三話~野速玉大神イザナギ
言った早々大遅刻!
すいませんでした!
地に足がついた感触があった。
目を開けると、森、森、森。大自然の中だった。
目の前には、木を削っただけの粗末な木刀に、薬草、刃渡りが手のひらサイズの解体用のナイフ、干し肉、乾パンのようなもの、水袋と思われる物が置いてある。
「イザナミ。どういうことだこれ」
『これはゼロから初める転生者のための特典です。あるだけ使って大丈夫ですよ。』
「それはありがたいんだが……武器が木刀だけか。しかもめっちゃ荒削りだし。これ解体用のナイフの方が良いな」
『心配ないです。この世界には日本でも有名な神様がバカン…休みに来るリゾートのようなものです。なので神を祀っている祠があります。神が他の神の祠に近づくことは禁止されていますので、私の祠に行きましょう。そこなら、私がかつて使っていた刀があったはずです』
今バカンスって言いかけただろ。
神ってそんなもんなのか?
考えてもツッこんでも意味がない。
「その祠は何処にあるんだ?それによって旅の仕方が変わるんだ」
『たしか…黄泉に一番近い山。「黄泉神の山」という山の頂上にあります。ですが、私の魔力の塊が私の分身になってあの刀を守ってるらしいです』
俺は小さく舌打ちをする。
「その分身って奴は強いのか?」
『私の3分の1程の魔力です。そこらの飛竜よりは強いですね。ですが、私の力の断片ですので、私の魔力が完全に戻るためには倒さなくてはいけません』
「俺とあんたが融合してることで、あんたの強さは俺の強さに直結するからな。力がついたら、必ず倒す」
取り敢えず木刀を拾って、ナイフを一緒においてあったホルスターに入れ、同じくおいてあった革袋に食料、飲み水が入った水袋を入れた。
こんくらいじゃあ持って4日か5日。食料をとっておかないとな。それに力の使い方も教えてもらわないと。
『なかなか良い計画ですよ。では、狩りをするためにも力の使い方をお教えします』
「おっと。心が読めるんだったな。ま、よろしく」
俺はある程度拓いている場所に出た。
スペースは充分。
『まずは、私が使える魔法についてですね。これも実際にやった方が良いので、一度分離しますね』
胸から何かがにゅるんと出ていく。
出られるんかい!というツッコミは入れずに集中することにした。
「まず、魔法について説明します。
魔法は基本的に火、水、風、土の四種類。
上位魔法は、炎、氷、雷、暗黒、閃光の五種類。
最上級魔法は、極焔、極凍、極雷、大地、漆黒、裂光の六種類
神話級の魔法は使い手が現在居ませんが、神話に残されている魔法のことを神話魔法と呼びます。
種類は、混沌、絶対零度、自然、深淵、輝光の五種類のみです。」
「わかった。で、あんたが使える魔法は?」
「私は火系統、風系統、輝光属性を使えます。神話級の魔法なら混沌、大地、輝光が使えます」
「使える魔法!全部教えてくれ!」
俺は一気に食いついた。
バカンスなんていってもやっぱ神だ。
「残念ながら、神話級の魔法は神でないと使えないのです。なので……話すと長くなるので後にしましょう。では、これからは魔力を使って戦闘をする訓練と同時に基本魔法から最上級魔法までを出来るまでやりましょうか」
「そうか。しょうがないな。じゃあ、基本魔法から頼む」
「わかりました。では、最初に火系統の下位魔法、ファイアボールからです。見ていてください」
イザナミが手をかざすと、野球ボール位の火の玉ができた。本当に真ん丸だ。
「この魔法をこのように出来ると、上位、最上級魔法もある程度難易度が低くなるので、頑張って下さい。そろそろ時間なので戻りますね」
そういうと、またまた俺に抱きつき、融合した。
時間。ということは制限でもあるのだろう。
『魔法を使うには、魔力を使います。まずは集中して胸の中を捜すようなイメージを意識してください』
やってみると、案外早く見つかった。
心臓の辺りに暖かい物がある。
これが魔力か。
「出来たぞ。次は?」
『次は手に魔力を集めて、その魔力を燃料に火を燃やすイメージです。そのとき、火の形を丸く、イメージすることが綺麗な丸にするコツです』
おう。と心のなかで返事をした。
手に魔力を送り、集める。
何となく出来たような…曖昧だが続ける。
次は、その魔力を燃料に火を燃やす。そして火を丸にするイメージ…
火力発電をイメージしよう。
……点火!
ボウッ!
刹那竜斗の手のひらに綺麗な火の玉ができた。
「出来たな」
『さすがです!ですが……私思い出しちゃいました。私の力と、魔力を使って、私の固有魔法を使ってみてください。これから詠唱を教えるので』
ちょっと待て。さっきのファイアボールでは詠唱なんて無かっただろう。
『すいません。説明不足でしたね。最上級魔法からは、詠唱による魔法コントロールが必要なんです。なので神話級の私の固有魔法は、詠唱が必要なんです』
なるほどな。じゃあ詠唱とやらを教えてくれ。
『わかりました。ですがその前に、袖で隠してある左手のひらを見てください』
これか。さっき袖がめくれて少し見えていたんだが、なんなんだ?この紋章。
『これは私の力を普段使わないようにするためのストッパーです。私の魔力は目立ちますから。その紋章の線にそって私の魔力を、私の胸の中から取り出して通して下さい』
イザナミの胸の中…ちょっと変な方向にいってしまったので、やり直す。
俺の魔力よりも赤い魔力を見つけた。
それを取り出し、左手の紋章の線にそって流す。
すると、いきなり赤く輝きだし、紋章は消えた。
「そうです。さすが、器用ですね。これで私の魔力が使えます。では早速、詠唱を教えますね」
ああ、頼むな。
こうして、魔法コントロールの訓練が始まった。
……………
美羽side
ここは?何処なの?
さっきから竜斗に話しかけているのに、返事もないし、こっちを見もしない。
「無意味だぜ」
不意に後ろから声がした。
振り向くと、黒髪の少年があぐらの体勢で宙に浮いていた。
「ここどこ?それにあなただれ?私より年下っほいけど」
「俺は野速玉大神イザナギ。超有名な神様だぜ?子供とか言うなよ~」
チャラチャラしてるね。
ちょっと苦手かも…。
「分かりますよ。イザナギっていったら、古事記に書いてあるイザナミと並ぶ有名な神様ですから」
「っ!…イザナミも知ってたか。教えてやるよ。ほら」
イザナギが指差した方向を見ると、竜斗と白い布を重ねたような服を着ている女の人が喋っていた。
「あれは、もう一人の転生者、神谷竜斗。それと、俺の離縁の妻、黄泉津大神イザナミだよ」
「あの人が…イザナミ?すごい綺麗。…って、そんなこと言ってる場合じゃありません。なんであの人二人はこちらに気づかないのですか?」
それを聞いたイザナギは、やれやれと呆れた声を出す。
「君、ちゃんと神話わかる?俺は君達が居た所にいる神様で、イザナミは黄泉。つまり天国の神なんだよ」
「だからなんです?」
「つまり、こことイザナミの居るところでは、世界が違うんだよ。今は俺の力で見えるようにしているが…話すようにはしない」
「なぜ!」
「君は竜斗君と話せればそれで満足してしまうだろ?それを防ぐためだよ。君にはやってもらいたいことがあるんでね。」
「…やってもらいたいことって、なんですか?」
私の中では、嫌な考えがいくつも渦巻いている。
奴隷?生け贄?
ろくでもない未来しか浮かばない。
「あー。大丈夫。君が思っているようなことはしないよ。ちょいと君には異世界の国『セルシオ』に行ってきてもらって、俺の魔力を取り戻して貰いたいんだよ」
「異世界?セルシオ?魔力?」
「うん。力は貸すからさ、頼むよ」
「………良いですよ。具体的にはどのような力を?」
「簡単だ。俺があんたと合体する」
「が、合体?」
が、合体って。
落ち着け私。そういう意味ではないはず。
「ちょい、こっち来てみ?」
言われた通り、近づいた。
近くで見ると、結構爽やか系イケメンだな…。
そんなことを考えていると、いきなりイザナギが首に抱きついてきた。
「え?ええ!?」
「し~。静かに!集中しないといけないんだよ!」
「ご、ごめんなさい」
三分は経っただろうか。
胸に何かが入り込んだ感覚がした。
『成功だ。これで俺の力を使えるようになるぜ。ま、よろしく』
「あ、合体してても喋れるんで…え?」
私の声がなんか低い。
なんかイザナギの声に似ているような…。
恐る恐る胸に手をやった。
…ない。
「あの~。性別変わっちゃったんですけど?」
『あー。忘れてた。俺ほどの神と融合したらそうなる。力の副作用みたいなもんだな』
「そういうことは先に言ってください!」
「悪い悪い。そのかわり、割り増しで力貸してやるから許せ」
そう言いながらイザナギは指をならす。
黒い穴のようなものが出来た。
「これは異世界へのゲートだ。通れ」
「わかりました。行きましょうか」
私は、ゲートに入った。
視界が真っ暗になり、私が感じられたのは浮遊感だけだった。
この作品は、ダブル主人公です