目の色ビフォーアフター
こそばゆかった。
それ以上に嬉しかった。
「エース」
ストライカーの証である背番号9を背負うものとして、そう頼られることほど嬉しいものはない。同時に、剣崎の胸の内に自覚が芽生えた。
どれほどの逆境であっても、自分にはゴールを決めるという使命があると。
足がつった竹内に代わり、1本目で途中交代の憂き目にあった横山が入る。剣崎や亀井ら初招集選手が結果を残す中、彼もまたこのままでは終われないという気持ちにかられていた。
(せっかくチャンスをもらったんだ。なんとか結果を残さないと…)
同じようなことを、左サイドバックの灰村も考えていた。特に灰村はある程度手応えもつかんでいただけに、何かしらの足跡は残したい。
その思惑が、大胆なサイドチェンジに繋がった。
「うおっと、いいパスだ!」
灰村からのボールをトラップしながら、横山は中を見る。迷わず剣崎にボールを託す。
「たのむぜ!剣崎」
(来やがったっ!)
ある程度想像はしていたが、こうして自分にすぐさまボールが来る当たり、自分の立ち位置がはっきりする。
「さてどうする?またやられるか」
直前、マークにつく内海は耳元でささやく。だが、剣崎は鼻で笑い返した。
「俺はな、やられたら絶対ねじ伏せる男だぜっ!」
そう言って前に飛び出す。ボールに対して正面から突っ込む。
「何考えてんだ。あれでどうゴールしようと・・・」
剣崎の行動に戸惑う渡。そんな彼の想像だにしないシュートを剣崎は打った。胸トラップで浮かせた後、オーバーヘッドシュートを叩きこんできた。
「流れでいきなりできるもんなのかよ!・・・うおっ!!」
その身体能力におののき、打たれたシュートが自分の手前で強烈にバウンドし、渡は慌てて股を閉じる。だが間に合わず、ボールは足元を抜けてゴールに突き刺さった。剣崎は仰向けに倒れたまま、天にこぶしを突き上げていた。
「まいったか、てめえら」
「は~いみんなお疲れ様~」
練習試合を終え、全選手が夕食を取った後、ミーティングルームに集められた。そこで叶宮監督はまず選手を労った。
「1週間、あっという間だったけどどうだった?なんか目の色変わった選手が多いけど・・・。ま、クラブだけでは得られないものを得たって顔してるわね、何人か。でもこれでまだ終わりじゃないのよ」
そう言って叶宮監督は指を鳴らした。黒川コーチが丸めていたA1サイズの模造紙をホワイトボードに張り付ける。そこには叶宮監督の頭で描いた「ベストイレブン」が描かれていた。
「この1週間だけの出来で判断したからあくまでも参考程度だけどね。本大会をイメージして背番号もつけさせてもらったわ」
それがこのメンバーだった。
GK1友成哲也 12渡由紀夫
DF3内海秀人 4小野寺英一 5大森優作 14真行寺誠司 15灰村柊也
MF2猪口太一 6亀井智広 7菊瀬健太 8南條惇 10小宮榮秦 13末守良和 17近森芳和
FW9剣崎龍一 11櫻井竜斗 16竹内俊也 18西谷敦志
「どう?なかなかいいバランスじゃない?ま、まだ時間はあるし、あくまでも暫定だからね。それでもちょ~っと悔しい人もいるみたいね」
楽しそうに見渡す叶宮監督。一番その思いが強いのは、長らく1番をつけてゴール前に立ちはだかった渡だろう。
「あと、入った人もさっき言ったようにこれで終わりじゃないわ。なにせまだ2年も残ってんのよ?それに今回は最上級生しか呼んでないし、後輩にすごいのがいたら簡単に代えられちゃうんだから。ぶっちゃけると、代わりはいくらでもいるの。そのこと肝に銘じて、帰ってからのリーグ戦、またアタシを楽しませてね」
ぱちりとウインクして見せた叶宮監督だが、最後の最後まで選手たちは気が休まらなかった。
「いや~やっぱ家はいいねえ~」
翌日。ところ変わって和歌山県。アガーラ和歌山のクラブハウス。ロッカールームで着替えていると、剣崎は浮かれながらつぶやく。
「どうだった?その様子じゃ、だいぶ合宿を楽しんだみたいだな」
隣で着替える栗栖が茶化す。剣崎は得意げに語る。
「いや~いい合宿だたぜ。ゴールも決めてアピールできたし、キャプテン直々にエースっつってくれたし、なんか頑張んなきゃな~って思ったぜ」
「だろうな。お前、また眼の色変わったよ」
「そうか?」
「またギラつき具合がな」
栗栖からの言葉に、剣崎は笑みを抑え、真剣な表情で語った。
「まあ・・・できることだけやったらこうなったってだけだ。またリーグ戦始まったらゴール決めなきゃな」
「その粋だ。俺もまた一から代表狙うか。太一だって行けるんだしな」
そして剣崎たちは、この合宿の影響を実感することになる。
明らかにギャラリーがにぎやかになっていた。竹内に黄色い声援が飛ぶのはいつものことだが、猪口への注目度が格段に上がった。剣崎たちらにも野太い声援が飛ぶ。
「これが期待されてるってことか。さーて、再開がてら、浦和をぶっ潰すとすっか」
そう言って剣崎は走り出した。
6月28日にストーリー展開の都合で、最後の剣崎のセリフを少しいじりました。




