20-4 押しかけてきた方達・・・
お父様たちが出かけた後は、今度はお兄様たちが先生になってのお勉強です。今までに私が勉強したことのやり直しと言われてしまい、少し残念に思いました。
お兄様たちに教わったのは歴史です。この世界の世界史を教えていただきました。
その後はフィリナと一緒に、お母様たちを先生としてのお勉強です。これは女性としての嗜みとでもいうものでしょうか? お母様、カテリア伯母様、クラーラお姉様に庭に連れ出されました。もちろんマリーナ夫人もご一緒です。散歩がてら庭を歩き、大きな温室に着きました。その中に入って、花や木の名前を教えてもらったのです。それも、どこの国のものかの説明付きでした。
つまり、こういう植物にも置くことに事情みたいなものがあるのでしょう。フィリナとマリーナ夫人もこういうことには詳しくなかったようで、私と同じに感心して聞いていました。
それから屋敷に戻り、お兄様方と合流して昼食を取りました。もちろん、ここでもマナーの時間です。お母様や伯母様に、マナーはできていると褒められましたが、これは体が覚えているだけです。意味をちゃんと教えてもらいながら自分の中に収めていきます。
午後は少し休んで刺繍の時間です。フィリナと二人で図案を考えていましたら、玄関のほうが騒がしくなりました。
居間を出て玄関のほうに行くと、執事のアロンと侍女のサラエが応対をしているのが見えました。私は二人に声を掛けました。
「どうしたのですか、アロン」
「セリアテス様、お騒がせして申し訳ございません。ご予定にない方々がお見えになられまして・・・」
言葉を濁しながら、申し訳なさそうな顔でいうアロン。扉の向こうにいた方たちが、アロンの言葉に声をあげました。
「お久しぶりです、セリアテス様。私です。レイチェル・カリシュ・イェネヴァインですわ」
アロンが少し避けたので、私からレイチェルの姿が見えました。続けて隣にいた令嬢も声をかけてきました。
「セリアテス様、私です。ミラルテス・メラーノ・ライヒェンです。セリアテス様の体調が良くなられるまで、お伺いするのを控えておりましたが、昨日のことから、すぐにもセリアテス様に申し上げたいことが出来ましたの」
「そう」
私は一言だけ言いました。令嬢方は許しを得たと思ったのか、アロンを押しのけるように玄関ホールに入ってきました。全部で6名のご令嬢方。セリアテスの取り巻きと言われる友人たち。私は皆様をじっと観察しました。
レイチェル・カリシュ・イェネヴァイン侯爵令嬢は、豊かな金髪を高い位置で一つに纏め、それが縦ロールを描いています。勝気そうな青い目が私のことを見つめてきます。まあ、美少女ですよね。
ミラルテス・メラーノ・ライヒェン侯爵令嬢は赤みがった金髪です。彼女の瞳の色は薄い青、つまり水色です。彼女もここにいるのは当然と言う顔で私のことを見つめています。
それから、クラリス・マラテーア・デルフォート伯爵令嬢。彼女の髪色は茶色・・・ですね。たぶん光に透けると、金髪っぽく見えるのでしょうけど。瞳の色は黄色っぽい色です。
ディリーナ・カプア・エルセルム伯爵令嬢は、金髪と茶髪が多いこの国では珍しい、紺色の髪をしています。濃い色なので、黒っぽくも見えました。瞳の色も黒に近い紺色です。
オリビア・レシュノ・ツェロット子爵令嬢。彼女は完全に茶髪です。かなり明るい色です。瞳の色も同じように明るい茶色をしていました。
ファリア・クーリエール・マダー子爵令嬢。彼女は金茶の髪をしています。たぶん子爵家の子供にしては魔力量が多いのでしょう。キラキラと輝いています。瞳の色は緑。
私は観察を終えるとため息を吐きそうになりました。どうして皆さんはこうも同じような方達なのでしょう。あの日記に書かれていたことを抜きにしても、この方たちの性格は簡単に表情から透けて見えます。まだ7歳ということを差し引いても、こうも貴族至上主義みたいな態度を取られると、引いてしまいます。
アロンに対する態度もサラエに対する態度も、自分より格下の使用人だと思っているのが、ありありと見えました。
大体、約束もなしに突然訪ねてくるなんて、非常識にもほどがあります。
・・・いえ、前にローザ様とマイン様がお見えになられたのは、非常識ではないですよ。あれは私へのサプライズでしたもの。ちゃんと、約束があったフィリナといらっしゃいましたし、私の予定を伝えてありましたもの。
だから、非常識ではありません!
私がそんなことを考えているとは思わない令嬢方は、顔を見合わせるとレイチェルに促されてクラリスが口を開きました。
「セリアテス様、お忘れかもしれませんが、クラリス・マラテーア・デルフォートです。これからセリアテス様の記憶が戻るようにお手伝いいたしますわ」
「セリアテス様、ディリーナ・カプア・エルセルムでございます。私たちがおそばにいます。何なりとお聞きくださいね」
「オリビア・レシュノ・ツェロットでございます。ご尊顔を拝し奉ることが出来て光栄にございます」
「ファリア・クーリエール・マダーですわ。セリアテス様のお力に必ずなりますわ」
皆様の言葉に私は、背筋が寒くなりました。
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