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月光の姫と信望者たち  作者: 山之上 舞花
第1章 セリアテスと記憶喪失と王宮の人々
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兄話1-4 妹が……小動物的な可愛さを手にいれた……

 僕達はすごく驚いた。

 魔術師長が魔力について説明したけど解っていないようだ。

 なんだろう、すごく嫌な予感がする。

 周りの大人たちが目を見交わしあっているのも嫌な感じだ。

 魔術師長が他に分からないことはあるか聞いている。

 そんなことを聞かないで欲しいと思った。

 セリアの言葉を聞きたくないと思ってしまったんだ。


「あの、私は……どこのだれで、何という名前でしょうか?」


 セリアの言葉に室内にいる人たちは騒然となった。

 父上と母上、それに僕はセリアのそばに寄った。


「セリア、私たちのことがわからないのかい?」(僕たちのことも忘れてしまったの?)

「ああ、なんてことでしょう」(母上、泣かないで。あれ、でも……)

「でもセリア、僕達のことお父様、お母様、お兄様って呼んでたよね?」


 父上の言葉に頷いて、僕の問いに考えるように、思い出すよう、ゆっくりと答えてくれたんだ。


「えっとね、名前は思い出せないのだけれど、お顔を見た時に、私のお兄様だと思ったの。もちろん、お父様、お母様を見たときも、そう思ったの」


 嬉しい答えを聞いて頬がゆるんだけど、それどころじゃないと思いなおし、すぐに表情を引き締めた。

 父上が思い出せることはないかと聞いたけど、それすらも分からないようだった。


 誰かが「記憶喪失?」とつぶやいた。

 部屋に来た大人達は母上に一礼してから、深刻な顔をして部屋を出て行った。


 今度は僕はついて行かなかった。

 母上はベッドに腰かけて、セリアを胸に抱き優しく髪を撫ぜている。

 僕も反対側に腰かけてセリアの手を握った。

 僕達はずっと「大丈夫よ。大丈夫だからね」と言い続けていた。

 安心したのか、それとも疲れてしまったのか、そのうちにセリアは眠ってしまったのだった。


 母上と僕は眠っているセリアの手をずっと握っていたんだ。


 母上は今までセリアに少し冷たく接しているように見えていた。

 僕とは普通に話していたのに、セリアが来ると身構える様子が僕にも分かったんだ。

 だから、僕はセリアのことを嫌いなのではないかと思っていた。


 でも、眠るセリアのことを愛おしそうに見つめる姿に、もしかしたら母上はセリアとどう接していいのかわからなかったのではないかと、思えてきた。


 この7日間だって、セリアのことを心配して王宮にいる間はほとんどつきっきりだったと思い出した。

 そうか、母上はセリアのことを嫌っていたわけではないんだ。


 父上だってそうだ。

 僕とは話をしても、セリアには少し冷淡に接していた。

 でも、今回のことで、仕事をしながらも何度も合間に顔を出していた。

 父上もセリアとどう接していいのかわからないだけだったんだ。


 こんな時なのに、僕はなんだかうれしくなってきた。

 でも、母上に緩んだ顔を見られないように、握ったセリアの手を額に押し当てるようにして、顔を隠したんだ。


 三時間ほどたったらセリアが目を覚ました。

 目を覚ましたセリアが過ごしやすいようにクッションを僕と母上で当てたんだ。

 侍女達は何か言いたそうにしていたけど、結局何も言わないまま僕達がやることに口出しはしてこなかった。

 ごめんね。

 仕事をとってしまって。

 でも、僕の手でセリアに何かしてあげたかったんだ。


 水を飲んで一息ついたのか、セリアが母上に小首をかしげて微笑んだ。

 不意打ちだったのか、母上は頬を染めていた。

 それを見て、セリアが小首をかしげながら目線で僕に問い掛けてきたけど……。


 駄目だ、可愛すぎる。

 なんなんだ、その小動物的な可愛さは!

 母上と同じように僕も頬が赤くなっているだろう。

 もう、なんだよ。

 本当に!


 このあと、セリアに今の姿を見たいと言われたんだ。

 僕達は手鏡で姿を見せる前に、先に前の髪の色のことを話した。

 セリアが頑張っていたことを思い出して、少し苦みが入った話しぶりになってしまったようだったけどね。セリアは何か感じたようだけど何も言わなかった。


 鏡で今の姿を見たら驚いた後「かわいい」と小さくつぶやいていた。

 うん。

 本当に!

 反則的に可愛いよ!!


 しばらくすると、父上が戻ってきて、もう数日王宮に泊まることになったことをセリアに告げた。

 そう言われたとたん泣きだしそうになったセリアに、他の部屋になるけどみんなも王宮に泊まっていると教えたら安心したようだった。


 夕食を食べたあと、セリアが眠るまで僕たちはこの部屋にいたのだった。



13話→10話


ここまで読んでいただきありがとうございました。

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