20-2 運動はみんなでしましょう・・・か?
マリベルからグラスを受け取り中身を飲み干した私は、部屋を出て1階に降りていきました。1回のホールにはもうお兄様たちが待っていました。
「おはようございます、お父様、お母様」
『おはよう、セリア』
「おはようございます、おじい様、おばあ様」
『おはよう、セリア』
「おはようございます、ジーク伯父様、カテリア伯母様」
『おはよう、セリアテス』
「おはようございます、クラーラお姉様、ローラントお兄様、オスカーお兄様」
『おはよう、セリアテス。今日も可愛いわ』
「おはようございます、ミルフォードお兄様」
「おはよう、セリア」
皆様にあいさつをする様子を、隣でスクワーレ伯爵家の皆様が驚いたように見つめています。
私もね、皆様にいちいち名前付きで挨拶するのはめんどくさいのですよ。でも、私が皆様にまとめて挨拶をして、お兄様だけお名前を呼びましたら、クラーラお姉様が拗ねてしまいました。それに合わせて、おじい様とおばあ様まで、孫から呼んでもらえないのはさみしいなどと言われてしまいまして・・・。なので、こういうことになったのです。
私はスクワーレ伯爵のほうを見つめました、スクワーレ伯爵が私にあいさつをしてくれました。
「おはようございます。セリアテス様」
伯爵の言葉に合わせて、マリーナ夫人もフィリナもソニックも軽く頭を下げられました。ユレイナちゃんは夫人の腕の中にいないので、きっと部屋で乳母の方と待っていることでしょう。
「はい、皆様もおはようございます。昨夜は休むことが出来ましたか」
「お気遣いありがとうございます。十分休ませていただきました」
昨日、スクワーレ伯爵はお父様と共に王城から戻られました。フィリナはもちろん私と一緒でした。マリーナ夫人とソニックとユレイナちゃんは、午後に当面の荷物と共に我が家に来ました。
私の提案通りに我が家に来ていただいたのです。最初は迎賓棟に部屋を用意するつもりでしたが、スクワーレ伯爵に辞退されました。なので、使用人棟の中で最近新しく作ったものを、スクワーレ伯爵家に使っていただくことになったのでした。そのことにも、すごく恐縮なさっていましたけどね。
でも、うちの家族がそんなに甘いわけないじゃないですか。これからフォングラム公爵家とつき合うのに相応しい立ち居振る舞いを、一家でしてもらわなくてはいけないんですよ。私でさえマナーの時間は逃げ出したくなるくらいに、おば様方は怖いのです。やんちゃな感じのソニックに耐えられるのでしょうか。
さて、お父様たち男の方と私達子供は、皆様動きやすい恰好をしています。私が自分の体力作りのために、朝屋敷の周りを走ることに決めたと言いましたら、お兄様方も一緒に走ると言ってくださいました。それにお父様たちも参加してくださるそうです。最近はあまり体を動かす機会がないとおっしゃっていらっしゃるから、子供につき合って運動を始めるのはちょうどいいのでしょう。
お母様たちも一緒に運動をしようとなさいましたが、お父様たちに止められていました。カテリア伯母様は不満たらたらの顔をなさいましたけど、ジーク伯父様に懇願されて諦めたのです。そうでないとマリーナ夫人も一緒に運動をしかねないから、という理由でした。マリーナ夫人はユレイナちゃんの出産後体調を崩しがちだそうです。そんな方に無理はさせられません。でも、伯母様や母が運動に参加しているのに、自分だけ参加しないのは、と気にされるだろうということでした。
屋敷の前に移動して皆様と軽いストレッチをしました。フィリナとソニック、スクワーレ伯爵も見よう見真似で、体を動かします。
「では、皆様、準備はいいかしら? 無理はしないのよ。ソニックは一応1周することを目安になさい。セリアテス、クラーラ、フィリナは2周。その他は自分たちで決めること。リチャードも、そろそろいいお年なのだから、ほどほどでやめなさいよ」
おばあ様が皆様に言いました。そうなのです。おじい様も一緒に運動なさるそうです。
「では、はじめ」
おばあ様の合図で皆様走り始めました。あっ、そうそう。サンフェリス国の近衛騎士の皆様と、うちの騎士たちも何人か参加しています。最初の1周目は皆様は私に会わせてゆっくりと走っていました。でも、大人の方達はゆっくり過ぎて、逆に走りにくそうです。
一周目を過ぎたところでクラーラお姉様がファラントに言いました。
「ファラント、そろそろ、本気を、出したら、どう、かしら」
はっはっと、息をしながらなので、切れ切れの言葉です。
「いえ、私は護衛が任務ですから」
「この、フォングラム、公爵、邸に、誰が、入り、こむと、いうの。それより、も、サンフェリス、の、騎士が、どれほどの、ものか、見せつける、気は、ないの、かしら」
この言葉に、うちの騎士たちが色めき立ちました。サンフェリス国の近衛騎士たちに後れをとるつもりはないようです。騎士たちは目を見かわし合うと、お父様のことを見つめました。お父様が頷くより先に、声をあげた人がいました。
「そうじゃな。ではわしも本気でいくかの」
そう言うとおじい様は集団の中から抜け出して、ダーッと走って行ってしまいました。
290話。




