18-2 お父様とスクワーレ伯爵
お父様とスクワーレ伯爵は少し遠い目をしています。私は本当に申し訳なく思いました。私が各国に公平になるようにと考えたことで、お父様たちに負担を強いるのです。
「あの、お父様、スクワーレ伯爵様も、私の提案のせいでご負担をおかけします」
軽く頭を下げてそう言いましたら、スクワーレ伯爵は慌てておっしゃいました。
「何をおっしゃいます、セリアテス様。セリアテス様のご提案は理にかなっておりました。それに沿うようにするのは我らの仕事です。セリアテス様が気に病むことではございません」
スクワーレ伯爵は一度言葉を切ってから真剣な眼差しを向けてきました。
「セリアテス様、私はあなた様に本当に感謝をしております。娘がしたことを許してくださっただけでなく、私たち家族のことにまでご配慮いただいたのですから。マルツァーン子爵家のように制裁されても、文句は言えない立場です。それに私は娘のおかげでフォングラム公爵の下で働くことが出来るようになりました。やりがいのある仕事を得ることが出来たのは、セリアテス様のおかげです」
立ち上がって私に深々と頭を下げられました。私は何と言っていいかわからずに困ってしまいました。
「ジョルジュ、君の感謝の気持ちはわかったから、顔を上げてくれ。娘も困ってしまっているから。それよりも、今日君に来てもらったのは頼みたいことがあったからなんだ」
お父様の言葉に顔をあげたスクワーレ伯爵は真剣な顔でお父様のことを見つめました。
「それは先ほどのことに関係があることですね」
「わかっているのなら話は早い。君にはセリアテスが考案したものの、管理責任者になってもらう」
「私がですか」
スクワーレ伯爵は少し目を見開いた。驚いたはずなのに、表情の変化はそれだけでした。この方はあまり感情を表に出さない方なのでしょう。
「そうだ。今回のことはかなり特殊な事態だろう。これからセリアテスの知識がこの世界にどれだけの影響を与えるのかわからない。女神様もセリアテスを『愛し子』にすることで守ろうとなさってくださっている。予言のことも含めてセリアテスは特別な存在となってしまった」
お父様は一度言葉を切るとスクワーレ伯爵の顔をひたっと見つめた。
「ジョルジュ・サンクト・スクワーレ伯爵。君には覚悟を決めてもらいたい。君の娘であるフィリナ嬢が、セリアテスに怪我をさせたことは周知の事実だ。先ほど君が名前を出したように、マルツァーン子爵のように他の貴族達に制裁を受けるかもしれない。一応私の下で扱き使われて監視される立場だと思われているから、スクワーレ伯爵家に表立って何かをしようとする輩はいないだろう。だがこれからは違う。フィリナ嬢はセリアテスへの贖罪のためにそばにいることになるが、それは羨望の対象となるだろう。もう、王女方に目をつけられて、下僕のように使われているとも思われているからな」
スクワーレ伯爵は表情には出ていませんが、顔色は青ざめていっています。フィリナ嬢が周りからそのように思われているとは知らなかったようです。同じようにスクワーレ伯爵夫人とフィリナ様も顔色を失っています。それでも、フィリナ様はクラーラお姉さまに宣言した時のように背筋を伸ばして前を向いていました。
「娘から聞いている。フィリナ嬢はこれから他の令嬢たちから嫌がらせを受けることになっても、甘んじて受けると言っていたと。だがな、わが娘がそれを許すと思うか? セリアテスが許した相手を只人である者たちが糾弾するなど、あってはならないことだ。そのためにもフィリナ嬢にはセリアテスの友人として相応しい令嬢になってもらいたい」
お父様は宣言するように言い放ちました。スクワーレ伯爵は蒼白な顔でお父様に答えました。
「それでしたらセリアテス様のためにも、娘はおそばに寄らせないほうがいいのではありませんか。娘はセリアテス様とは、今回のことがあるまで面識はございませんでした。セリアテス様のご厚情でおそばにいることを許されておりますが、それを元通りになかったことにしていただければ、よろしいことと思います」
「お前は馬鹿か。頭がいいくせに肝心なことに気が回らんとは。フィリナ嬢がそばにいることが娘の望みだぞ」
お父様はスクワーレ伯爵の返答に吐き捨てるように言いました。どうやらお仕事の場でもスクワーレ伯爵は真面目過ぎるみたいです。
「それは・・・『女神様の愛し子』様のお言葉であれば、従わないわけにはいきません」
「だから、お前は何を聞いていたのだ。娘が、セリアテスがフィリナ嬢と共にいることを望んでいると言っただろう。フィリナ嬢はもうセリアテスのそばにいる覚悟を決めているのだ。お前は親として娘の覚悟を受け入れ、そして周りに何も言わせない実力を示す気はないのかと、私は言っているのだ」
スクワーレ伯爵はお父様の言葉を聞いて、娘のフィリナ様のほうを振りむきました。
269話です。
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