表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

2014年/短編まとめ

ドッペルゲンガーと夢の中

作者: オミ

ドッペルゲンガーは自分を殺そうとしてくる。


それは自分が最も忌み嫌う人間が自分だから。


そして、今日も僕は僕を殺す。


***


「こんばんは」


目の前でにっこりと笑うのは自分自身。


鏡に映ったような自分がそこにいる。


でもそこに鏡なんてなくて、僕が二人向き合うように立っていた。


目の前の僕は笑っているのに、僕は僕を警戒するように表情を出さない。


全てが一緒に見えるが、一つだけ決定的に違うもの。


それは持っている意識だけ。


「よいしょっ」


思い沈黙を取り払うような声を出す目の前の僕。


表情は変わらずに笑顔だ。


そして手にはどこから取り出したのかわからない大振りのナタ。


夢の中なら何でもありか、と小さな溜息を漏らす。


これが夢だと知っているから今更驚きはない。


目の前の僕は勿論体型も同じだ。


そこまでガタイがいいわけでもないので、正直なところ不格好に見える。


ぐるん、と片手でナタを回して刃先を僕に向けた。


僕が、僕に。


笑顔は変わらないはずなのに歪んで見えるのは何故なのか。


じわりと滲んだ汗が気持ち悪い。


同じ僕なのに何が違うのか。


ゆったりと散歩をするような足取りで近づいてくる僕。


一歩一歩、確実に。


夢だってことは分かっているはずなのに、なぜ覚めてくれないのか。


いつもいつもそうだ。


真っ白な空間で僕が僕と向き合って殺される。


夢だとわかるようになったのに、殺されるまでその夢は覚めない。


目の前が赤と黒に点滅して、目元が痙攣している。


「死ねばいいんだ」


そう言われた瞬間胸がドクンと大きく脈打つ。


自分の呼吸が乱れて耳障りだ。


『お前なんか』と言っているんじゃない。


『僕なんか』と言っているんだ。


『僕なんか死ねばいいんだ』と。


振り下ろされるナタ。


笑顔の僕が揺らいだ気がした。


視界が赤に染まるが痛みはなく、僕は僕を殺していた。


***


目を覚ますといつもどおりの朝、いつもの僕の部屋。


ぐっしょりと濡れた寝間着が鬱陶しい。


だがそれがまた夢なんだと教えてくれた。


目を閉じれば瞼の裏でもう一人の僕が笑っている。


目が覚めていつも思うことがある。


「夢で殺すくらいなら、現実で殺してくれよ」


誰にも届かない声が部屋に響く。


また、今日も夢を見るんだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ