兄話3-20 優越感
次に僕はメレンゲを持った。セリアテスの説明が終わり差し出したら、またパクリと食べてくれた。だけど今度はセリアテスもメレンゲをつまんで僕に差し出してきた。僕が口を開けたら、口の中に入れてくれたんだ。
目の端に歯噛みしているカークライト王子の顔が見えた。
「さっきよりおいしいね」
「本当ですね。やはりメレンゲは出来立ての方がおいしいです」
セリアテスがうれしそうに答えたから、僕もニッコリと笑っておいた。
次はプリンを持った。小さな容器に分けられて、上からカラメルがかかっていた。
スプーンにプリンを乗せるとセリアテスに差し出した。だけど今度は口を開けてくれなかった。
「セリア、あ~ん」
「あ~ん」
そう言ったら、つられたようにかわいい口を開けてくれた。口の中にスプーンを入れると、パクリとくわえてきた。スプーンを引き抜きながら、また雛鳥を連想して笑いそうになった。
意識を切り替えるためにセリアテスにスプーンを渡した。セリアテスがプリンをすくうと差し出してきた。
笑いを堪えている僕は口を開けることが出来なかった。そうしたら。
「お兄様、あ~ん」
とセリアテスが言ってきた。僕も「あ~ん」と声を出しながら口を開けた。口の中に入ったプリンは今まで食べた中で一番美味しかった。
「プリンも美味しいね」
僕はそう言ってセリアテスに笑いかけた。視界の中に王子達が見えた。僕は口角があがるのを抑えられなかった。なので、逆にいい笑顔を彼らに向けることにした。僕の笑顔を見た見た王子達は、ムッとした顔をしている。アルザスと目が合った。彼はニヤリと笑ってきたのだった。
最後に残った黒い棒のようなもの。どうしていいか分からずにセリアテスのことを見た。セリアテスはその棒をつまみあげて説明をした。説明を終えると口の中に入れた。長さは5センチくらいだろうか。ポリッといい音をさせて、半分くらいかじっていた。
僕も食べてみようとお皿に手を伸ばしたら、セリアテスが動いた。考える前に手が伸びてセリアテスの腰に手を回していた。セリアテスは後ろに下がろうとして台から落ちかけたんだ。とっさに手が出て良かったと思った。
「あ、りがとう、ございます。お兄様」
「大丈夫かい、セリア。どうしたの。何か驚くようなことでもあったのかい」
セリアテスがちゃんと立てるようにしながら、僕はそう言った。セリアテスは台の幅を考えずに下がろうとして落ちかけたと言った。けど、これは違う気がする。
でも、それは今はいい。また、セリアテスが緊張し過ぎないようにしないと。
視界にこちらを見ている王子達の姿が目に入った。セリアテスが台から落ちかけたのを目撃したようだ。少し心配そうに見つめていた。
セリアテスが律儀にも支えたことのお礼をすると言ってきた。お礼は要らないといいかけて、ふと閃くものがあった。セリアテスはまだ、食べかけのかりんとうを持っている。それをもらうことにした。
セリアテスにそう言ったら困惑の表情をされた。でも僕が「もう食べないんだろう。残すのなら同じだよね」と言っても、まだ困った表情のままだった。
皆にお茶が配られているのが見えたから僕は台から降りた。セリアテスも台から降りてきた。セリアテスの身長はちょうど演台に隠れるくらいだ。
僕は視線が演台とスレスレ位だから、周りからは見えないだろう。
「あ~ん」と僕が口を開けたら、躊躇いながらもセリアテスは、僕の口の中にかりんとうを入れてくれた。噛むとカリッカリッといい音がした。ゴクリと飲みこむと、僕はまた笑いかけた。
「面白いね、これ。それに美味しいし。セリアが教えてくれたものはどれも美味しいよ」
僕がそう言ったらセリアテスは微かに頬をピンク色に染めた。そして、自分だけの功績ではないと言ってきた。
本来ならセリアテスは公爵令嬢なのだから、このレシピを料理人に渡して作らせればいい。それで違うものが出来上がったのなら、セリアテスが欲しいものが出来るまで、何度でも作らせればいいだけだ。
これが貴族らしい考え方だろう。他の貴族家でもそうだと、噂に聞いているもの。
でも、セリアテスはそれだけでは満足できずに、完成するまで付き合っていたそうだ。それに料理人の話では失敗と言っても些細なことだったらしい。プリンのすが入ったとか、メレンゲを焼きすぎて焦がし気味になったとか、このかりんとうは艶がないとか言っていたのを、父達に報告されていた。完全に失敗して食べられなくなることはなかったはずだ。
それでもセリアテスは失敗したものを使用人が食べてくれて申し訳ないと眉をハの字に下げていた。それに対して僕が口を開くより早く、そばにきたクリスがセリアテスに新しいものを先に食せて光栄だと言った。
クリスは手にお茶を持っていた。席を用意したと言ったけど、その席を見たセリアテスは少し眉を寄せた。そして何を思ったのか、さっきまで立っていた台に座ってしまったんだ。僕も同じように隣に座ったら、嬉しそうに笑ったのだった。
253話です。




