5話~人?神?
物語の辻褄を合わせるため、神話を少し曲げるかもしれません。
今回は次回の前置きなので短めです。
時は一年前、転生して一年前がたった頃にさかのぼる。
「どうしよう」
俺は迷っていた。何にって?
道に迷ったんだよぉぉ!
「ここはどこだぁぁぁ!」
説明するとだな。
まずいつも通り狩りをしていたら、サーベルウルフの上位種のセーバーウルフが出てきた。
セーバーウルフの肉はとても柔らかい。その上味も良い!
それに毛皮は防寒具にもなる。
ということで肉を痛めないように土系統魔法の下位、泥を放つマッドショットを食らわした。
だが、さすが上位種。ほぼダメージがない。
ならばと思って俺は上位魔法のアースブレイクを使った。
セーバーウルフの周りに土が集まる。
そして土が圧縮されて弾ける。
やっとダメージを与えられた。
止めと言わんばかりに、こちらに向かってくるセーバーウルフに土魔法のアースボールを連続で食らわした。
多分200発位。
瀕死のセーバーウルフは巣に戻ろうとする。
それを追いかけたら迷った。
以上。恥ずい。
『もう!欲に負けましたね!』
『わ、悪かった』
久しぶりにイザナミの怒った声を聞いた。
前に聞いたのは確かでかくて頭の多い蛇と戦おうとしたときだな。
そのとき、遠方で巨大な塊が蠢いているのが見えた。頭が幾つもあるように見える。
そうそう。そんな感じ…ってえっ!?
ズゥン!ズゥン!ズゥン!
その塊が動く度に大地が揺れる。木々がざわめく。
冷や汗が背中に伝う。気持ちが悪かった。
うん。逃げろ!
俺は反対方向に逃げようとした。
が、すでに裾を噛まれていたのだ。
「くっ!焔よ!地の底から涌き出る獄焔よ!対する者を焼き尽くせ!『バーニングフレイム』!」
咄嗟に火系統最上級魔法を放った。
大蛇の下から火柱が表れ、大蛇を襲う。
「…はは…マジかよ…」
火柱が収まった。
そこにあったのは、何事も無かったように佇む大蛇の姿。
火系統と最上級魔法を使ったのに、あのダメージ。
竜斗は痛いほど分かった。
格が違う。と。
大蛇は怒ったのか、竜斗に噛みつこうとよってくる。
竜斗は死を覚悟した。
「待って!」
「え?」
その一言で、大蛇の動きが止まる。
女性の声だった。
イザナミではない。とても、澄んだ声。
「あなた、一人なの?」
大蛇の背中から出てきた彼女は、黒い髪に黒い瞳、日本人に近い見た目をした、美女だった。
「私はクシナダ。この子は友達のヤマタノオロチよ」
「く、クシナダ?あの神話の?」
クシナダとは、神話のヤマタノオロチの話で出てくる、れっきとした人だ。
スサノオの夫で、最終的にはヤマタノオロチに食われるという残酷な運命を送るのだ。
「その神話というものがどういうものかは知りませんのでわかりません。ところで、あなたのお名前は?」
やっぱり物語自体は作り話なのかなぁ。
それより、ヤマタノオロチが友達?神話じゃあこのあと食われるぞ?
『イザナミ。俺、なんて自己紹介すればいいんだ?』
『そうですね…名前は男では不信に思われますので…リュウナというのはどうでしょう?』
『わかった。サンキュー』
このあと、それにしてもクシナダが…という声が聞こえたが、気にしない。
「そう。悪かったわね。私はリュウナ。産まれて3年でここに捨てられたの」
言葉遣いも女にした。
なんの影響か、抵抗がない。
「…じゃあ一人なの?」
「そうだよ。あなたも?」
なんだったのだろう。あの間は。
「私は、この子が可哀想で友達になったんだけどこの子を怖がって皆逃げていくの。だから私も一人なんだ…」
いや、それはそうだろ。ヤマタノオロチって確か討伐難易度SSランクの代名詞みたいなドラゴンだぞ。
ていうか可哀想ってなんだ可哀想って。
「じゃあ、お互いひとりぼっちってことで仲良くしよう?」
「!良いんですか?」
「う、うん」
「本当の本当の本当にですよ!」
「解ってるよ!」
「やった~!」
俺が仲良くしようと言った瞬間眩しい位の明るい笑顔を見せた。
寂しかっただろうな…
俺たちは暫く自分の事を話していた。
どのように生活していたかや、どのように狩りをしていたか等を話した。
勿論、俺が男ということは隠して、だ。
「じゃあそろそろ帰るね。もう日が沈みかけてる」
「うん。今日はありがとう。また会おうね」
また会おうね。
そう聞いた俺は、クシナダに向けて笑い、空間魔法で家に帰った。
その場にはクシナダ一人となった。
「…隠し事、しなくて良いのに。あなたが男だとしても、もう友達だよね?」
クシナダはそう言って、ゆっくりと目を閉じた。
「イザナミ…」
…………竜斗side
「ふぅ」
空間魔法で家に帰った俺は、寝床についた。
寝床といっても木板に毛皮を敷いてあるだけだが。
クシナダ…人だよな?
なら、何でだろう。
不快感が微塵も感じなかった。
ヤマタノオロチの威圧感で分かんなかったのか?
それとも、人じゃないのか?
恐らく後者だろう。
ヤマタノオロチは決して人になつくことはない。
だったらそこまで危険性はないはずだ。
…ごちゃごちゃ考えたって仕方ない。
不快感を感じなかったなら、それだけでいい。
まぶたの裏が痺れるような眠気が襲ってくる。
俺はそれに逆らうことなく、目を閉じ、眠った。
因みに空間魔法は無属性魔法なので、基本ある程魔力を持っていれば使えます。