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見えない兆し

 リーグ戦3連敗という躓きを見せるアガーラ和歌山。まだ差し迫った状況でもないので慌てるだけ損なのだが、どうにも立ち直りの兆しが見えない。しまいにはこんな騒ぎが出る始末だ。


 先日のリーグ戦、新潟戦後のゴール裏。あいさつに来た選手たちに、新参サポーターたちがブーイング浴びせ、いら立ちを吐き出した。


「最近気合入れてやってんのかよ!ちょっと勝ってるからって調子乗ってんじゃねえのか?」

 どっちがだよ、と言いたくなるふるまいだが、なだめたところで火に油なのであえて誰も言わない。

「気持ち見えねえんだよ、勝ちたいって気持ちが!ホームでこんな無様なゲームしていいと思ってんのかよっ!」

「見えるわけねえだろ。ド素人」

 サポーターの言葉に返したのは小宮。瞬間、その一帯が凍り付く。

「たかが3連敗でギャースカ叫ぶなド素人。お前らは俺たちのために金出してりゃいいんだよ。選手の気持ちがお前らみたいなミーハーどもに見えるわけねえだろ」

「な、なんだとてめえっ」

「おどれー!!サポーターに向かって何ちゅう言いぐさや」

「サポーター?お前らが?一目ぼれした女のケツしか追いかけられない童貞のくせに?お前らはただ単にブームに乗っかる自己満野郎だろ?そんなに騒ぎたいなら家でママに頭撫でられながらわめいてろエテ公」

 そう吐き捨てて小宮は中指を突き出した。


 試合後にわめいたサポーターは、以前からクラブのほうで要注意人物とみられていた連中で、観戦マナーも悪かったため、試合後は入場制限がかけられたのだが、この悶着はリーグの知るところとなり、小宮には天翔杯3回戦とリーグ戦2試合の出場停止が課せられた。


「お前ねえ・・・腹立ってたのはわからんでもないけどさ。なんで中指立てるんだよ」

「俺は別に間違ったことはしてねえけどな。ま、迷惑かけた分ゆっくり休ましてもらうぜ。戻った時には全部の試合を勝たせてやるさ」

 あきれる栗栖に小宮は反省の色を彼なりに見せ、チームメートにも一応の謝罪はした。そんな悪い空気の中、天翔杯3回戦の日を迎えた。





「しかし・・・めちゃくちゃ小さいなここ」

 3回戦の会場は、国営のサッカー場ともいえる西が丘サッカー場。そのピッチに立って、剣崎は思わずつぶやいた。

「ユースカップの時に来たことあるけど、スタンドがすげえ小さいんだよな。屋根もねえし」

「まあ、それでも7千は入るらしいぜ?中立地開催ならいいんじゃないか?」

 そう声をかける竹内に、剣崎はどうも釈然としない態度を取った。

「中立地?どこがだよ。湘南と和歌山じゃ明らかに向こうが近いじゃねえかよ」


 3回戦の対戦相手は、現在J2を席巻しているといっていい湘南ポセイドンズだ。昨年はJ1で16位に終わり降格の憂き目にあい、言葉は悪いが昇降格が繰り返されている最近の戦績から「エレベータークラブ」の代表格となっている。Jリーグ黎明期には大勢の日本代表選手を抱えていたが、よりによって日本が初めてワールドカップに出場した98年に、親会社のゼネコンが撤退したからはJ2が主戦場となっている。しかし、闘将チャン・ヨンウ監督のもと近年は急成長を遂げており、目下J2の首位を独走中だ。正直な話、今の和歌山にはちょっと荷が重くも見えた。



スタメン

GK20友成哲也

DF31マルコス・ソウザ

DF17チョン・スンファン

DF22仁科勝幸

DF7桐嶋和也

MF2猪口太一

MF3内村宏一

MF4江川樹

MF8栗栖将人

FW16竹内俊也

FW9剣崎龍一


リザーブ

GK30本田真吾

DF18鶴岡智之

DF35毛利新太郎

MF24根島雄介

MF32三上宗一

FW11佐川健太郎

FW25野口拓斗



「よう、久し振りだな。怪物様よ」

「お、ヒデじゃねえか。そっちこそどうなんだよ」


 試合前、湘南のキャプテンでもある内海が剣崎に声をかけてきた。五輪合宿以来に顔を合わせるや、二人は火花を散らした。互いにキャプテンマークを巻くだけに、それはなかなかに激しかった。


「今日はガチの試合だ。本気で潰してやるから覚悟しとけよ」

「へん!いくら気張ったって無駄さ。俺を抑えられるもんならやってみろってんだよ」




「えらい気合いの入れようだなヒデ。やっぱそれぐらいの要注意人物なわけだ」

 湘南のゴール前。同じセンターバックの泉川登弥いずみかわ・とうやがちゃかす。同じようにブラジル人のエデルソンも、片言の日本語で声をかける。

「ヒデ固イヨ〜。緊張シテルノカ?」

「緊張ね…。ちょっと違うっすよ。エデに分かるかはわかんないけど、武者震いってやつっすよ。剣崎を完封出来れば、来年俺がJ1で通じるっていう保証になる。自分の力試すにはいい機会なんでね」

「武者震いか…。ま、お前がそう言うならやっぱ凄いんだろうな奴は」

「実際見りゃわかりますよ。あいつのバケモノぶりはね。…どしたのエデ」

 いつの間にか戸惑っているエデルソンに、内海は首を傾げた。


「オレ、オ前ニだじゃれ言エナンテ言ッテナイ。ダッテ、ヒデ面白クナイモン」

「…は?」

「ハハハ。こりゃいいや。エデは『武者震い』を『無茶ぶり』と聞き間違えたらしいな」

 突拍子のないエデルソンの答えに、呆気にとられる内海を見て、泉川は腹を抱えて笑った。


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