本物のホームアドバンテージ
リーグ戦再開です
7月19日。J1第15節。
アガーラ和歌山は初めてさいたまスタジアム2002にやって来た。
「やっぱでけえなあ・・・。なんか日本ぽくねえよな」
竹内とパス練習をしながら、剣崎は多くのサポーターでにぎわうスタジアムを見渡してつぶやく。
「ま、横浜のほうがキャパ大きいけど、サポーターの熱さはこっちのほうがあるからな。つーか横浜のほうはデカすぎるっているのがあるけどな」
「はん、らしくないっすね。ビビってんすか?」
竹内が達観したように解説すると、矢神が剣崎に挑発めいた声をかけた。
「ビビる?この俺が?んなわけねえだろ。もうエース気取りか真也。エースが俺だっていう事をもっかい教えてやんねえとな。先輩として」
「フン。俺だってカップ戦3試合連続でゴール中だ。今日をもって世代交代ってこと、証明してやりますよ」
先輩と後輩が火花を散らす。味方のはずなのに。
「お前らねえ・・・。負けず嫌いなのは結構だけど、2トップ組むんだからギスギスすんなよ」
そんな二人を見て、栗栖は苦笑いを浮かべた。
そしてそんな二人を見て、チョンと仁科が呆れていた。
「全く…二人そろってガキですね。剣崎は合宿で成長するかと思ったがまるで変わってないし、矢神も少しはプロの自覚が出てきたかと思ったら…」
「そう言うなニシ。FWってもんはいつまでもガキな方が見てて気持ちがいい。ましてや今日はさいスタだ。変に真面目にいるならバカの方が頼もしい。違うか?」
「まあね。…んじゃ、先輩として手本を見せにゃなりませんな」
第15節スタメン
GK20友成哲也
DF15ソン・テジョン
DF26バゼルビッチ
DF22仁科勝幸
DF14関原慶治
MF10小宮榮秦
MF2猪口太一
MF32三上宗一
MF8栗栖将人
FW9剣崎龍一
FW36矢神真也
ベンチ入り
GK1天野大輔
DF5大森優作
DF21長山集太
MF11佐川健太郎
MF17チョン・スンファン
FW16竹内俊也
FW25野口拓斗
ウィーアーグレンっ!!
ウィーアーグレンっ!!
ウィーアーグレンっ!!
試合開始前。和歌山のベンチ入りメンバーは、5万人近い浦和サポーターの大歓声にひるんだ。春先、差別用語が記された横断幕が掲示された問題で応援をリードするサポーターグループはすべて解散されたものの、野太い声援は余計な楽器がなくなった分すさまじいものがある。
「これが浦和のサポーターか・・・。正直尾道が小さく感じちまったよ・・・」
見上げながら野口がこぼす。
「俺もジュニアユースのころにスタンドから見たことあったけど、やっぱりピッチに立つと全然違う。臨場感は柏のほうが感じたけど、ここの迫力は本場ヨーロッパも舌をまいちまう。・・・でも、そんなピッチに今日は立つんだぜ。グチ、出番があるかもしれないし、気後れするなよ」
「言うねトシ」
「いやあすげえなマジで。いつか紀三井寺もこんぐらいの声援に包ませたいぜ」
円陣を組むや、剣崎はのんきな感想を呟く。
「相変わらず無神経っすね」
「そもそもねえだろ真也」
「あ、そうっすね友さん」
「お前ら・・・ちょっとひどくね?」
剣崎に対する矢神と友成の扱いを見て、関原は突っ込まずにはいられなかった。
「今日に関しては、コーチングはほとんど聞こえん。互いのポジションを確認して守るぞ。ディフェンスはとにかく集中していくぞ」
仁科のアドバイスに守備の選手は頷く。
「クリ、今日は俺たちがこのピッチの操縦士だ。あの馬鹿どもに気持ち良くプレーさせるぞ」
「そうだな。俺も代表復帰に結果残すかね。剣崎はコミだけのもんじゃねえしな」
「・・・フン」
「いようっしぃ一丁やってやるか」
笑みを浮かべて、剣崎は一つ深呼吸した。そして大きく叫んだ。
「勝つぞっ!!!」
「おうっ!!」
センターサークルにボールがセットされ、あとは主審がホイッスルを鳴らすのを待つのみ。
ボールを踏みつけながら、浦和の背番号9、九鬼敏也はぎらついた目を剣崎に向けていた。
「ようこそクズども・・・てめえら田舎者はこのスタジアムにふさわしくねえ・・・浦和の赤と同じ血まみれにして和歌山に返してやる」
「ハイハイハイ九鬼よ。中二病セリフつぶやいてないで集中しろ」
そんな九鬼に、ユースの一つ先輩で1トップの長身FW富樫浩二が冷めた目で突っ込む。
「い、いいじゃねえかガシさん。俺はあの野郎をぶったたかねえと気が済まねえんだよっ!!」
「はいはい。ま、お前さんを代表から追い出したちっさいマーカーも出てるみたいだし、まずそいつを黙らせてからな」
嫌なことを言われてむくれる九鬼。そんなタイミングで笛が鳴った。




