14-7 王宮料理長とフォングラム家料理長
お母様の顔を見てみたら頷いてくれたので、フォングラム公爵家の厨房に連れて行くことにします。
言葉で言うより見せた方が早いですもの。
「あの、口で言うより見せた方が早いので厨房に行きませんか」
「フォングラム公爵家の?いいのか」
「大丈夫ですよね、お母様」
「ええ。セリアの自由にしていいのよ」
「ということなので、行きましょう」
3人で厨房に向かいました。まだ午後の2時前なので、今なら片付けが終わった頃でしょうか。
そういえば、驚きすぎてスルーしてましたが、何故家を飛び出したのでしょうか。気になるので訊いてみましょうか。
「あの、フッフス料理長。お聞きしたいことがあるのですが」
「何でしょうか、セリアテス様」
「どうして家を出て行かれたのですか」
「私は家を継ぐのに不向きな性格をしています。弟が継いだ方が丸く収まると思い家を出ました」
「料理人になりたかったからではなく?」
「ええ。料理人になったのは、家を出て死にかけた時に、食事を食べさせてくれた宿の料理が美味しくて魅了されました。自分は剣の腕は今一だし、商才もないしでどうしよかと思っていた時でした」
「?」
「いや~、ある街で因縁をつけられて有り金全部とられちまったんだよ。仕事を探そうにも断られまくって、もう死ぬしかないと覚悟した時に助けられてな。それで、そのまま頼み込んで弟子入りしたってわけだ」
居間を出た時に使用人とすれ違った時には丁寧な口調でしたが、人気が無くなるとくだけた言い方に変わります。本当に器用な人です。
「その師匠から料理の基礎を習ったってわけなんだ」
「それで、どうしておじい様と会ったのですか」
「ああ、リチャード様と会った時には俺がいた宿は、料理がうまいと評判になっていてな。俺が働き始めたころは朝と夜だけ食事を出していたんだが、評判が良くなってからは昼も食事を出すようになったんだ。その噂を聞いて外交でトレンチーノに来ていたリチャード様がいらっしゃったんだ」
「ニアンガラではなくて?」
「ニアンガラは出て隣のトレンチーノにいたからな」
いろいろあったのですね。
「まあ、リチャード様についてこの国に来て驚いたけどな。まさか従妹がリチャード様の息子の嫁になっていたとは思わなかったし」
「その前にお母様と会ったことはあるのですか」
「お互いに10歳前後だったか。一度この国に来て会っていた」
「歳は一緒くらいですか」
「俺はセルジアス殿と同じ歳だ」
話しているうちに厨房につきました。中に入るとイアン料理長が鍋をかき混ぜていました。
「おや、セリアテス様。何か御用でしょうか」
「イアン料理長、少し厨房を貸してください」
「いいですが、火を使うのは駄目ですよ」
「包丁なら使っていいの」
「もう少し大きくなりましたら」
「結局駄目じゃない」
軽く頬を膨らませて怒ったふりをします。
そんな私にニヤリと笑うとウインクをしてきました。
「それで、そちらの方と何をするのですか」
「ちょっとソースの研究を」
「じゃあ、マヨネーズを教えるんですか」
「そうね。えーと、材料を分けてもらってもいいかしら」
「じゃあ、用意しますから」
そういうと、コンロの火を弱くして、鍋から離れました。
冷蔵庫や棚などからいろいろな調味料を揃えてくれました。
それを見ていたフッフス料理長の目の色が変わりました。
「手に取ってみてもいいですか」
許可をもらうと瓶をもって中身を見ています。
マヨネーズの材料を出し終わったイアン料理長が聞いてきました。
「もしかしなくても料理人か」
「ああ、すまない。私はマキシアム・フッフスだ。王宮の料理長を拝命している。すごいなこれが全部調味料なのか。王宮にないものばかりだ」
「そりゃどうも。ここで育てているものもあるからな」
「育てている?もしよければ実物を見せていただけないだろうか」
イアン料理長が笑顔を見せました。
「嫌だね」
「はあ?」
「何で見せなきゃならんのだ。俺はこれを手に入れるために苦労したんだ。そして何度も失敗しながらこの土地で育つようにしたものだ。間違ってもただじゃ見せられんな」
その言葉にフッフス料理長は動揺したようです。
「お金は・・・今、手持ちはあまりないが後でいいのなら、ある程度は用意できるが」
「おいおい、誰が金の話をしてるんだ。金ならいらないぞ」
その言葉にフッフス料理長はもっと動揺したようです。
「では、なになら」
「そうだな。王宮で料理長をしているのなら腕を見せてもらおうか」
イアン料理長はニヤリと笑います。
私は呆れを含んだ目で彼らを見ていました。
あー、またイアン料理長の悪い癖が出たと。
驚いていたフッフス料理長は覚悟を決めたようで、真剣な眼差しでイアン料理長をみました。
「そうでなくっちゃ面白くない」
「それで、何を料理するの」
私は尋ねました。
イアン料理長は冷蔵庫からある物を取り出しました。
「これは先ほど届けられたものです。もしかしたらセリアテス様はご存知ですか」
私はそれに目を奪われました。
183話です。
料理の相談に来たはずが、方向が変わったぞ!
こら、勝手に話を持っていくな!!
さて、フォングラム公爵家の料理長が出てきました。
セリアちゃんがかなり懐いてます。
そして・・・見えない。彼の性格が見えないのです。
一筋縄にはいかないのはわかるけど、勝手に察して動いてくれてます。
おかげであの食材をこんなに早く出すことができました。
あっ、物は次回に判明しますからね。
では、また、次話で。




