマダー子爵令嬢ファリアも続けて言いましたけど、私はその言葉に目を見開きました。


一度視線を下に向けた後、きっと令嬢方を見据えました。


「それは、私のことを馬鹿になさっているということですね」


私が静かに発した言葉に令嬢方は、びくりと肩を震わせました。


「なんのことでしょうか、セリアテス様」

「そうですわ。私達はセリアテス様のことを馬鹿になどしておりません」

「セリアテス様に相応しくないものがおそばに寄るなどと、あっていいことでないと言いたいだけですわ」


レイチェル、ミラルテス、ディリーナが反論をしてきました。私は眉間にしわが寄ってくるのを押さえられまま、声を固くして言いました。


「それがバカにしているというのです。私に人を見る目がないとおっしゃりたいようですわね」


私の声の冷たさに、令嬢たちが顔色を変えました。


「違いますわ。セリアテス様は騙されているのです。そこの女に」

「そうです。セリアテス様の優しい気持ちにすがって、怪我をしたことをなかったことにしようとしているだけです」

「そうよ。なによ、こんなものでセリアテス様の関心を買おうだなんて。あさましいにもほどがあるわ」


その言葉と共に向かいから手が伸びて、私の前に置いてあった図案をつかんだと思ったら、ビリビリに引き裂いてしまったのでした。



293話。

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