18-5 フィリナ様に目指してもらうもの
私の提案を受けてくださったフィリナ様。私のことを信頼してくださっているから、受け入れてくださったのですよね。
私がフィリナ様とのことを考えたのは、次の通りです。
フィリナ様と私は王妃様のお茶会がなければ、今の時点では知り合うことはありませんでした。そして不幸な事故のせいでフィリナ様の立場は貴族社会でまずいものになりました。前のセリアテスなら自分に怪我をさせた相手としてフィリナ様をいじめたことでしょう。あの、ゲームの世界のセリアテスならそういうことをしてもおかしくありませんでしたもの。
ですが、現実には私に許されて、その話は美談として貴族社会に伝わったと聞いています。このままなら話は済んだはずでした。
なのに、私は女神様に「愛し子」と呼ばれる存在になってしまいました。それがどのような影響を与えるのか。今はまだわかりません。
でも、王宮で行われた私のお披露目会での、私の友人(という名の取り巻き)たちの態度で、このままフィリナ様を私のそばに置くことはできないと悟りました。
私はフィリナ様が好きです。最初はスクワーレ伯爵がおっしゃったように、高位貴族の娘である私に怪我をさせたことを気にしての行動だったのかもしれません。でも、接していれば人柄はわかります。フィリナ様は貴族としては裏表のない方です。これは下位から上がってきた貴族家の特徴かもしれません。
私には好ましい性格ですが、これから私のそばにいるには、やっていけなくなってしまうかもしれません。私だって、貴族たちがお得意の腹芸が出来るようになるとは、今はまだ思えませんがやるしかないと思っています。
私がこれから勉強の一つとしてそういうことも学ぶのなら、フィリナ様にも一緒に学んでもらえばと思いました。
だけど、それをするには時間が少なすぎます。毎日フィリナ様にうちに通っていただいたとしても、朝の10時くらいから夕方の4時くらいまでの、6時間が一緒にいられる時間でしょう。これでは本当にただの勉強しかできません。
あと、フィリナ様の気持ちを汲むのなら、私のそばにいるのが当たり前の理由も必要です。
ここで私は、私つきの侍女と紹介されたマリベルのことを思い出しました。あの時、子供だけで動かなければならない時と言って紹介されたのです。たぶんそれは学園に入ってからの事ですよね。ならば、マリベルはただの侍女ではないはずです。護衛と紹介されたポールには劣るでしょうが、それでも私を守る力を持っているはずです。
ならば、何とかしてその力をフィリナ様に教えることが出来ないかと考えました。
そして見つけました。フィリナ様が私のそばにいられる道を。それを示してくれたのはローゼンメラー様。彼女が女性でも騎士になれると道を作ってくださっています。
だから、フィリナ様にも女性騎士になることを目指してもらうことにすれば。
これは、私のわがままです。それにフィリナ様が望まぬ道を押し付けることにもなります。それでも、フィリナ様がその道を受け入れてくれたらと思いました。
気持ちを決めた私はお父様と話し合いました。おじい様も話に加わり、最後にはカテリア叔母様たちまで私の話を聞いてくださいました。最初は驚かれました。フィリナ様をうちに引き取って私と共に教育をするということに。でも、話を聞いたクラーラお姉様が賛成してくださいました。
『普通の令嬢であるフィリナが女性騎士を目指すということは、フォングラム公爵家が与えた罰に見えることでしょう。だけど、学園に入るころには名実ともに、セリアテスの騎士の一人になり周りは何も言えなくなっているはずですわ』
と、言ってくださったのです。
この言葉にお父様は考えてくださいました。父親のスクワーレ伯爵はお父様の下にいるには惜しい人材だとおっしゃいました。数字に強い方なので、それを生かせる仕事をさせたいと。それならばと、私から提案したのが先ほどお父様がおっしゃったことです。
スクワーレ伯爵夫人はまだ不安そうにフィリナ様のことを見ています。夫人にお母様が話しかけました。
「スクワーレ伯爵夫人、フィリナ嬢のことはちゃんとお預かりいたしますわ。どこに出しても恥ずかしくない淑女にして見せますの。どうか安心してお預けくださいな」
母の言葉に夫人の頬に赤みが差しました。羞恥によるものですよね。夫人はあまり貴族の作法に厳しくない家の出だったのでしょう。もしかしたら、そういうことが苦手だったのかもしれません。
「あ、あの・・・む、娘をよろしくお願いいたします」
夫人は慌てて頭を下げましたけど・・・お母様、緊張なさっているのはわかりますが、無表情で言われますと威圧感を与えていますよ。夫人は必要以上に委縮なさってしまいましたから。
お母様もまずいと思ったのか、夫人にいいました。
「それにこれからは我が家にいらしてくださいね。フィリナ嬢と会うことはもちろんですが、私とも仲良くしていただけると嬉しいですわ」
「そ、そんな。私などがフォングラム公爵夫人と仲良くだなんて。恐れ多いことでございます」
夫人が顔色を青ざめさせてそう言いましたら、お母様は目に見えて落ち込まれました。お母様はもしかして新しい方とのお付き合いを望んでおられたのでしょうか?
お母様の様子に夫人が小さく「あっ」と言われました。それから恐る恐るという感じに言われたのです。
「あ、あの、お邪魔でなければ、来させていただいてもよろしいでしょうか」
その言葉に顔を上げたお母様はとてもうれしそうに微笑まれました。夫人は呆けたようにその顔に見惚れていました。
お母様、何かのフラグを立ててませんよね?
272話です。
スクワーレ伯爵家との話はあと少し。
お付き合いくださいね。




