兄話3-8 妹が言う、選ばれた意味
セリアテスの話はそれだけではなかったんだ。僕達が暮らすこの世界は物語の世界だと言ったんだ。
ああ、違う。セリアテスは『物語に似た世界』と言ったのだった。
僕達は混乱した。父や祖父でさえ困惑の表情を顔に出していた。こんなに表情が出る二人も珍しいと思う。
それからセリアテスは自分が女神様に「愛し子」に選ばれた理由を話していった。セリアテスが一生懸命考えた推測だと思うけど、納得できるものだった。
だけどそれが、その言葉がこれから起きるかもしれないことすべてを引き受けようとする、セリアテスの覚悟のように見えて仕方がない。母も心配そうにセリアテスのことを見ていた。
その覚悟を表すように言われた言葉。
『私のこの髪の色は女神様と同じ色です』
息をのんだのは誰だったのか。僕は唇を噛みしめて、セリアテスに自分の変化が判らないようにすることが、精一杯だった。幸いにもセリアテスは、母の方を向いたあとすぐに父達に視線を向けたから、僕のことは気付かれなかった。
オスカーの方を見るとまた、そっと合図を送ってくれたんだ。うん、大丈夫。僕にはオスカーがいる。
それよりも、今はセリアテスのことに集中しよう。
セリアテスは父と祖父に訴えかけるように話していった。まるで二人を説得するのが、一番の早道だとでも云うように。やはり父より祖父の方が百戦錬磨のようで、祖父の圧力にセリアテスの身体が震えだしてきた。祖父に気圧されかけたセリアテスを、勇気づけたくてセリアテスの左手をギュッと握ったんだ。
それと同時に祖父の顔をジッと見つめた。祖父が何を思って、セリアテスに圧力を加えるのか分からない。分からないけど、少しでも祖父の真意を読み解こうと、僕は見つめていたんだ。
そうしたらセリアテスが僕の手を握り返してきた。セリアテスは引きつったような笑いを口元に張り付けていた。そんなセリアテスに僕は安心させようと、穏やかな笑みを口元に浮かべたんだ。そうしたらセリアテスも微笑み返してくれた。少し前とは違う、かわいらしい笑みだった。
少しでもセリアテスの力に慣れたのならいいと思ったのだけど、次にセリアテスが言った言葉に僕は息を止めそうになったんだ。
『私が女神様の代弁者である証だからです』
やはりセリアテスは、これから起こることの責任をすべて引き受けるつもりなんだと思った。
セリアテスの顔を見たら、祖父のことを見つめていた。祖父はセリアテスに何かを言おうとして口を開けたけど、結局何も言わずに口を閉じてしまった。
セリアテスの話は続いた。セリアテスが云う『物語』と、この世界の相違と相似についてだ。
もっと驚いたことにその『物語』の中にセリアテスの名前も出てくるというんだ。今まで断片的に聞いていた、魔物の大量発生が起こる『物語』の中にセリアテスが。
気がついたらセリアテスの手をギュッと握りしめていた。反対の手も母に同じように握られているのが見えた。セリアテスも僕の手を(きっと母の手も)握り返してくれたんだ。口元も少し微笑んでいるように見えた。けど、視線は向かいに座る父達の方を見ていた。
父は祖父とジーク伯父上と小声で話していた。もしかしたら、魔法を使っているのかもしれない。こんなに近くに座っているのに声が聞こえてこないからだ。
しばらく待ったけど、話しが終わりそうにないから、僕は父に声を掛けた。
「父上、まだセリアの話は終わっていませんよね。全部聞いてからにしていただけないでしょうか。それでセリア、その物語はどういう内容なの。もしかして僕達も出てくるのかな」
セリアテスが今までに話してくれた『物語』にセリアテスがでてくるのなら、僕が出てきてもおかしくないだろうと思って聞いてみた。結果は・・・期待通りだった。僕も出てきたそうだ。
物語はセリアテスが15歳の時に、学園に主人公なる人物が編入してきてスタートするという。僕はセリアテスと3歳違うから学園を卒業しているけど、魔法の訓練のために学園に行っていたそうだ。それから他の登場人物は王子達も出ているそうなんだ。あと、名前はあげなかったけど、侯爵家嫡男と騎士団長嫡男、魔術師長の秘蔵っ子とかいうやつに、学園の担任教師もいたらしい。
もう少し詳しく訊きたかったけど、いまは話しが進まなくなるからと、後でということになった。
父達は僕とセリアテスの会話に耳を傾けて、会話に入ってこようとはしなかった。セリアテスも僕との会話なら緊張せずに話せるみたいだったからだろう。
話しはセリアテスが一番聞きたいことに移っていった。
それは魔物を消し去ることが出来る魔法、光魔法の「聖光」についてだ。
訊かれた父達は顔を見合わせていた。祖父でさえ知らないようだった。セリアテスの顔に絶望の表情が浮かんだ時に、祖母が言った。
『セリアテス「聖光」という魔法はあるわよ』
その言葉にセリアテスは安堵していたのだった。
241話です。
もう少しのはずが、かなり続きそう・・・。
でも、ミルフォードが語りたいんだって。
では、また次話で会いましょう。




