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最も負けが許されない

 合宿四日目。


 叶宮監督率いるリオ五輪代表候補18人は、練習試合のためJ1清水インパルスの練習場に乗り込んだ。

 バスが駐車場に入ると、十数人のカメラマンが待ち構えているのが車窓から見えた。


「すげえカメラの数」

「ふつうこういうのって非公開じゃね?」

 やや戸惑い気味の選手に叶宮監督は笑いかけた。

「なーに言ってんのよ。どーせなら見せてあげましょ?それよりも堂々と振る舞いなさい。あんたたちは日本で一番『負けが許されない』チームなんだから」

 その言葉に誰もが息をのんだ。

 負けが許されない。つまり「オリンピックは出て当然」と見られているのが自分達だ。選手たちは緊張の面持ちで、降車の際に大量のフラッシュを浴びた。

 最後に降りた叶宮監督に、カメラマンが戸惑い気味に聞いてきた。

「あ、あの、叶宮監督。九鬼選手の姿が見えませんが…」

「あ〜返しちゃった。なんか調子悪いみたいだから」





 練習試合に連れられたのは彼らである。


GK渡由紀夫、友成哲也

DF猪口太一、内海秀人、小野寺英一、大森優作、真行寺誠司、真行寺壮馬、灰村柊也

MF菊瀬健太、小宮榮秦、末守良和、近森芳和、南條惇

FW剣崎龍一、櫻井竜斗、竹内俊也、西谷敦志


 アップ中、やたら騒がしい青い集団がいた。手拍子をし、メガホンを叩き鳴らして「ニッポン!ニッポン!」と連呼。日本代表のサポーターたちだった。


「暇人だな。たかが練習試合にかけつけるなんてよ」

 パス練習の最中、小宮はパートナーの内海にぼやく。

「でも、来てくれるってことは、俺達も日本代表と見てくれてるってことだし、本気でなきゃこんなとこにこないよ。練習試合とは言え、腑抜けたプレーはできないぞ」

「フン。言われるまでもねえよ」


スタメン

GK渡由紀夫

DF内海秀人

DF大森優作

DF小野寺英一

MF猪口太一

MF南條惇

MF近森芳和

MF小宮榮秦

FW竹内俊也

FW剣崎龍一

FW西谷敦志


 キーパーは渡。最終ラインは3バックで右内海、中央大森、左小野寺の各センターバック。中盤は南條と猪口、近森のトリプルボランチと小宮のトップ下。前線は3トップで右ウィング竹内、左ウィング西谷、そしてセンターFWが剣崎だ。サイドでプレーするのが実質二人だけで、かなり中央突破に特化している。

「へへ。なんかこの三人で攻めんのって久しぶりだな。わくわくするぜ」

 ウェアに着替えながら、剣崎は楽しげに呟く。

「確かにな。でもあの時と違って、今日は俺もアツもFWだからな。俺達もゴール狙うぜ」

「その通りだ剣崎。クロスをあげなきゃならんときはくれてやるが、てめえも俺達を活かせよ」

「おう。ゴールは早い者勝ちだぜ」


「なかなか楽しみな3トップですね監督。剣崎は強いし、竹内や西谷もスピードがありますから」

「そうね黒ちゃん。ただ、アタシの本音を言えば九鬼君使いたかったんだけどね」

「だったら残しといてもよかったじゃないですか。わざわざ返す必要は…」

「そうはいかないわ。あの子は猪口に完敗した。つまり有言実行を果たせなかったのよ?口先だけの人間はいらないもの。それに彼が本当の実力派なら、必ず競争の舞台に帰ってくるわよ」



 練習試合は、思った以上の見学者があつまり、マスコミを含めそこそこの耳目を前にしてのものであった。

 そしてこの耳目の数は、清水の選手たちを本気にさせた。特に普段出番の少ない若手や新人にすれば、代表候補相手に結果を残せば自分の株価上昇に直結する。それだけに球際は激しく仕掛け、攻撃もアグレッシブに仕掛けていった。

 しかし仕掛けてくるのなら、むしろ望むところ。攻めの圧力に関しては明らかに代表チームの方が試合勘も連携も取れている。ボールを奪った瞬間に「俺のターン」がくる。

 だからボランチとセンターバックの3人組は、ボールを奪うこと、パスを切ることを意識した。


「くそ…こいつら。出しどころがねえ」


 清水のMF今村は、代表守備陣のポジショニングに戸惑った。

「一端戻すしか…」

「イマっ!来てるぞ!」

「え、わっ!!」

 味方の叫びに今村が反応したのと、猪口が鋭いプレスをかけたタイミングが被る。奪った猪口から南條を経て小宮に繋がる。同じ頃、前線の3人も戦闘体勢に入った。

 ボールを受けた小宮は、じっくりと3人を見渡し、言い放った。


「さーて、ボール欲しい奴はいるかぁ?」

 ニヤリと笑う小宮に、前線の3人は同じタイミングで同じように呼び込んだ。



「「「小宮っ!!俺によこせぇっ!!」」」




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