料理長たち2 料理人は天職?か
フッフスはまたグラスに氷を出し酒を注ごうとした。が、瓶は空だった。
俺は立ちあがると、棚から酒瓶を取ってきた。そしてやつのグラスに注いでやる。
「何かあったのか」
「・・・まあ、あんたならいいか。盗賊とやり合った時に利き腕の筋を切られた。剣を持つのはもう無理だな」
「それは・・・」
「油断した俺が馬鹿だっただけさ。世間知らずのガキは怖いよな。ちょっとばかし腕が立つからって、良い気になってた報いだな」
フッフスはまたグラスを空けて酒を注いだ。
「まあ、いまは別に天職ってものも見つけられたし後悔はしてないぜ。・・・あー、後悔はこの間したか」
「何をだ?」
「リンゴのことだよ。王宮で料理長なんてものになっていい気になっていたんだな。実際にコンポートを食べるまではそんな調理法は思いつかなかったし。宿屋にいた頃は新しいことを覚えるのが楽しくて、工夫をするのが面白くて。失敗もあったけど新しい味付けを見つけて、他のやつが喜んで食べてくれるのを見るのが好きだったんだよな。なんで、忘れてたんだか」
「おいおい、俺より若いくせに、なに年寄りじみたこと言ってんだよ」
「年寄りなぁ~。そうなんだよ。その老害共のせいでこうなったんだよ」
「老害ども?」
「おう、せっかく新しい味を試そうと思ったのに、伝統の料理はどうのとか言いやがってよ。おかげで対して美味くないもん出すはめになったんだよ」
「・・・それって、セリアテス様が帰られる前の昼食会か?」
「・・・・・何か言ってたか」
「ああ。塩味ばっかりで工夫が足りないとな」
「まじか・・・」
やつは目に見えて肩を落とした。
「だがな、こうも言ってたぞ。目が覚めて飲んだスープや肉と野菜の煮込みは美味しかったとな」
その言葉に顔を上げると奴は真剣な顔で聞いてきた。
「本当か」
「嘘言ってどうすんだよ」
「そうか、そうか。あれが受けいられたんなら、ここに来たかいがあるってもんだ」
やつの言葉にひっかかりを感じた俺は、やつを見つめた。やつは俺の方を見るとニヤリと笑った。
「セリアテス様に料理を教えて貰いにきたんじゃないのか」
「料理は自分で研究するものだろうが」
「謝るは口実か?」
「謝罪は本気だ。知恵を借りたいと言ったのも本当だが、教えてもらえなくても構わなかったんだ。ここに来たという事実が欲しかっただけだから」
「お、お前・・・。で、老害どもを黙らすのか」
「まあな。現にセリアテスはおいしくなかったようだし。伝統より女神様の愛し子の口に合うものを作って食べてもらったほうがいいだろう」
「・・・プッハァ~・・・あはははは~。確かにな~。・・・・クックッ、お、お前、それでよく王宮で務まるな」
やつは俺の言葉に顔をしかめた。
「下手なことしてリチャード様に迷惑を掛けるわけにいかないだろう」
「ああ、お前の身元保証人か。リチャード様は」
「そうだ」
「わしを呼んだかの」
その声と共にリチャード様が俺の部屋に入って来た。
慌てて俺とやつは背筋を伸ばした。
「ああ、楽にしろ。いまはプライベートだろうが」
「はい」
「ご無沙汰しております。リチャード様」
「元気だったかの。マキシミリアム」
「出来ればその名で呼ぶのはやめてくれませんか」
「まあまあ、それよりこれを一緒に飲まんか」
後ろ手に隠していたものをテーブルの上にドンとおかれた。
「こ、これは、ヴァルミンコスの酒。それも幻と言われる1129年のものじゃないですか」
「まさかお目にかかれることがあるとは」
「おうおう、さすが料理人じゃの。知っておったか」
「「もちろんです」」
俺は今まで飲んでいたグラスを片付けて、リチャード様の分と俺たち用に新しいグラスを用意した。
まずは味を見るために氷を入れずにそれぞれのグラスに注ぐ。
3人で軽くグラスを触れ合わせると、ひとくち口に含んだ。
芳醇な香りと濃厚な味が舌を刺激する。飲み込んだ時に、喉を通るときにアルコール度数が高いのか差すような痛みを感じた。
「「うまい!!」」
やつと同時に声をあげた。そろえるつもりはなかったが揃ってしまった。
リチャード様が嬉しそうに目を細めている。
「友好を深めたようじゃのう」
「いや、そう言う訳ではありませんが」
「そうです。行きがかりじょうです」
「ほうほう。そうかのう。それで、何があったか聞いていいかのう」
そう言ったリチャード様の雰囲気が一変する。おもわずゴクリと唾を飲み込んだ。
「はい。今日の午後のことなのですが・・・」
俺は初めての食材でセリアテス様しか知らない料理を作る対決をしたことを話した。その時にセリアテス様から完成品の映像が送られてきたことも、ちゃんと話した。
話しを聞き終わったリチャード様は少し考え込まれた。
「前と同じに完成品が見えたのじゃったな」
「はい。途中の工程も何となく見えるものがありました」
「そうか・・・」
「リチャード様セリアテス嬢は魔法を無意識に使われたのじゃないですか」
「たぶん、そうじゃろうがのう・・・」
フッフスの問いに答え、リチャード様は腕を組んで考えこまれてしまったのだった。
188話です。
おじさん達の話2です。
フッフス料理長の話ですね。
あっ、補足を!
フッフス氏が聞き腕を怪我した話。もともとの聞き腕は左でした。今は右でいろいろしてます。左腕は肘から指先までが上手く動きませんが、魔法で補助してます。
かな?
あとは、また後の話で入るかもですので、お待ちください?
では、また、次話で。




