選手たちの交わり
「よお〜アツ〜お前ほんと久しぶりだな〜。なんかやけに風格でてんじゃねえか」
選手の多くが緊張しているなか、剣崎のはしゃぎ声は恥ずかしいぐらいに響き渡る。絡まれる西谷は、貧乏くじを引いた気分だった。
「…全っ然成長してねえじゃねえか。なんでてめえはガキのままなんだよ…」
「でもすごいよね。ロシアリーグで19ゴール、堂々のリーグ3位でチームの躍進に貢献。お前とチームいっしょだったなんて不思議な気分だよな〜」
素直に誉めちぎる大森に、今度はこっぱずかしくなる西谷。リアクションに困る一方だった。
一方で、何人かの初招集選手は、肩身の狭い思いだった。何せ周りは有名人揃い。自分と比べて輝いている選手ばかりだ。
「なんで僕なんかが呼ばれたんだろうなぁ。剣崎たちと違ってほとんど試合出てないのに…」
そう肩を落とす猪口に、同じように自信なさげな尾道のMF亀井が声をかけてきた。
「すごいとこ来ちゃった感じだよね。正直居心地悪いよ…」
「亀井君は大丈夫だよ。10番背負ってるんだし」
「猪口君だって。ずっと大きなFW相手にディフェンスうまいし…」
「へっ。新人風情が傷のなめあいかよ。痛々しいなぁ」
そこに、せせら笑いを含めた言葉が投げ掛けられた。言葉をぶつけてきた男は、ニヤニヤと笑いながら二人に近づいてきた。
「ま、お前ら完全に浮いてるもんな。安心しな。誰も眼中にないからおとなしく消えとけ」
「な…そんな言い方ないんじゃないか?」
さすがに猪口が食いつく。
「言い方?まさかお前らと俺が『同じ』とでも思ってんのか?おめでたいなあ〜」
「人を見下す態度…、相変わらずだな。九鬼」
猪口たちをからかう男を竹内がとがめる。竹内に九鬼と呼ばれた男は、罵声の矛先を竹内に変えた。
「お〜?誰かと思ったら、浦和から逃げ出した竹内俊也じゃねえか。久しぶりだなぁ」
明らかに見下して声をかける九鬼。竹内は眉間にシワをよせながらも、表情は変えなかった。
「…何度でも言えよ。ここにいるなら有名も無名もないだろ」
「なんだよ、負け惜しみか?」
「…」
竹内の反応の薄さに、九鬼は面白味を欠いたか白けたようにぼやいた。
「ま、人生は一期一会の繰り返しだからな。精々あがくんだな」
しゃくにさわる笑い声をあげながら、九鬼は立ち去った。
「俊也…あいつ、知り合い?」
「…浦和のジュニアユースの同期だ。九鬼敏也。いまはトップチームで9番つけてるよ。少なくとも大口を裏付けるぐらいの才能を持ってるよ」
「浦和の…あ、そうか。俊也は元々ジュニアユースは浦和…って、あいつも敏也って言うのか?ややこしいな」
はっとして猪口は頭をかく。竹内はため息をついて話す。
「…ジュニアユースじゃ『ダブル・トシヤ』なんて言われたけどね。ただ…根っからのお山の大将でな」
そうこうしているうちに集合の号令がかけられた。集まった選手たちに叶宮監督は挨拶した。
「は〜い。常連さんはおひさしぶり〜。そして〜、初めての人ははじめまして〜。アタシが五輪代表監督の叶宮よ」
パチリとウインク。誰もが戸惑う。傍らに立つアシスタントコーチの黒松が咳払いをして本題に入る。
「エーそれでは、これからちょっとしたテストを行います。キーパーはこっちに来てください。フィールドプレイヤーは叶宮監督と樫田コーチについて行ってください」
黒松の指示で選手たちは分かれた。黒松コーチに先導されたキーパーたちは、ゴール前に来た。そこには10数人の男性がユニフォーム姿で待っている。ただ、おかしいのは年齢がばらばらだということ。自分たちと歳が近そうな人がいれば、一回り離れていそうな人もいる。
「えーと、それでは君たちには今からこの人たちと私を相手にPKセーブの練習をしてもらいます」
「この人たちと?」
「つーか誰ですか?この人たち」
矢継ぎ早に黒松コーチに質問する選手たち。黒松コーチはジャージを脱ぎながら答えた。
「彼らは叶宮監督が雇ったアルバイトたち。ま、大体は元Jリーガーとか、現役のJFL選手だよ」
「で?いつまで相手してるんですか?」
友成のもっともな質問。それの返答に誰もがあきれるのだった。
「えーと、向こうが終わるまでだから・・・大体2時間半ってとこかな」
「・・・は?」
同じような反応は、フィールドプレイヤー組にも起こった。
「監督…今なんて」
戸惑った選手に、叶宮監督はせせら笑いながら答えた。
「な〜に?日本語分かんないの〜?『走れ』って言ったの。二時間」
「二時間?マラソン?」
「サッカー関係あんのか?」
「んなわけないわよ。サッカーの試合中だらだら走る?20メートルダッシュを2時間やれって言ってるのよ。ちゃんとタイム計るからマジになってやんなさぁい?…ん?」
叶宮が視界に捉えたのは、明らかに不服そうな表情を見せた選手だった。選手は視線に気づき、表情を引き締め直したが、叶宮は目をすわらせて笑顔で近づいた。
「ほ〜たるのぉ〜ひ〜かぁりぃ〜んま〜ど〜のゆ〜う〜きぃ〜」
叶宮は突然卒業式の定番ソングを口ずさみ、ポケットから何かを取り出した。
「ふ〜み〜よむぅ〜つ〜きぃひ、か〜さ〜ねつ〜う〜つ〜ぅっ」
それを選手の胸に張り付けた。突然貼り付けられた赤いもの。それは、実際にJリーグのレフェリーが試合で使っているレッドガードだった。
「ここではね、アタシが絶対なの。スケープゴートにしちゃうけど、自業自得よん。バァイ」
そう言って指をならすと、どこからともなくグラサンをかけた黒ずくめのSPっぽい二人組が現れる。
「えっ、な、なに、うわっ!放せよっ!おいっ!」
両脇から選手を羽交い締めにすると、機械的に選手をクラブハウスに連行していく。呆気にとられる選手に、叶宮は満面の笑みを見せて伝えた。
「どういう練習でもとりあえずやってね〜。少しでもナメた真似したら永久追放よ〜ん」
笑顔が余計に怖い。誰もが不満を隠し、叶宮の指示する通りにダッシュを始めた。




