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常連から見た和歌山勢

 「2秒以内にパスを出す」というルールのもと、ゲーム形式練習は、選手が入れ替わりながら進んでいく。ただ、小宮の存在がとにかく際立つ。いるときの存在感はもちろん、いなくなった時の喪失感がすごい。近松や竹内、周囲を驚かせた猪口もそれ相応のプレーを見せてはいるが、三人が人間の延長線上にいて、小宮は別次元の存在、とでも言おうか。生まれながらのファンタジスタとの差は想像以上に大きい。これには叶宮監督はさすがに頭をかいた。


(小宮がいるときは楽だけど・・・。いなくなった時の戦い方はよ~く考えなきゃだめね)


 ただ、このパス回しに、一度も参加していない選手が二人いる。いや、参加はしている。ただ、一度もパスを出していないのである。剣崎と櫻井である。この二人は二人で、叶宮監督から別の指示を受けていた。


「あんたたちはパスなんか出さなくていいから、必ず攻撃をシュートで終わらせなさい。あんたたちに与える仕事は『他の選手の苦労を報わせること』よ。あんたたちは世界レベルの決定力を持っているのだからね」


 この二人が特別扱いされていることを快く思わない選手も二人いる。九鬼と西谷である。

「ふざけんなよ・・・。ぱっとでの野郎よりも俺が信用できねえのかよ」

「くそ。ロシアで結果出してもこれかよ。ま、わからせてやるしかねえな」

 ただ、その反応は対照的。負けん気を燃やす西谷に対し、九鬼はどうも虚栄が見え隠れする。これが事前に叶宮監督が言った「プライドと見栄」の違いと言える。もっとも、エリート選手として人生を歩んだ人間が、突然逆の立場に立たされた時の行動は、過去にもあったかどうかにもよる。西谷はかつて剣崎のチームメートであったのに対して、九鬼は生まれてこの方お山の大将。自分のプライドが、プレーの質に影を落としていくことは、この時点での九鬼には知る由も気づきようもなかった。



 パス練習が一段落つくと、次はセットプレー練習に入る。叶宮監督はとかくこの精度の成熟に躍起になっていた。彼の中でこれの重要度はとにかく高い。

「いくら戦術云々で乗り切っていても、結局得点されたら負け。その可能性が高いセットプレーを磨けば武器として警戒されるし、しのぐすべを知っていればいいカウンターを仕掛けられる」というのが理由だ。

 元来、このセットプレーはフィジカル、とりわけ高さの部分で差が出る。日本は長らくそれに悩まされてきた。しかし、叶宮ジャパンはそれを克服できる人材が、そろうどころかあぶれていた。とにかくセンターバックが豊富なのである。キャプテンを務める内海が181cm、常連の小野寺英一が187cm、今回初召集の大森が190cm、そして守護神の渡が199cmである。長年ロングボールからの空中戦に負け続けた日本にとってこれは心強い。さらに小宮という稀代のキッカーがいて、剣崎(185cm)という同世代最強のストライカーもいる。セットプレーを磨かない手はなかった。

 ここで剣崎はさすがの存在感を見せた。


「うおりぃやぁっ!!!」

「うおわっ!!」


 コーナーキック。近森からの正確なクロスを剣崎は内海と競り合う。そして競り勝ち、渡の伸ばす右腕もかなわないヘディングを叩きこむ。


(すごか・・・ヒデが負けるFWなんてそうはおらんたい。J2の時とはまるで比べもんにならんと)

(くそっ!馬力もそうだが、ジャンプ力と滞空時間がヤバい・・・。同じ日本人で助かるな)


 合宿はまだ2日目。しかし、ある程度メンバーは固まりつつあった。


「ばってん剣崎っちゃほんなごと化け物ばい。ヒデを負かすとこそうそう見れんばい」

 昼食時間。近森は他の常連メンバーとの会話でとにかく剣崎を持ち上げていた。同調したのは鹿島のセンターバック、小野寺英一おのでら・えいいちだ。

「確かに。正直俺だって勝てる気しねえよ。あいつよりデカい大森も大変そうだからな」

「練習中も思ったけど、あいつが同じ日本人であってよかった。あんなのが韓国やオーストラリア、中東あたりにいたら勝てる気がしなくなる」

 実際に肌を合わせた内海も率直な感想を漏らす。その内海の隣に、小宮が何の了解もなしに座り、ふんぞり返った。

「どうだいお三方。うちのエースストライカー様の実力はよ。正直頼もしいだろ?」

「偉そうに。まだチームメートになって1年もたっとらんたい」

 小宮の態度に近森は苦笑いだ。小野寺も剣崎に対するインパクトを語る。

「開幕してすぐにお前らと試合したけど、やっぱあいつの馬力はインパクトに残る。あの時はベンチから見てるだけだったけど、実際にぶつかってみてそのすごさがよくわかるぜ」

「まあ、迫力と決定力はあるけど、それ以外は素人以下だからな。そこは評価の分かれるところだが、きつい試合しているときにあの存在感は助かる。俺も奴にはパスの出しがいがあるぜ」


 そこから話は和歌山のクラブにおよぶ。


「しかし聞けば聞くほど和歌山って変わってるよか。猪口…だっけ?あのタッパ(身長)じゃ普通選考から漏れるだろ」

「いや、それ以上に友成だろ。小さい上にサッカー歴1年ってなんだよ…それでユースの試験受けるってどんな根性だよ。通す方も通す方だけど」

 小野寺や内海が言うように、ユースのセレクションでは体格が決め手となることはままある。基本的に下部組織の本分は育成なのだが、ユースの年代になるとある程度の戦績も残す必要がある。勝負どころでは高さが必要となってくるので、小柄な選手はよほどテクニックやスピードが秀でていないと厳しい。キーパーであればその傾向はなお強く、むしろそれだけで落とされる例も少なくない。ましてや友成にいたっては経験も浅いので、彼らにすれば七不思議レベルの存在なのである。


「まあ、貧乏人なりの工夫が偶然実っただけだろ。トータルで抜きん出た奴は、そもそも弱小で知名度もないクラブに来やしねえからな」

「結局きさんはくさすと…。ほんに口悪か」

 小宮の総括に近森は呆れるだけだった。

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