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新戦力のめど

「あーあ、久しぶりに見るな。ベンチから試合をさ」 

 試合開始早々、竹内はそうつぶやいた。それを栗栖が冷やかす。

「ま、正直違和感があるがね。お前がスタメンだったことが当たり前になってたし、何よりお前は公式戦5連続ゴール中だしな」

「でもま、こうしてみると、何となく野口タクトの気持ちがわかるよ。点がそのまま評価につながるFWとしては、ノってるときは試合に出たくて仕方ねえしな」

「ハットトリック決めながらもベンチだったこともあるしな。ま、体格自体は剣崎とかぶるとこあるからな」

「じゃ、俺は高みの見物と行くか。うちのエース様がベンチに見せつける存在感をさ」


 一方でその父、貴久コーチは藤崎のスタメン起用に一抹の不安をぬぐえないでいた。

「しかし大丈夫なんですか?コンディションは大丈夫なんでしょうけど、千葉では2年ともベンチウォーマーだったわけだし、いきなりJ1で結果を出せるんでしょうか」

「フフフ。まあ、君の意見はもっともだ。おそらくサポーターもそう感じているに違いない。だが、彼には結果を残してもらわねば困るのだよ。彼が結果を出すか否かで、君の息子の明暗が決まると言っていい。選手層の薄い我々にとって、竹内はいかなる時も使わざるを得ない戦力。それを壊さないためにも藤崎にはスタメンで使うに値するメドを立ててもらわねばね」

 いつになく厳しい表情を見せながら、バドマン監督は藤崎の動きを注視していた。


 藤崎司はプロ2年目のFWで、久岡と同じ駿河水産大出身。つまり、現五輪代表監督の叶宮勝良の後輩にもあたる。近年この大学の成長は目覚ましく、ここ5年で実に16人のJリーガーを生み、いずれもまだそれであると短命でないあたりに、この大学のポテンシャルの高さが証明されている。

 藤崎は175センチ63キロと、やや線は細いが、サイドでプレーさせれば同学年に敵はいなかった。ゴールよりもアシストを量産するタイプで、センタリングの技術はインカレベストイレブンの表彰を受けているくらい高い。サイドからのクロスが生命線の和歌山にとってはうってつけの存在だった。

「よし、試しに」

 昨年までの2年間、敵として剣崎を見ていたが、果たしてどの程度のクロスならシュートに持ち込めるのか。試すように剣崎にセンタリングした。

 それに剣崎と、マークについていた粟原が反応。互いに飛び上がってヘディングを試みる。

「ぬぐぁ!」

 体をぶつけられた剣崎は、それでも強引にミートする明後日の方向へシュートは消える。悔しさをにじませると、剣崎は藤崎を怒鳴った。

「ちょっと藤さん何やってんすかっ!」

「はあっ?」

 いいクロスを打ち上げた自負があるのに、なぜか年下に怒鳴られて藤崎もさすがにカチンとくる。だが剣崎は構わず要求した。

「もっと難しいクロスくれっ!!」

「??」

 剣崎の要求に藤崎はただひたすら頭にクエスチョンマークを浮かべた。

(難しいクロス入れろだ?訳わかんねえ奴らだな・・・)

 相手のゴールキックに合わせて帰陣する最中、藤崎は剣崎の要求を思い起こしながら首を傾げた。「もっといいクロスを入れてこい」とは過去に何度も言われたが、その逆を要求されたことはない。

(なんか・・・リズム的な問題か?確かに人によっちゃ難しいボールほど点を取れるってあるけどもよ)


 しかし、端から見れば、藤崎はJ2でくすぶっていたとは思えないほどのパフォーマンスを見せた。サイドの攻防では常にイニシアチブを取り、剣崎と野口のツインタワー目掛けて良質なクロスを供給。そして機を見てはドリブルで切れ込み、シュートで横浜ゴールを脅かした。

 だが、模範解答のような藤崎のプレーは、少なくともエースの剣崎には響かなかった。そして同じ大学でプレーした久岡にも。

(なんだなんだ?ずいぶん『おとなしく』ねえか?お前はそんなもんじゃねえだろうよ!)


 横浜の堅牢な守備を破れないでいると、一発のカウンターを受ける。藤崎から上げられたクロスを野口と粟原が競り合った際、セカンドボールを横浜のボランチ小栗が奪い、右サイドの佐久間に。受けた佐久間は関原を振り切って、ゴール前の有川に強引強引な体勢からクロスを打ち上げる。佐久間のワンテンポ速い攻撃に和歌山守備陣は対応が遅れ、有川にフリーでヘディングを打たせることに。4連敗中という悪い流れを象徴するように、先にネットを揺らされた。



「くそ、先にやられちまったか・・・。まあいい、まだ前半は20分ぐらい残ってる。こっから反撃だっ!!」

 剣崎はそう吠えて味方を鼓舞。そして藤崎にも言い放った。

「もっとえぐいことしてくれよ!きれいなプレーは見たかねえぞ!!」


「な、何言ってんだあいつは・・・」

 自分としては手ごたえを得ているのに、仲間からはどういうわけかダメ出しされる羽目が続き、藤崎はただただ首を傾げた。久岡がなだめる。

「ま、あいつが言葉足らずなだけでね。要は『もっとすごいことできるだろ』って言われてんだよ」

「すごいこと?ここの連中は大道芸でも見たいのかよ」

「何怒ってんだ。それだけお前がすごい選手だって知ってんだよ。『結果よりも自己満足』うちじゃこれが鉄則なんだよ。もうリミッター外したらどうなんだ?」


 久岡のエールに、藤崎はただただいぶかしむだけだった。


「プロのくせに・・・。結果度外視なんて初めて聞いたぜ」

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