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月光の姫と信望者たち  作者: 山之上 舞花
第2章 女神様の愛し子になってから
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友人の父話 スクワーレ伯爵の苦悩 2

それがどうしたことだろう。セリアテス様が目覚められたら、すべてのことが杞憂に終わったのだ。


セリアテス様が目覚められたと聞いた時は、安堵すると共にこれから娘に課せられることを思うと、悲嘆にくれたものだった。だが、とにかく謝罪をと王宮に通い詰めたおかげで、王妃様に娘は気にかけて貰えて、無事にセリアテス様にお会いすることができたのだった。


この時に娘はセリアテス様からありがたいお言葉をいただき許された。それだけでなく私はフォングラム公爵に謝罪され、それと共に仕事場を移動をしてフォングラム公爵の下で働くことになった。最初はフォングラム公爵の下は過酷な職場(ところ)と聞いていたから、謝罪は嘘でこれは私に下された罰なのかと疑ったりしたのだ。だが、働き始めてすぐにそのようなことはないと分かった。


フォングラム公爵は我が国の外交を担っている方だ。老獪な大使たちとも対等に渡り合っている。その下にいる者達も、フォングラム公爵同様一筋縄でいくような方々ではなかった。なんといっても実力至上主義で、身分などにはこだわらない。それぞれに専属の書記官がいるが、中には貴族ではない者もいた。大概はその方の昔からのなじみの者達だそうだ。


私はここに移ってからフォングラム公爵と共に過ごすことが多かった。各国の大使の顔は知っていたが、身分的にも立場的にも、話をする機会はなかったのだ。それが、フォングラム公爵に従って大使たちと会うと、私のことを紹介されて・・・。


最初はセリアテス様が新たな「アラクラーダの神子」ではないかという噂から、『セリアテス様に怪我を負わせた者の親』という冷たい視線だった。それが、娘がセリアテス様に気に入られたことと、フォングラム公爵が必ず私を同席させるということから、大使たちの視線が変わってきた。


セリアテス様が女神様に「愛し子」と言われてからは、尚更だった。セリアテス様に近づけさせようとしないフォングラム公爵ではなく、セリアテス様のお気に入りの()()の私に、セリアテス様との繋ぎ役を頼もうとする者達が表れたのだ。私はそんなことはできないと申し出を突っぱねていた。



昨日、フォングラム公爵家に招待したいと公爵に言われて、私は困惑した。セリアテス様に怪我を負わせた代償として、娘はセリアテス様の勉強を手伝うことになっていた。だけど、セリアテス様のお立場が変わってしまわれたので、この話はなかったことになるのだろうと思っていた。


セリアテス様のお立場なら、同じ公爵家のいとこのビアンカ様がいらっしゃるし、なんといってもローザ王女殿下とも仲のいいご友人だと聞いている。成り上がりの伯爵家の娘である我が娘では、おそばにいるのはふさわしくないと言われるのだろうと思った。


屋敷に戻り私からこの話を聞いた娘は「私はセリアテス様の意思に従います」と、決意を秘めた目で答えた。この時もう少し娘とよく話をしておけばよかったと、あとから後悔することになるのだが、娘は何を言われても動じないようにすると決めたのだろうと、深く考えなかったのだ。


先ほど言われたフォングラム公爵の言葉で、娘はセリアテス様にすべてを捧げる覚悟を決めているのだと、思い知らせれた。真摯な表情で公爵のことを見つめる娘。揺るぎない決意がその顔から窺えた。


二人の間に何があったのか・・・。


娘がそこまで決意するほどの時間を過ごしたとは思えないが、私は娘が決めたことを邪魔することだけはすまいと決め、それを言葉にした。私の言葉にセリアテス様は安堵し、公爵も私の家族の安全を保障すると言ってくださった。私は大げさなと思ったのだが、うちにはまだ4カ月になったばかりの幼い娘もいる。家族が安心して暮らせるのならと、公爵の厚意に感謝することにした。


子供たちは別の部屋に移動して大人達だけになったところで、前フォングラム公爵のリチャード様が話しだした。


「スクワーレ伯爵、君が最善の決断をしてくれてうれしいぞ。これからセリアテスのために全力を尽くしてほしいものじゃ」


ニコニコと邪気のない好々爺の顔で言われたが、さすが前任の外交官筆頭。視線には鋭いものがあった。


「息子から聞いておるよ。そなたはこのひと月息子に附いて、各国の狐狸共と渡り合っていたのだろう。なかなか見所があるそうじゃな」

「い、いえ、そのようなことは・・・」


知らず冷や汗が噴き出してきた。リチャード様にこんな威嚇を受けるようなことはした覚えはないのだけど・・・。


「まあまあ、父上。ジョルジュは本当に見所がありますから。娘のフィリナ嬢共々セリアの力になってくれることでしょう」


笑顔でフォングラム公爵が言われたけど、その視線はまるで捕食者の目だった。どうあっても私のことを逃すつもりはないと、語っていた。


私は今更ながらに、早まった真似をしてしまったのではないかと思った。


そこに私たちをこの部屋に案内してくれた執事が部屋に入ってきた。


「旦那様、セリアテス様からのお言葉でございます。『これからしばらくの間スクワーレ伯爵家の皆様には、フォングラム公爵家にご滞在いただきたい』 だ、そうでございます」

「セリアテスがそういったのか」

「はい。セリアテス様とスクワーレ伯爵はこれからいろいろなことを決めなければなりませんが、伯爵は王宮での仕事もおありになるので、話をするのもままならないのではないかとご心配なさっておいでです。こちらに滞在いただければ『話し合いをするのに困らないだろう』と、いうことにございます」

「そうか、セリアが。・・・それならそうしてもらおう。いいね、ジョルジュ」


フォングラム公爵の言葉に、私はただ頷くしかなかったのだった。



279話です。


かなり苦悩なさってますね、スクワーレ伯爵は。

いつか報われる日は来るのでしょうかね?


では、また次話でお会いしましょう。

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