令嬢達の呟き
女神様の愛し子のお披露目会から帰った後の、セリアテスの取り巻きを自負している令嬢たちは・・・。
令嬢1 レイチェル・カリシュ・イェネヴァイン侯爵令嬢
「あ~あ、本当にいやになっちゃう。なんであんな子が『女神様の愛し子』なんかになったのかしら。私の方が『女神様の愛し子』にふさわしいのに」
自室に戻ったレイチェルは、行儀悪くソファーにどさりと座りこんだ。少しイライラした感じに親指の爪を歯で噛んだ。
本来なら自分の家より格が上であるセリアテスのことを、このように言える立場にはないと、レイチェルは気がついていなかった。
レイチェルはセリアテスの取り巻きとなったこの一年、従順な振りをしながらセリアテスのことを馬鹿にしていた。魔力が少なく平凡な髪色のセリアテスを、心の底では軽蔑をしていたのだ。セリアテスがしていた努力も無駄なことと、陰で他の令嬢達と嘲笑っていた。
「でも、いいわ。『女神様の愛し子』の友人である私は、これからみんなからうらやましがられるんだわ。フフッ。それにあんなごうまんな子がいつまでも『女神様の愛し子』でいるわけないのよ。そうよ。女神様も間違いに気がついて、私をえらぶはず。きっとそうよ。フフフッ。『女神様の愛し子』はセリアテスではなくて、私のものになるんだわ」
レイチェルは自分の考えに酔いしれた。
「そうすれば、ミルフォード様は私のことを見てくださるわ」
恋する乙女の瞳で、レイチェルはミルフォードのことを思い浮かべたのだった。
令嬢2 ミラルテス・メラーノ・ライヒェン侯爵令嬢
「ああー、もう。なんでレイチェルのほうがセリアテス様の友人のひっとうになっているのよ。私もレイチェルも同じ侯爵家なのに。セリアテス様も私達の中ではレイチェルに一番気を使っていたし。・・・でも、本当に私達のことを忘れちゃったみたいね。それなら、レイチェルより私のことを一番にしてくれるかもしれないわ」
ミラルテスは屋敷に戻り服を着替えてくつろいだ格好になると、自分付きの侍女を追い出して小さな絵姿を取り出した。それを見つめながらうっとりと呟いた。
「なんてきれいな髪だったのかしら。さすが『女神様の愛し子』様だわ。でも、私だって負けていないはずよ。フフッ。仲良くしましょうね、セリアテス様。私がミルフォード様の妻となれば、あなたは私の義妹となるのよ。私はフォングラム公爵家のためにつくしますわ」
ミラルテスは未来に思いを馳せて、ニッコリと微笑んだのだった。
令嬢3 クラリス・マラテーア・デルフォート伯爵令嬢
クラリスは家に戻ると両親と別れ自室に戻った。家に戻る馬車の中での、両親のはしゃぎっぷりに少し引いていたのだ。
「ふう~。本当に、お父様にも困ったものね。帰りの馬車の中でのはしゃぎっぷりったら。でも、気持ちは分かるわ~。それにしても、オスカー様の私を見る眼。少しあついものがあったんじゃないかしら? もしかしたら、セリアテス様のところに行っていたことで私のことをみそめてくださったとか? いやだわ、どうしましょう。隣国の王族の妻だなんて~」
クラリスはクッションを持つとベッドの上に寝そべって、クッションを抱きしめながら悶えていたのだった。
令嬢4 ディリーナ・カプア・エルセルム伯爵令嬢
ディリーナはムッとした顔のまま自室へと戻った。帰りの馬車の中での両親の言葉に腹を立てていたのだ。ソファーに座ると自分付きの侍女にきつい調子で言い放った。
「ちょっと、気が利かないわね。さっさとお茶をもってきなさいよ」
「ですがお嬢様、すぐにお夕食のお時間になります。今ここでお茶を飲まれますと、お食事に差し支えると思われます」
ガチャン
ディリーナはソファーから立ち上がると、サイドテーブルに飾ってあった一輪差しを持ち、侍女に向けて投げつけた。
「いいから早く用意をしなさい!」
侍女は一礼をして出ていった。それを見てディリーナはドサリとソファーに座った。そしてフンと鼻を鳴らした。
「本当に気が利かないんだから! それにお父様も何よ! 『気を抜くとセリアテス様の友人でいられなくなる』ですって。そんなことあるわけないじゃない。それに記憶を失くしたとか言っているけど、きっと嘘だわ。みんなだまされているのよ。でも、おあいにくさま。私はだまされないわよ。どんなからくりを使ったのか知らないけど、女神様にえらばれたなんて嘘にきまっているわ。フフッ、私がその嘘をあばいてみせるわ。でも、大丈夫よ。真実にたどりついても公表なんてしないわ。私を未来のフォングラム公爵夫人とみとめてくれるだけでいいんだから」
ディリーナはその先のことを思い浮かべてにっこりと笑った。
令嬢5 オリビア・レシュノ・ツェロット子爵令嬢
オリビアは屋敷に戻ると、両親とともに執事や侍女たちに、自分の友人のセリアテスが、どれだけ素晴らしいかを話した。この時に、他の令嬢方に羨望の眼差しを向けられたことを付け加えるのを忘れなかったのだった。
令嬢6 ファリア・クーリエール・マダー子爵令嬢
王宮から屋敷に戻り、そのまま自室に戻って服を着替えたファリアは、ハア~と息を吐き出した。それを見て彼女付きの侍女が話しかけた。
「お疲れのようですね、お嬢様。もうしばらくお夕食の時間までありますから、ごゆっくりなさってくださいね」
「ありがとう、メルダ」
ファリアがソファーに座るとメルダは、グラスにオレンジジュースを入れて置いた。
「ところでいかがでしたか、王宮は」
「それが人が多くて多くて。あれじゃあセリアテス様もおつかれになられたと思うわ」
「まあ、そうでございましたか。お嬢様がセリアテス様を案じていらっしゃることが伝わっているとよろしいのですけど」
「メルダ、私のきもちがセリアテス様に伝わらなくてもいいのよ。セリアテス様がご無理をなさってなければいいのだけどね」
ファリアは天使のような笑みを浮かべてそういった。侍女が下がって一人になるとファリアは独り言をつぶやいた。
「私があんな子のことをあんじるわけないじゃない。フォングラム公爵家の娘じゃなければ、なかよくする気もおきないわ。これからはせいぜい『女神様の愛し子』の友人というたちばを利用させてもらうわ」
ファリアの口元に笑みが浮かんだのだった。
267話です。
読んでくださりありがとうございます。
これからまた、ペースを上げて続きを書いていこうと思っています。
これからもよろしくお願いいたします。




