攻撃特化…つーか、守備放棄
「胸糞悪いゲームだったな。やっぱ場数踏んでなきゃ、能力はエリートでもカスに成り下がるな」
練習試合が行われているピッチの見学者スペース。そこの長椅子に寝そべっていた小宮は、耳を指でほじりながらチームメートを蔑んでいた。
「やっぱこのチームは、俺様抜きでは成り立たねえよな、ヒデ」
「それはさすがに言い過ぎだ。チカは単調な展開を良く打開したし、櫻井や亀井も結果を出した。次の試合も、誰かがなんとかするだろ」
隣に座る内海は、小宮をたしなめながら展望を語った。
この二人、今日は叶宮監督に「アタシに近づかないで。使いたくなっちゃう」と強制的に休養させられていた。いわば攻守の中軸たる二人を抜いての練習試合。その2本目、叶宮監督は非常識なスタメンを組む。
GK友成哲也
DF大森優作
DF小野寺英一
MF菊瀬健太
MF南條惇
MF猪口太一
MF末守良和
FW竹内俊也
FW剣崎龍一
FW櫻井竜斗
FW西谷敦志
どうおかしいかはこれだけでも理解できると思う。2-4-4という布陣。前線にFWを4枚も置いた一方で、最終ラインにはセンターバックの2人しかいない。サイドハーフの菊瀬、末守がアップダウンしたり、猪口が戻ったりしてそれなりに守備の形は作られると考えられるが、かなり攻撃に特化した、もっと言えば守備を放棄した人選とも言える。
「こ、こんな布陣、本番で使う事あるんですか?」
さすがに参謀の黒松コーチは戸惑って指揮官にそのこころを聞く。
「あら、あるわよ。予選はリーグ戦なのよ?ザコをボコりにボコッて得失点で優位に立てるようにしたいじゃない?それに、得点力の高さをアピールできれば、相手へのいい警告になるわ。それに、こんな夢のような攻撃陣を生かさない手はないじゃない?」
「・・・まあ、わかりますけど。それでも無茶ですよ、このメンバー」
「いいじゃない。清水戦である程度出来はわかったし、ブラジルでの日本代表見てたらストレスたまるじゃない。だからちょっと発散しなきゃね」
当然ながら、その戸惑いは敵味方問わず選手に波及した。
「あーあ。使える駒はこのデカブツ二人だけか。大丈夫なのかお前ら」
「そりゃ俺のセリフだ友成!つーか何様でモノ言ってんだよ」
小ばかにするようにつぶやく友成に、小野寺はイラつく。
「まーまー英くん。守るのが友成なんだから俺らは俺らの仕事しよ」
ついでのんびりとした大森に、小野寺はなおもイラついた。
「どういう根拠からそんなのんきな言葉が出るんだよおまえは・・・。心強いのか天然なのか」
「とにかく天パ、デク、お前らはとにかく潰しに行け。負けたら失点した俺たちじゃなくて、それ以上に得点できなかったあいつらが悪いんだからよ」
「だから天パ言うなって。・・・つーか大森、お前の『デク』って?」
「え?でくの坊のデクだけど?」
「お、おまえそれでいいのか?バカにされてんだぞ」
「そう言われるのはピッチの上だけだよ。呼びやすいならそれでいいし」
「ならいいけど・・・。俺は四六時中『天パ』って言われんだけどな」
小野寺はどこか納得できず首を傾げた。
さてゲーム開始。当然ながら大学生側は、前線にロングボールを放り込み、FWがキープして他の選手が攻め込むという至って単純な攻撃を仕掛けてくる。が、初っ端からこの思惑は空ぶった。
「でやあっ!!」
「グアッ!」
とにかく空中戦で大森に勝てない。小野寺も小さいほうではないが、やはり190センチのバリバリのJリーガーは、大学生では歯が立たない。ロングボールやクロスボールをことごとく跳ね返し、猪口がセカンドボールを拾って攻撃に展開させた。
「和歌山のやつらばっかり目立ったまんまじゃ癪だ。俺だってやってやるぜっ」
右サイドに展開されたボールを受けた菊瀬は、得意のドリブルでサイドを疾走。中に切れ込む際には、竹内とワンツーパスをして潰しに来たDFをかわす。
「剣崎、頼むぞっ!」
「任せろってんだ!!」
ゴールと対面している剣崎は、菊瀬のパスを左足のインサイドでトラップ。それを右足のつま先で蹴り込む。ポストに当たってゴールはならなかったが、反対側に跳ね返ったボールに西谷が詰める。
「もらいっ!」
スライディングしてそれを押し込み、自分のゴールと確信してガッツポーズ…を作りかけたが、余計なプレーが入る。ゴールラインすれすれで櫻井がそれを踏んずけて止め、わざわざヒールキックで押し込んだ。まるで自分が決めたかのように(実際そうだが)はしゃぐ櫻井に、西谷は思わず突っかかった。
「てめえ!何勝手に人のゴールパクってんだよ!」
「え〜?今のは僕のゴールだよ?ラインを割らせたのは僕だもん」
「はぁっ!?何白々しく抜かしてんだよこのコソドロ野郎っ!」
櫻井の振る舞いに西谷は地団駄を踏む。たかが練習試合だが、結果にこだわる西谷には当然納得できないゴールとなった。
2本目の代表チームのメンバーは、実戦で使うにはかなり無茶なものだが、前線の迫力は大学生を子ども扱いにする凄まじいものだった。
このメンバーのキモは、前線の4人の迫力よりも、中盤の4人の運動量にあった。両サイドハーフが激しくアップダウンを繰り返して攻め込ませず、中央の南條、猪口も遊撃的に動いてインターセプトを連発。援護するように竹内と西谷も絡み、相手を攻めさせなければ守るために戻させもしない。相手の中盤を前後から切り離させ、大学生チームのポジションを間延びさせ、生まれたスペースを選手たちは蹂躙した。
「剣崎っ!」
左サイドを突破した末守が、バイタルエリアに仁王立ちする剣崎にアーリークロス。
「アツっ、これでスッキリしろい」
それを剣崎は西谷の方に折り返す。
「…俺も落ちぶれたもんだぜ。お前にアシストされるとはな」
愚痴りながらも、西谷はそれを右足ボレーで叩き込んだ。
「く、くそ!もっと引けって!バイタル固めろっ!」
「んなことわかってるよっ!!でも、こいつら…」
始まって10分も経たないうちに連続でゴールを決められ、大学生側のキーパーは味方DFに指示を飛ばす。しかし、プレスの圧力に屈し、思うようにプレーできない。
「そろそろ頃合いか。打てよ」
中に切れ込んでボールをキープしていた竹内は、そう言って剣崎に繋ぐ。距離はあったが迷いはなかった。
「固めたところで無駄なんだよっ!!」
そう言って剣崎は左足を振り抜く。唸りをあげる弾丸ライナーがクロスバーを叩く。
「あ、またボール転がってきた。ラッキー」
そのこぼれ球を、再び櫻井が押し込み、今度は剣崎が地団駄を踏んだのは言うまでもない。




