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何かをしでかす男

前話「王様が認めた存在」とくっついてましたが、収集つかないくらい膨大になったので、切り離して加筆しました。

 少し時間を巻き戻す。小宮が味方のパスをインターセプトし、それを関原が取り返した瞬間だ。剣崎と栗栖は、関原からのボールが届く寸前にアイコンタクトを交わしていた。


「俺に繋げよ。いつもの、頼むぜ!」

「いつもの…ね。わかったよ。『極上』なのな」


 この会話に音はない。幼馴染み同士の為す呼吸のようなものだ。


 そのやりとりのあと、剣崎は背中越しに竹内を見る。竹内は「ん?」となんとなしに剣崎の視線を感じ、見る。そこからははっきりとオーラが伝わった。「お前もつっこんでこい」と。


 疲労困憊で全身に乳酸がたまる自分に、なんて無茶な注文だ。竹内は一瞬そうつっこんだが、剣崎の要求に従った。


 剣崎が送った二人へのアイコンタクト。栗栖にしても竹内にしても、送られた内容は無茶極まりないものだった。それでも二人が従ったのは、コンタクトの発信源が剣崎だからだ。


 何かをしてくれる剣崎だからだ。



 剣崎が身にまとわせている、「何かをしでかす」感。それは渡もなんとなしに感じていた。キーパーとしての第六感が、「こいつはヤバい」と訴えていた。



(9番がニア、16番がファーか。いや、高さ云々ならペナルティアーク付近で入れ替わるか…?)


 ペナルティーエリアに迫ってくる二人のストライカーにチラチラと視線を送るも、それ以上に不可解なのが栗栖だった。サイドのスペースに走り込んでいるのはいいが、一向にクロスを上げる気配がない。かといって誰かがフォローに来ているわけでもない。


(いつセンタリングするんだ?もうすぐゴールラインだぞ?)


 サイドをかける栗栖は、狙うポイントにむかって走っていた。剣崎が望む『極上のボール』をセンタリングしやすいポイントを。そしてその一点を視界に捉えたのだ。

(蹴る側が思うのもアレだけど、命がいくつあっても足りないやつだよな)

 蹴り上げる瞬間、栗栖はふと苦笑する。だが、躊躇ちゅうちょはなかった。


(決めてくれよ、エース様よ!)



 栗栖のセンタリングに、渡は戸惑った。ボールが速すぎること、それがゴールポスト近辺で、飛び込むとポストにぶつかる危険性をはらむこと。何より剣崎がその危険性に目もくれず、ジャンピングボレーの体勢に入っていること。


(こいつっ…本当に「それ」しか考えてないのかよ)


 剣崎の左足が、栗栖からの弾丸クロスを捉えた瞬間、渡の脳裏には、合宿での小宮とのがフラッシュバックした。






「けっ。俺を見る目は確かだが、FWの選別がまるでなってねえ。ガキ相手にロクにゴールできねえカスばっか集めやがってよ」


 代表合宿中、五輪代表は一つ下のユース代表のチームと2度練習試合をした。結果は2勝と面目は保ったがいずれも1-0のロースコア。しかも2点とも小宮が関わっている。1戦目にフリーキックを叩きこみ、2戦目にはコーナーキックで、味方のセンターバック、内海のゴールをアシスト。その虎の子を渡、友成の次元違いのキーパーを背にして守り切った。もともと守備に定評のある選手が多いのでこの完封は参考にならない。小宮は招集されたフォワード本人たちの前で散々罵った後、マスコミ関係者の前でも放送禁止用語連発で酷評。それでも腹が治まらなかった。


「おまえねえ・・・さすがにあれは言いすぎじゃね?記者の人きょとんとしてたじゃん」

「誰も言わねえから言ったまでだ。そもそもガキ相手に点取れねえFWに擁護の余地はねえよ」

「まあ・・・気持ちはわかるが。逆におまえが納得できるFWなんているのか?」

 渡の質問に、小宮は唸りながら答えを絞り出した。

「まあ、ユースの時や東京いたときはいなかったな。日本人じゃ。ガリバーの櫻井も捨てがてえが・・・ま、剣崎だな」

「剣崎?和歌山の?でも相当へたくそだって聞いたぞ」

「ああ。技術のカス具合だったら、サッカー選手として生きる価値は皆無だ。だが、今回の代表FWのクズどもと比べりゃはるかに価値があるし、頼もしい。奴はポカも多いが、必ずなんかしてくれるからな」

 その時、渡の目は自然と見開いていた。他人をほとんど誉めない小宮が「頼もしい」と評したことは、少なくとも自分の付き合いの中ではなかった。

「そんなにすげえのか?お前がそういうぐらいだし・・・」

「実際にリーグ戦で会ったら100パーそう思うな。誰もが。多分キーパーであるお前が感じたらちびるんじゃね?」




 時間を試合に戻す。ちびりはしていない。だが、サッカーを始めてから、今初めて相手選手に対して『恐ろしさ』を感じていた。剣崎が放つ迫力に。



「くぅらあえぇっ!!!」


 剣崎が振りぬいた左足から、鋭いシュートが放たれる。だが、ボールはクロスバーから逆サイドのポストに叩きつけられ、そのまま外に飛び出る。

(フ、カ、した・・・?)

 目の前の映像がスローモーションになる中、渡を正気に戻したのは滑り込んできた竹内だった。


「とどけぇっ!!」

 願うように懸命に左足を伸ばす竹内。そのつま先にボールがふれ、再びゴールに転がってくる。竹内はそのままゴールから逃れるように勢いのままピッチの外へ。完全に剣崎にあっけにとられていた渡は、慌てて左腕を延ばす。



 しかし、その手が逆サイドに届いたころ、すでにボールはゴールマウスの中に鎮座していた。



「何かをしでかす・・・。小宮って人の目があるんだな」

 ボールを恨めしそうににらみながら、渡はピッチを拳で叩いた。

川崎戦結果 1-1 ドロー

得点(川)レノン(和)竹内

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