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出たくて仕方がない

「う〜〜〜〜」

 ベンチ内で、剣崎は貧乏ゆすりしながら唸っていた。落ち着かない剣崎に、足を組んで隣に座る西谷はイラつく。

「てめえさっきからうるせえぞ。少しは黙ってろ」

「だってよお、ぜんっぜんゴール決まんねえし、打てるシュート打たねえから腹立ってよお!あ〜〜〜〜試合出てえっ!!」

「うっせえなあ、ちっとは黙ってろよ!」

「まあまあアツ。剣崎はシュート打ってなんぼの選手なんだからさ、大目に見てやれって」

 なおも苛立つ西谷を竹内がたしなめる。あわせて茶化したのは南條だ。

「アツ。剣崎にイラついてるけどさ、本心はお前も出たいんだろ?顔に書いてるよ」

「う、うっせえ。出番は監督が…決めるもんだ。せ、選手がどうこう言うもんじゃねえや」

 図星だったようで、西谷はツンデレな反論。南條は笑いを必死にこらえて身悶えた。



(前ん二人はよか動けとる。もうちょいタメ作るけんね)

 さてピッチ上では、トップ下に投入された近森が、単調だった攻撃を活性化させた。

 さすがに所属クラブでも、年代別代表でも場数を踏んでいるだけに、硬直した展開をどうすれば打開できるかを知っている。小宮の陰に隠れた格好になっているが、彼も同年代の中では指折りのゲームメーカーである。

 近森が攻撃のタクトを振るう中で、櫻井がより相手の脅威となった。なんとなく波長が合うからなのか、櫻井が欲しいタイミングでパスを出し、相手のディフェンスを崩していく。そして生まれたゴール。


 近森のキラーパスに反応した櫻井が、天宮とのワンツーを経てDFラインの裏に抜け出し、キーパーをかわしてシュート。いとも簡単にゴールネットを揺らした。

 ただ、だからと言って全てのちぐはぐさが解消されたわけではない。というのも、亀井、御船の両ボランチがインターセプトしてからのショートカウンターは丁寧にパスで組み立てられるのだが、3バックからは天宮を目がけたロングボールばかり。多彩な攻撃と言えば聞こえはいいが、DFはクリア一辺倒で芸のない攻撃に終わっていた。


 戦いとしては悪いわけではない。叶宮監督の言葉を借りるなら「大学生程度に楽な方法で攻撃するな」ということだ。ただ、それを今のメンツで指摘するには無理がある。土田はレギュラーといかないまでも途中出場やレギュラー欠場時のバックアップで試合に出ているが、星岡、松宮はいずれもリーグ戦2試合、それもロスタイムの数分程度の出場しかなく、サテライトリーグが廃止された今となっては実戦感覚を養う機会はほとんどない。結果、少しだけ激しく寄せてきただけでどうもプレーがパニくってしまい、遠くに蹴りだすことに手一杯になってしまっているのである。


「しょうがないわね。ま、天宮君に罪はないけど・・・とりあえずロングボールに甘える状況を何とかしないとね」


 叶宮監督の選択は、2トップを代えることだった。自分に非があるのかとあっけにとられる天宮であったが、叶宮監督は「あなたに罪はないわ。むしろ櫻井君を良く生かしてたわ。今後も頼りにしているわよ」と声をかけた。ついでに代えられた櫻井は「ゴール決めれたし、まいっか」と飄々としていた。代わりに入れられたのは西谷と竹内だった。交代の最中、叶宮監督は3バックの3人を呼びつけていった。

「いいこと?この2トップじゃロングボールは使えないわよ?相手におびえないでパスでつないでいきなさい。いい?」


 しかし、この交代は悪い方向に出る。

 ロングボールを禁止された3バックの面々は、途端に危なっかしくなった。「奪ってすぐに前線へ」と割り切ったことで積極的なディフェンスを見せていたのだが、守備と同時に攻撃を意識しなければならなくなると、試合勘不足を露呈した。それを見越して、駿河水産大の選手たちがガンガンプレスをかけ、高い位置でカウンターを繰り返す。その変わりように叶宮監督は開いた口が塞がらない。

 だが、それでも無失点でしのぎ切った。林堂が好セーブを連発したのである。


(3番手で終わるなんざもっでえねえ。おらだってやる時はやんべっ!!)


 積極的に前に出てボールを弾き飛ばし、シュートを片手一本でセーブすることも。残り15分で実に6本のシュートが枠に飛んだが、そのすべてを防ぎ切ったのである。


 そして最後に近森ももう一仕事。虚をついてドリブルで攻め上がり、相手をひきつけてバックパス。スリーのスペースに走りこんでいた亀井が押し込み、近森は「膠着打破する2アシスト」。亀井は「効果的なインターセプトにとどめのゴール」という手土産を得た。


(小宮が出れんときゃ、俺を使いんしゃい監督!)とガッツポーズを作る近森。

(まだまだぁ。もっと土産を持って帰ってやるぜ!)と安堵しつつも気を引き締めなおす亀井。



 それなりの成果を得て、まずは1ゲーム目が終わった。

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