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いないうち

 中3日で迎えるリーグ戦第21節。劇的勝利の天翔杯の勢いを何とかリーグ戦に還元したかった和歌山だったが…



 レフェリーのホイッスルと同時に、和歌山の選手たちはうなだれ、広島イレブンはガッツポーズを作った。アウェーでの一戦は、竹内、剣崎のゴールで前半リードも、後半にまさかの3失点。逆転負けで4連敗となった。



「天翔杯はまぐれだったのかよ!」

「しっかり守れよ最後までっ!!」

「そろそろ結果大事だって!ACL行くんじゃねえのかよ!」


 突然の失速に、この日はあらゆるサポーターが選手たちに怒りをぶつける。東京西が丘から帰和してすぐに広島への移動と、遠征の影響を差し引いても、この失速は看過できないものになっていた。






『そうか…竹内は休ませねばならんか』

『5連続ゴールと結果が続いているが、間違いなく疲労はたまっている。そろそろ休ませねば長期離脱につながりかねん』

 ある日のクラブハウスでは、次のホームゲームでの選手起用について、首脳陣がミーティングをしていた。その中で、マッケンジーフィジカルコーチが、竹内のベンチ外を進言していた。

「俊也を外す?バカな。小宮が使えない今、俊也までいなくなると、我々の攻撃がたち行かなくなります!」

「僕も竹内さんと同じ意見です。怪我のリスクが高いと言って…どれぐらいですか」

『サイドハーフでフルタイムなら…恐らく80%前後だ。剣崎のようにゴールに徹底すればもう少し下がるが、いずれにせよ、スタメンはフィジコとして許容できん』

 松本コーチの質問に、マッケンジーコーチは険しい表情で答える。それでも竹内コーチは食い下がる。

「途中出場もダメですか。今うちは多く選手を放出したことで駒不足なんです…」

『どうしても息子を出したいのか?なかなか仕事に徹する父親だな』

『マッケンジー、そう言う言い方はよせ。だが、竹内をベンチ入りさせたいのは私も同じだ。今の彼なら、いるだけでも相手の驚異となる』

 竹内コーチを擁護するバドマン監督。マッケンジーコーチは、考え込んで答えた。

『ヤツは5分でも仕事はできるか?使うならビハインドでのアディショナルタイム。それ以外は許さん』



「はい、揃ったわね。それじゃああんたたちは今週はあたしの管理下でコンディション調整よ」

 トレーナーのリンカは、集めた選手に対してこう号令をかけた。集められたのは、マッケンジーコーチが「練習要制限」と判断した、竹内、関原、友成、ソン、猪口、そして剣崎だ。

「なんで俺まで?全然疲れてねえぞ?」

「自覚はなくても身体は正直よ。ハリはとれてないし、乳酸値もここんとこ高いまんまだしね」

 こう別メニュー調整をする6人だが、夏場のトレーニングはどの選手もその負荷を軽くする。夏場は食欲が落ちるせいで回復もままならない。高温多湿な日本の夏は特にコンディション調整に神経を使わねばならないのだ。

 この内、別メニューを命じられた選手たちは、とにかく休養を重視したトレーニングで、感覚を保つという感じだ。



 さて、話題には挙がってなかったが、先日閉じた移籍期間中、一人選手が帰ってきた。磐田に期限付き移籍していたボランチの久岡孝介が、来年1月末までの期間を残して復帰してきたのである。表向きは連敗スタートとなった後半戦のチームの立て直しを目論み、和歌山から返還を要望。磐田が承諾して帰ってきた。会見で久岡は「現役の日本代表のプレーを間近で感じることができた。学んだことをチームに還元したい」とコメントしている。

 ただ磐田では既に15試合に出場し2得点、うち11試合でスタメンと活躍していただけに、あっさり戻ってこれたことに首を傾げる声も少なくなかった。


 事実、久岡は磐田に三下り半を叩きつけて来たのだった。




「GM。マジすいませんでした。せっかく作った磐田のコネをつぶす真似して」

 とある日の練習後、今石のもとを訪れた久岡は、移籍の顛末について詫びた。

「まあ、保有権はうちにあったからまだ良かったが、完全移籍してたならお前はプータローだったぞ?」

「そうなんすけどね。でも『ぬるい』チームでダラダラ昇格するよりはマシかな…と思ったんでね。あんまりそれは考えてませんでしたよ」

 久岡は「名門復帰の力になりたい」と志願して磐田に移り、気持ちを前面に押し出し、中盤のバランサーとして活躍。駒田、前野、伊代田、そして松西。日本代表キャップを有する選手たちとプレーすることで、選手として一回り成長したという手ごたえも得た。

 が、湘南に独走を許し、3位との勝ち点を思うように広げられない中、チームとしてのぬるさに常々危機感を覚えて何かと意見してきたことが、徐々にクラブでの立場を微妙にした。そしてプレーオフ圏内に鎮座する尾道を迎え撃ったホームゲームで大逆転負けを喫したことに対し、久岡は首脳陣に直談判。これが決定的となった。

「あれ以上ぬるいチームにいたところで成長なんてできませんしね。もうちょっとしんどいことに行きたくなったんでね」

「ま、どういう空気であれ、得たものはあったはずだ。それをチームに還元してくれ」

「了解っす。再浮上の起爆剤は任せてください」


 さてどうなることやら。

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