なんかずれる
ややこしい中断期間を挟んだJ1も、いよいよ後半戦。ここからは自分達だけでなく、よその結果も気になりはじめる。上位はリーグ優勝はもちろん、ACLの出場権、さらにがめつい話になれば賞金圏の行方。下位は言わずもがなの残留争いだ。特にこっちはここ数年名のあるクラブが降格している事から、脱け出せなくなると胃の痛む日々が続く。今年はACLを戦ったクラブのうち、仙台とセレーノはそこでくすぶる日々が続く。
さて、唯一のJ1初心者としてスタートしたアガーラ和歌山は、前半17戦を終えて勝ち点31。3位との差は僅か2と好位置につける。しかもリーグ最多得点の恩恵で得失点差が+17もあり、勝ち点を稼ぐことに専念できるので、今後首位に立つ可能性も無くはない。
こういう状態で一番の敵は、実はサポーターにあることはあまり気づかれていない。特に快進撃にほだされた新参サポーターは、次第にリーグ優勝を口にするようになった。
8月2日。第18節は大宮を迎え撃ってのホームゲームである。開場前に列をなす新参サポーターは、楽観的なことばかり話していた。
「今日は大宮だろ?今の俺たちじゃ正直役不足だろ」
「毎年残留争いするような弱小クラブだ。今日は勝ち点3確定だな」
「てことは、一つ上の川崎が負けると俺たち3位浮上だぜ」
「もう優勝は目の前ってわけだ。ハハハハ」
「のんきなものね。今年からサポーターになった人たちはさ」
横断幕を運ぶん段取りをする最中、コアサポーターグループ「紀蹴人」の太鼓担当であるアユミが、遠巻きに新参サポグループの雑談を聞いてため息をつく。
「そうっすよね。大宮そんな言うほど弱くないっすよ。弱小が10年もJ1にいられるわけないのに・・・」
「今日ケンジさん、コールめんどくさそうっすね」
「そうね…。ま、新しいサポーターが増えてくれることはいいことなんだし、その分あたしたちも頑張るわよ」
「ウスっ!」
「はいっ!」
一方で選手は選手で、周りの熱気に戸惑っていた。正直なところ、ここまでの結果は「いつの間にか残っていた」という感覚の選手がほとんどで、なかなか負けない現状がむしろ選手たちを懐疑的な心境にしていった。
「正直ここまで勝てるとは思わなかったな。今が現実かどうかわかんねえや」
「夢なんじゃね?剣崎ごときが英雄になれんだからよ」
「そっか」
「てめえらな…」
友成と小宮のやり取りに、剣崎は身体を震わせる。
ただ、友成にはひとつの懸念があった。
「ま、俺達みたいに失敗のない人間や、お前みたいに無神経ならともかく、真面目な人間には堪えてるだろうな」
「は?なんでだよ」
「負けるのが恐えんだよ。調子いいときに負けたら、『自分のせいだ』って言われたくねえしな」
「誰がんなこと言うんだよ。ずっと勝てるわけねえだろ」
友成の憶測を剣崎は鼻で笑ってあしらうが、小宮は賛同するように頷いた。
「J2のころから応援してくれてる人ならともかく、J1での俺達しか知らないミーハーからしたら、負け試合のメンバーは不良品同然だ。こいつらは厄介だぜ?いちいち態度変えるからな」
「そりゃ極端すぎねえか?サポーターに古いも新しいもねえよ」
そう言って剣崎は笑ったが、試合後小宮の言葉を思い知ることになる。
スタメン
GK20友成哲也
DF15ソン・テジョン
DF26バゼルビッチ
DF5大森優作
DF33村瀬秀徳
MF24根島雄介
MF17チョン・スンファン
MF21長山集太
MF7桐嶋和也
FW25野口拓斗
FW9剣崎龍一
リザーブ
GK1天野大輔
DF14関原慶治
DF22仁科勝幸
MF2猪口太一
MF8栗栖将人
MF10小宮榮秦
FW16竹内俊也
結果は1−3。立ち上がりから最終ラインの連携ミスを突かれ、リーグ戦初スタメンのルーキー根島がPKを献上。さらにおよそ4ヶ月ぶりの出場となった村瀬が拙いクリアミスをバイタルエリアでやらかし、さらに前がかりになったところに清々しいまでにカウンターを食らうという、とかく新参サポーターや一見さんにストレスの堪る試合を見せてしまった。試合終了間際、セットプレーにおいて剣崎の落としを途中出場の竹内が押し込んだが溜飲が下がるはずもなく、ゴール裏に挨拶に回った際に少なからずのブーイングを浴びた。
「ま、いつか負けるときはこんなもんさ。気にすることねーよ。切り替えりゃいいだけっすよ」
試合後の囲み取材で剣崎はそう振る舞ったが、そうも言ってられない事態になる。
翌19節のアウェイ清水戦、20節のホーム新潟戦と連敗を重ねてしまったのである。前半戦ではともにいい内容で勝った分、サポーターはもとより選手たちも落胆を隠せないでいた。清水戦は一度は同点とするも、わずか1分後に勝ち越され、新潟戦は先手をとりながらの逆転負け。3連敗中は8失点と守備が苦しく、攻撃陣も竹内が3連続ゴールと気を吐くが、「竹内がゴールを決めると負ける。次は欠場した方がチームのため」なんてフレーズがネット上に現れる始末。今年はじめてと言える試練を受けたのだった。
清水戦は1−3、新潟戦は1−2で敗れました。




