16-12 クラーラお姉様の・・・
クラーラお姉様の言葉に神殿でのことを思い出します。
フィリナ様は王女様達と一緒に私達がいた部屋に来ました。
そして・・・。
ああっ。そうです。自己紹介はしていませんでした。
ローザ様も思い出したようで、クラーラお姉様にフィリナ様を紹介しようとしました。
「失礼しましたわ、クラーラ様。こちらは・・・」
「ローザ様、こちらのご令嬢はご自分で話すこともできないのかしら」
クラーラお姉様は微笑んだままおっしゃいました。
が、目は笑っていません。
その言葉を受けてフィリナ様は立ち上がり淑女の礼をしました。
「失礼いたしました。私はスクワーレ伯爵の娘で、フィリナ・リンディス・スクワーレと申します。以後お見知りおきくださいませ」
「そう。私はサンフェリス国王太子ジークフリートの娘、クラーラ・ヴィレン・キャバリエよ。顔を上げて座って頂戴」
その言葉を受けてフィリナ様はソファーに座られました。
その様子をクラーラお姉様は目を細めてみていました。
「フィリナ嬢というのね。知らなかったわ、ローザ様の友人候補にこのような可愛らしい方がいらっしゃるなんて。ローザ様といつから親しくなられたのかしら」
「そ、それは・・・」
ローザ様は言い淀んでしまいました。
その様子をクラーラお姉様は微笑んでみています。
なんでしょう。お姉様の微笑みが怖いです。
お姉さまはカップを持つと優雅にお茶を飲みました。一口お茶を飲みカップを置くとフィリナ様を見据えました。
「私ね、今回のセリアテスの怪我のことを聞いて、とても心配しましたのよ。それに憤慨もしておりますの。だって、セリアテスが寝込む原因になったご令嬢は、セリアテスに許されて大した罰を受けていないと聞いたわ。それどころかセリアテスが許したからと、側にいるらしいわね」
そこでクラーラお姉様は言葉を止めて、またお茶を飲まれました。
「私はね、セリアテスが許したのなら、何も言う気はなかったの。だけど、状況は変わったわ。セリアテスは「女神様の愛し子」に選ばれた。ローザ様達のことは心配していないわ。だけど、あなたは? あなたがセリアテスにとって危険でないと云えて? それとも、セリアテスに怪我を負わせたのはワザとだったのかしら。セリアテスに、いいえ、フォングラム公爵家に近づきたかったからかしら。ねえ、黙ってないで答えてくださらない」
クラーラお姉様の厳しい眼差しに、フィリナ様の顔色は青褪めていきました。身体が震えているのが分かります。私は口を開こうとしました。
だって、フィリナ様は私が友達になりたいと思った方なのですもの。それを分かってもらおうと言葉を言おうとしたら、先にフィリナ様が話されました。
「クラーラ姫様のご指摘のように、セリアテス様に怪我をさせてしまいましたのは私です。本当ならば、こうしてこちらにいること自体が間違いなのは分かっております。私にとって謝罪を受け入れて頂いただけでもありがたく、それだけでなく、友達と云って頂けて身に余る光栄でございます。クラーラ姫様のご懸念はわかります。従妹であるセリアテス様に見知らぬものが近づいているのですから。それも、記憶を失うきっかけを作った者が。信用出来ない気持ちもわかります。私も自分がセリアテス様のお側にいるのに、相応しいと思っておりません。ですが、セリアテス様が私が側にいることを許してくださり、側に居て欲しいとおっしゃってくださいました。私はセリアテス様に、要らないと言われるまでは、お側を離れません」
フィリナ様はクラーラお姉様の目を見つめて一気に言い切りました。その様子を見つめていたクラーラお姉様は。
「そう。では、故意にセリアテスを傷つけたのではないというのね。セリアテスに要らないと言われるまで側を離れる気はないと。ではあなたは、セリアテスの不利益になるからから離れなさい、という私の言葉もきけないというの」
「わ、私はセリアテス様のお言葉に従いますので、クラーラ姫様のお言葉に従う訳にはまいりません」
「そこまで言うのなら、あなたはセリアテスの盾になる覚悟があると見なすけど、よろしいかしら」
「はい」
その言葉にクラーラお姉様はニッコリと微笑まれました。
「嫌な思いをさせてしまってごめんなさいね、フィリナ嬢。でもね、あなたの覚悟のほどを知りたかったの」
クラーラお姉様は今度は私を見つめてきました。
「びっくりさせちゃったわね。でもセリアテス、いま私が言った言葉は一族の総意だと思ってくれていいわ。前にフォングラム公爵の屋敷で、フィリナ嬢と叔母様達が会った時に言っていたでしょう。私達はフィリナ嬢のことを知らないの。その人について調べるのは簡単よ。でも為人を知るには話しをするのが一番よね。叔母様達には時間が無いし、母じゃ萎縮させてしまうもの。フィリナ嬢のためにも早く話をしなければならなかったから、丁度良かったから私がさせて頂いたわ」
クラーラお姉様の言葉を私は呆然と聞いていました。
214話です。
本気のクラーラ様です。
ある意味当たり前の反応ですが・・・。
次話で、クラーラは子分を手に入れたー!
かな。




