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月光の姫と信望者たち  作者: 山之上 舞花
第2章 女神様の愛し子になってから
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兄話3-3 従弟の変化

僕が考えを巡らせていたら、オスカーがそばに来た。オスカーは分かっているとでも云うように、軽く僕の肩に肩をぶつけてきた。そのまま小声で一言言った。


「戻ったら話がある」

「分かった」


僕も小声で返したら、そのままオスカーに腕をとられて、クラーラ達のそばに引っ張って行かれたんだ。


「ちょっ、ちょっと、オスカー。逆向きだから」

「ん~? 転ぶなよ~」


そんなことをしながらクラーラ達の所に行ったら、しっかり呆れた視線を向けられたんだ。それから、僕達はまた隅の方でおとなしく準備が済むまで待っていた。


その後、無事にリングスタットの民衆と、中継で繋がった各国にも女神様のお言葉とセリアテスのお披露目は終わった。セリアテスは馬車に乗り神殿を後にすると「つかれました」と言って、父の腕に抱きついて眠ってしまった。


セリアテスが完全に寝たのを確認して、神殿でのことを家族で話したんだ。これは先に祖母に言われていたことなんだけどね。セリアテスが「女神様の愛し子」に選ばれてしまったから、母がまた気を揉むだろうということを。だから館に着くまでに、安心させるように話をするからと。僕には「女神様の姿が後光が眩しくてちゃんと見えなかった」と云うように頼まれたんだ。女神様の髪の色とセリアテスの髪の色が同じだと、僕らより近いところに居た母は気がつくだろう。それで、女神様の言葉があってもセリアテスを神殿に取られてしまうと、不安に思っていると思うんだ。だから、髪の色に気がつかなかったことにしようと。


僕は頷いたけど、おかしなことを言うなと思ったんだ。後光が眩しくても僕の位置からでも十分に髪の色は見分けられたのだから。だけど控室でローザ王女方と話した時に、彼女らは女神様の姿を見ることが出来なかったと言っていたんだ。その時そっとオスカーの方を見たら、オスカーが意味ありげに口の端を上げたのが見えた。僕は直ぐにセリアテスの方に集中してしまったから、ローザ王女の言葉の意味を深く考えなかったけど、祖母の言葉を借りると他の人たちには、女神様の姿ははっきりと見えなかったということなのだろう。


館に戻りセリアテスを寝かせた後、僕は自分の部屋に行った。お風呂に入ってサッパリとしたら、着替えを持ったオスカーがやってきた。


「ミルフォード、風呂借りるぞ。出てきたら、な!」


そういうと浴室に消えて行った。そして、そんなに待たないうちにオスカーは出てきた。髪からは水滴がボタボタ落ちるし、身体もちゃんと拭かなかったのかシャツが身体に張り付いていた。


「お待たせ、ミルフォード」

「そんなに慌てなくても、もっとゆっくりでよかったのに」

「あー、その、気持ちが急いてしまったんだ。後で寝る前に大浴場に行くからさ」


僕は布を持つとオスカーの頭に被せてゴシゴシと拭いたんだ。そうしたらオスカーは僕から布を取り上げて、自分で拭きだした。


「自分でできるから」

「わかっているけど、床が濡れるだろう」

「それかよ」


オスカーが笑いながら言ってきた。そして、ある程度髪を乾かしたら僕のそばに来た。


「ミルフォード、昼間のセリアテスのことをどう思う」

「どうって?」

「僕はさ、負けたなって思ったんだ」


そう言ってオスカーはソファーに勢いよく腰を落とした。


「最初は女神様も「愛し子」だなんて、大袈裟な事言うなと思ったんだ。だけどその後の神殿を取り巻く状況をどうにかするために、僕たちじゃ思いもしなかったことを言いだしたのを見ていて、何故セリアテスが選ばれたのか納得したんだ」


そう言ってオスカーは溜め息を吐いた。そして言葉を続けた。


「だけどさ、セリアテスはまだ7歳だろ。僕達よりも子供だ。なのに、天才である僕にさえ思いつかないことを思いついたりしてさ、悔しいし完敗だって思ったのさ」

「うわ~、自分で天才って言っちゃうんだ」


茶化すようにそう言って笑ったら、オスカーも笑顔を見せた。


「事実だろ。経験は足りないけど、大人に負けない知識はあると思っているからな。それはミルフォードもだろ」

「僕はまだまだだよ。それより、本当に話したいことはそんなことじゃないだろう」


そう言った僕にオスカーはニヤリと形容したいような笑顔を見せた。そして僕を手招きしたから、そばに近寄った僕の手首を掴んで自分の方に引き寄せた。


「ミルフォード、君は僕のことを信じてくれるかい」


オスカーに抱きつくような体勢になった僕の耳元に、口を寄せて小声で言った。顔を見たらすごく真剣な顔をしていた。


「もちろんだよ、オスカー」


僕もオスカーの耳元に口を寄せて囁き返した。僕の答えに満足したようにオスカーはニッコリ笑った。そしてまた、真剣な表情に戻した。


「ミルフォード、今日のことで分かった。大人は信用できない。僕達でセリアテスを守ろう」


僕はオスカーから体を離すと、彼の顔をジッと見つめた。オスカーも僕の顔を見つめている。僕はオスカーが言いたいことを考えたのだった。



236話です。


ここまで、お読みいただきありがとうございます。


また次話でお会いしましょう。

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