兄話3-1 妹の変化を振り返る
今日は11月4日。
いま僕が居るのは会議室で、御前会議が開かれているんだ。
先程の言葉でセリアテスの話は終わったようだ。
言いたいことを言えたようでホッと力を抜いたセリアの様子に、お疲れ様と声を掛けたくなった。
演台の所に置かれていたお立ち台から降りてセリアが僕のことを見上げてきた。
「ありがとうございました。お兄様」
「僕は何もしてないよ。頑張ったのはセリアだよ」
「でも、お兄様が隣にいてくださって心強かったです」
そう言ってニコリと笑ったセリアはとても可愛かった。背負っていた重荷を下ろせたのも大きいのだろう。
今日の朝からの、絶えず緊張していた感じが無くなっている。そっとセリアの様子を伺っていた父上も、安心したように息を吐き出していた。
僕もそんな妹の様子に、心の中で胸を撫で下ろしていた。
僕の妹のセリアテス・クリスチーネ・フォングラムは、ついこの間まで普通の女の子だった。いや、少し普通じゃなかったかな。
僕等の家であるフォングラム公爵家は、リングスタット王国の貴族の中で王家に次いで力のある家だ。5公爵家の中でも筆頭といえるだろう。
この世界には魔法があり、みんな魔力を持って生まれてくる。魔力は身分が高い者、つまり貴族の位が高い者ほど魔力量が多いと云われていた。
だから、本来ならセリアテスは魔力量が多く生まれたはずだった。でも、セリアテスの魔力量は貴族としては少ないものだった。
それを知ったセリアテスはすごく努力をして貴族として相応しい礼儀作法を身に着けた。その様子から「小さな淑女」と呼ばれるまでになったのだ。まだ、たった7歳だというのに。
それが、ほんの一月ほど前に覆されることが起こったんだ。怪我をして意識を失ったセリアテスは目覚めた時に、記憶と引き換えに膨大な魔力量を手に入れた。
なんという皮肉だろう。
まるで今までのセリアテスの努力をあざ笑うような出来事に、僕は運命の神がいるのなら殴り倒したい気分になったのだった。
救いはセリアテスがすべてを忘れてしまったことだろうか。
僕たちを信頼しきって甘えてくる姿に、僕を含め家族はメロメロになった。
それだけじゃない。セリアテスは王宮で働く者達に絶大な人気となったんだ。
記憶をなくしたセリアテスは、貴族らしくない態度をとっていたのだからだ。
素直に周りの人すべてに感謝する姿に、皆が惹きつけられていった。
王宮を辞する時の見送りの人々の人数がそのことを、如実に物語っていたことだろう。
今回のことで両親の仲も改善されたようだった。今まではどことなくよそよそしい感じがしていた両親は、セリアテスのために共に過ごすうちに、歩み寄るようになったようだ。子供の僕から見ても二人は圧倒的に話し合いが少なかっただけだったと思う。
セリアテスが家に戻ってからは、穏やかに過ごせるはずだった。
セリアテスの体調が戻る様に、日常に戻れると思っていたのに、それは甘い考えだとすぐに思い知らされた。
まるでセリアテスの変化を待っていたように事態は動き出した。
いや、違う。動き出してしまったという方が正しいのかもしれない。
セリアテスは今までの記憶を失くした代わりに、僕たちが思いもしない知識を持っていた。それは今までに現れた「アラクラーダの神子」に匹敵する物だった。ある意味それ以上だったのかもしれない。
それを思い知ったのは、セリアテスが魔力暴走を起こした時。魔法のことをすべて忘れてしまったはずなのに、僕たちの知らない魔法を操って次々と服を作り変えていく、セリアテス。その姿に戦慄が走った。
それとともに魔力を制御できずに放出している姿に、セリアテスを失ってしまう恐怖を感じたんだ。
この時は祖父たちのおかげで事なきを得たけど、今でもあの時のことを思い出すと、動悸がして冷汗が出てくるんだ。
セリアテスが作り出したものを王宮に報告した結果、今日と同じように御前会議が開かれて、それから神殿でセリアテスの聖別の儀が行われることが決まった。
今日から3日前の11月1日。僕らは神殿に行った。もちろんセリアテスの聖別の儀を受けるためだった。だけど結果として聖別の儀は行われなかったんだ。この世界を創られた女神ミュスカリーデ様が初めて降臨なされたからね。
そして妹は、セリアテスは女神様から「愛し子」と言われたんだ。
女神様直々の言葉により、セリアテスはこの世界で特別な存在へと押し上げられてしまった。
だけど、その女神様の言葉にセリアテスは守られることにもなった。
神殿で、祖母の横で女神様の言葉を聞いていた時には、思いもしなかった。
女神様がなぜセリアテスを「愛し子」と呼んだのか。
・・・違う。「愛し子」にしなければならなかったのかだ。
僕がそのことを思い知ったのは女神様が去られた後。神殿の外が大変なことになっていると、知らされたことでだった。
234話です。
今話からしばらくミルフォードが語ります。
少し振り返りになります。
次の話の前半位までかな?
それでは、次話でまたお会いしましょう。




