宰相話4 探りを入れたら返り討ち
私の言葉にリチャード様の目が半眼になりました。
「それを聞いてどうするのじゃ」
「リチャード様のことですから安全に配慮して、あの子は無事にお育ちだと思います。ですが、あと2年で学園に入学する歳になります。このままではあの子の身分などに」
「ジョシュア!それはわしが任されたことだぞ」
「分かっておりますが・・・。失礼を承知でお聞きします。ミルフォード殿があの子ということはありませんか」
「何故、そう思う」
「歳が同じですし、何より一番安全で確実に守れます。それにミルフォード殿の聡明さは群を抜いております」
私の言葉にリチャード様の目が怪しく光ったように思います。
「そういうがの、それならわしの孫はどこに行ったのかのう」
私は息をグッと詰まらせたような音を出しました。私はその言葉に答えられません。そうです。あの子の誕生と前後して、ミリアリア様も男児をお産みになっています。自分の孫とあの子を入れ替えるくらいなら双子として育てた方が合理的です。
「なあ、ジョシュア。ミルフォードが聡明というてくれたが、お前の孫も中々のもんじゃろう。アルザスというたのう。アルザスもあの子と同い年じゃなかったかの」
リチャード様の口が笑みの形を作っています。
ですが、私は・・・私の背中を冷たい汗が流れて行くのがわかります。
「そ、それは、ない」
「そう言い切れるかの」
私が否定しようと言葉を云えば、その言葉を切るようにリチャード様が言ってきます。
私の顔色は蒼褪めていることでしょう。
「そういえば木を隠すには森の中という言葉があったのう。のう、ジョシュア。公侯爵家に何人該当するものがおるかのう」
私はリチャード様の顔を恐ろしいものでも見ている気分で見つめました。
リチャード様はそう言った後、フッと、纏う雰囲気を和らげました。
「ジョシュアよ。心配なのはわかるがあの子のことはわしに任せておけ。どのみちあの子にかけた魔法はあと10年は解けん。その時にあの子がどの道を選ぶかは、あの子自身が決めることだろう」
そう言われましたが、私は安心することができません。リチャード様はアルザスがあの子ではないと否定してくださらなかったのですから。
「さて、わしはそろそろ戻るとするかの」
そう言ってリチャード様は私を見ました。私は立ち上がり見送ろうとしましたが、リチャード様にそのままでいいと言われて、座ったまま見送ることになりました。
リチャード様が出て行かれたあと、私は誰もいないのをいいことに盛大に頭を抱えて呻きました。
「だから、あの人と話すのは嫌なんだ・・・」
なので、私は知りませんでした。部屋を出られたリチャード様に2人の人影が近寄り話しをしたことなどを。
~ リチャード ~
わしが宰相室を出ると計ったように物陰から2人の人物が姿を現した。彼らと共に少し離れた小部屋に入りこみ、外に声が聞こえないように結界を張った。
「さすがリチャード様です。先ほどもそうですが、私ではここまでのものは張れませんね」
穏やかに言葉を発したコンラートの顔を見る。声同様穏やかに見える表情だ。だが、その目は表情を裏切って冷たくわしを見つめていた。器用な奴よのう。目線で続きを問えば口元が皮肉気に笑みの形を作った。
「あまり父をいじめないでいただきたいですね。今頃は頭を抱えて悩んでいることでしょう」
「ジョシュアが余計なことを言うからだろう」
「ええ、父の自業自得ですが、自分の孫が本当の孫ではないなどと言われれば、動揺もしますよ」
「だが、子供のすり替えなど簡単にはいかんことも分かっておるはずだがの」
「それでも、あなたになら可能だと疑ってしまうのですよ」
「私もコンラート殿に賛成です、父上。余計なことを言って敵に感づかれたらどうするのですか」
セルジアスまで、わしを責めてきた。
「わしがそんなことするわけなかろう。石を触媒にしたから、他の者には覗けんわ」
「私達に見せておきながらそんなことが言えますか」
「だから、石が無ければ無理じゃろう。コンラートもセルジアスについていたから聞けたはずだしの」
そう、先程の宰相との会話はフォングラム家に伝わる石を使ってセルジアスにも聞かせていた。それに気が付いたジョシュアの息子のコンラートがセルジアスに迫ったのだろう。まあ、これくらいでなければ、次期宰相にはなれんがの。
「時間もないことだし、話を済ますぞ。まずはレイフォードのことかの。これはわしは何もせんぞ。お前達でフォローするなりなんなりしろ」
そう言ったら、セルジアスが嫌そうに顔をしかめた。
「まあ、仕方ないですね。レイフォードのことは何とかします」
「私からも何かしておきましょうか」
コンラートも言ってきたので頷いておく。
「それで、リチャード様はセリアテス様の知識をどうなさるおつもりですか」
「これはセリアテスに聞いてみないことにはどうにもできんのう」
「またまた。リチャード様には何か考えがあるのですよね。セリアテス様の意見などと煙に巻いただけでしょう」
そう言ったコンラートはにこやかに笑っていた。だが、相変わらず目が笑っていない。
わしはセリアテスの知識の値段について話した。コンラートもセルジアスもわしの案に賛成のようじゃった。
家に帰りセリアテスに明日王宮に行くことになったとセルジアスが告げた。ルートガー家とアルンスト家が帰った後、もう少し詳しく何がおきていて、セリアテスの知識についてどうしたいのか話しをした。セリアテスは聞き終わった後考え込んでいたが、細かいことはわしらに任せておけばいいと部屋に戻したのだった。
そう、わしはセリアテスの事を解っていなかった。セリアテスがただの7歳の子供ではないという事を。
201話です。
宰相様、お疲れ様です。
えーと、宰相様に胃薬用意した方がいいのかな?
次話からはセリアちゃんに戻ります。
それでは、また、次話で!




