世界一の2部リーグ
個人的な意見として、J2は世界に誇れる2部リーグだと思います。
合宿は早くも三日目。短期間であるが、選手たちが互いにコミュニケーションをとる様子は増えた。おもに内海ら主力組が新顔に話しかけるといった流れで、剣崎や竹内、西谷らしゃべり上手はすぐに溶け込んでいた。独特の雰囲気を持つ櫻井も、そのキャラクターとリフティング技術で次第にチームになじみ始めた。
そんな中、新顔で一人なじめない選手がいた。尾道史上初の代表招集となった亀井である。
「はあ・・・。なんで俺なんかがここにいるんだろうな。明らかに場違いだよ」
そうぼやいてため息をついては、人の輪を遠目に見るだけだった。
別に彼らを避けているわけではない。猪口や竹内といった顔見知りの仲介で会話くらいはしたが、自分からはなかなか行動できていない。育成年代で代表経験もなければ、高校での実績もたかがしてれ程度。亀井にとって他のメンバーは『眩しすぎる』のである。
「よっ。亀井君。また避けてるのかい」
そんな亀井に、西谷のチームメートである、南條惇が声をかけてきた。
「え・・・と、南條君であってたっけ。エカツ・・ツ・・」
「エカツェリンブルグ。言いにくいだろ?でも昔日本の格闘技団体と交流があるおかげで、日本人に結構友好的なところでさ」
「そ、そうなんだ・・・」
話しかけられた手前、何を言えばいいのか正直迷う。ただ、いつまでもこのままでいるわけにもいかない。思い切って聞いてみることにした。
「あ、あのさあ、南條君ってずっとロシアだっけ」
「惇でいいよ。まあ、親の仕事の関係でね。西谷とは去年から一緒でやってるのさ」
「ロシアリーグって、どんな感じ?俺ミーハーだから、モスクワに日本代表の本条さんがいたぐらいしか知らなくて・・・」
「いやいや誰だってそうだよ。まだまだロシアのレベルはあんまり高くないし、別に見どころもないしね」
「でも、あんな寒いところでサッカーやってるなんてすごいよね。・・・はあ」
会話はできるようになったが、一通りしゃべってまた一つ亀井はため息をついた。そんな亀井の心中を見抜くように南條は質問した。
「ねえ。『俺、場違いだよな・・・』なんて思ってる?」
聞かれた瞬間、ドキッとした。明らかに動揺が顔に出る。それに南條は笑った。
「自信持ちなよ。むしろずっとロシアの田舎町でプレーしてて呼ばれた俺のほうが場違いだよ。だって今まで取材受けたことないしさ。それに、君は世界でも一番すごいリーグで、10番つけてプレーしてるんだからさ」
「大したことないよ・・・。J2の10番なんて」
「いやいや。J2は俺の中じゃ世界に誇れるリーグさ。だってさ、この代表の主力はJ2でプレーしてるんだろ?」
その一言に亀井はハッとなる。
よくよく考えてみればそうだ。キャプテンの内海は湘南、近森は福岡、自分は尾道。さらに和歌山勢もみんなJ2育ちだ。南條が「世界に誇れる」という言葉はお世辞と思ってむしろいい気はしなかったが、あながち間違いでもない。
「もっと自信もちな。10番を背負う選手ってのは、どのカテゴリーにいても認められる要素があるんだからさ」
そういって南條はひらひらと手を振った。それを見る亀井の表情は、何か吹っ切れた感じだった。
三日目の午後には紅白戦が組まれた。目的は、翌日のJ1清水インパルスとの練習試合スタメン決定戦である。選手たちは食堂内にてその振り分けを発表された。
Aチーム(ビブスなし)
GK友成哲也(和歌山)
DF土田速人(浦和)
DF小野寺英一(鹿島)
DF真行寺誠司(浦和)
DF真行寺壮馬(浦和)
MF南條惇(露・エカツェリンブルグ)
MF御船直行(東京V)
MF小宮榮秦(和歌山)
FW九鬼敏也(浦和)
FW西谷敦志(露・エカツェリンブルグ)
FW天宮礼音(独・デュッセルドルフ)
Bチーム(ビブスなし)
GK林堂基文(AC東京)
DF内海秀人(湘南)
DF大森優作(和歌山)
DF猪口太一(和歌山)
DF灰村柊哉(鳥栖)
MF亀井智広(尾道)
MF近森芳和(福岡)
MF末守良和(AC東京)
MF菊瀬健太(新潟)
FW剣崎龍一(和歌山)
FW竹内俊也(和歌山)
「ハーイ以上でーす。それじゃあ言われたチームに分かれて~。呼ばれなかった人はアタシについてきて。先にピッチに行こうか」
叶宮監督に言われるがまま、Aチームは黒松コーチに、Bチームは樫田コーチに連れられてそれぞれ別室に移動していいた。両コーチがそれぞれに指揮を執る。とはいっても、二人は叶宮監督のメッセンジャーであり、彼らが直接采配を振るうわけではない。
部屋につれてこられたメンバーは「1時間ミーティングして互いの特長を伝えあうように」と指示され、部屋に放置された。コーチがいなくなったそれぞれの部屋で、奇しくも同じ言葉が出た。
「「どっちにも渡がいないのは不思議な感じがするな」」
「まあ、別にキーパーは奴だけじゃない。こいつは小さいが、実力は保障する」
友成を指差しながら小宮が得意気に話す。西谷もそれに同調した。
そして友成も最終ラインの面子に声をかける。
「まあ、俺を信じる信じないは任せるが、俺の指示には従えよ。まずお前は『デブ』な」
「でっ!丸顔なだけだよ!これは筋肉だっ!」
いきなり悪口まがいのネーミングに、土田は抗議するが、構わず友成は呼び名を決める。
「お前は『天パ』で」
「き、気にしてることを…」
「クラブでレギュラーとれてないお前らには十分だろ。文句あるなら次はレギュラーになって代表に来るんだな」
何様のつもりだ、と怒鳴りたかったが、そう指摘されるて土田と小野寺は反論できない。
「で、お前らは…『つり目』『たれ目』でいいな」
「「適当すぎねえかさっきから」」
双子のサイドバック、真行寺誠司(つり目)、壮馬(たれ目)兄弟もハモってツッコんだ。初対面にも関わらず、挨拶がわりの悪口で味方に敵意を抱かせた友成。しかし、友成には自信があった。
J1生まれでJ1育ちのエリートを黙らせるプレーができる自信が。




