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こんなスタメンの決め方はあり?

 ヴー…ヴー…

「ん?なんや、この番号」


 川崎のエース、小久保のスマホに、見慣れぬ番号から着信があったのは、本大会メンバー発表翌日の夜だった。いぶかしんで出ると、電話口からハイテンションなオカマ口調が耳をつんざいた。

『おひさしぶりよ〜ん小久保ちゃあ〜ん!』

「ゲッ!あ、あんたかい…叶宮さん」


 声の主は、五輪代表監督の叶宮だった。小久保がスペインでプレーしたおり、当時ヨーロッパで代理人活動をしていた叶宮が仲介していた縁がある。ただ、連絡を取り合うこと事態は5年ぶりで、自分の番号を伝えた覚えはない。

「あんたいったいどっからオレの番号仕入れたんや…何の用や」

『ウフフフフ。種明かしよ〜ん。あんた剣崎の落選には納得してないんでしょ』

「あんたはエスパーか…で、なんであんたが正解を言えんねん」

『だって〜、剣崎を選ばないように監督に告げ口したの、アタシだも〜ん。あの子は理解力ないしエゴ強すぎるから、今の代表に混乱しか招かないってね。あの監督、規律と調和を重んじるからチョロかったわ〜』

「はぁ?あんた一体何考えてんだよ。奴がオレより上っていう気はねえが、奴が世界で戦えるレベルってのはあんたでもわかるだろ」

『だって〜、飛び級で選ばれてAに定着されたらアタシの五輪代表が困るのよ〜。今時のFWは献身性ばっか高くて点の取れないクズばっかなのよ。わざわざ秘密兵器を早くから世界に晒すマネもしてほしくないからね』

「…ホンット相変わらず勝手だな。あんた」






「ふーむ…どうしたものかな」


 DVDの電源を切って、バドマン監督は頭をかいた。


 次の試合でJ1はW杯の関係でリーグ戦が中断する。合間にカップ戦の予選リーグは残っているものの、7月中旬まで公式戦がない。ひとまずの区切りの試合を勝利で飾りたい。だが、今まで見ていた対戦相手の川崎の試合を見て、バドマン監督は悩んだ。今一つ策が思いつかないのである。

「ソンと関原を一列前上げることで攻撃力は増したが・・・。そうするとサイドバックの守備力がパワー面で落ちる。どうするべきか。それに若いセンターバックたちの疲労が著しい、メンバーチェンジは必要だ・・・。うーむ」

「パパ、何悩んでるの?いままでと同じようにいけばいいじゃない」

「そうできればいいのだが…私が扱うのはチェスの駒ではない。感情もあれば疲れもする。いろいろ考えるのが、パパの仕事なのだよ。リンカ」

 娘に対してバドマン監督は父としての笑顔を見せる。と、ここでらしいというか、とんでもない案を思いついた。

「なあリンカ。次の試合のスタメン、君が決めてみるかい?」

「ええっ!?いいの?素人のアタシが」

「ハハハ。君がトレーナーとして優秀かどうか、試したいのさ。どれだけ選手をよく見ているのかね。やってみなさい」

 突然の無茶ぶりにリンカは戸惑ったが、それでも面白そうなのでやってみた。

「ん〜じゃあパパ。こういうのどう?えっとね、…」





 そして5月18日。J1第14節。J1はこの試合を最後にリーグ戦を中断する。J1初挑戦の和歌山の戦いぶりは、お世辞抜きに花丸レベルの健闘であった。終わりではないが、この区切りの一戦は、勝利で締め括りたい。特に前節はホームで苦杯をなめただけに、その敵を等々力で討とうというわけだ。


スタメン

GK20友成哲也

DF31マルコス・ソウザ

DF6川久保隆平

DF23沼井琢磨

DF35毛利新太郎

MF17チョン・スンファン

MF16竹内俊也

MF11佐川健太郎

MF8栗栖将人

FW18鶴岡智之

FW9剣崎龍一


ベンチ

GK1天野大輔

DF14関原慶治

DF15ソン・テジョン

DF26バゼルビッチ

MF2猪口太一

MF10小宮榮秦

FW25野口拓斗



『マッケンジー。君は優秀な部下を持って、幸せだねえ』

『いきなりなんだ』

 オーロラビジョンに写し出されたスタメンを見て、バドマン監督は得意気にマッケンジーフィジカルコーチに呟いた。

『私の娘は、実に選手をよく見ている。肉体面と精神面のコンディションのバランスが、実によくとれたメンバーだと思わないかね』

『…フン。素人にスタメンを決めさせた貴様がクレイジーなだけだ。ま、確かにお前の娘の観察眼は誉めてやる。些細な仕草も見落とさず、選手をよく管理している。…いいフィジコになる』



 ちなみに選手たちは、今日のスタメンがリンカが決めたということを知らない。だからという訳ではないが、久々の出番に張り切る声は多かった。

「あー試合に出れるってやっぱいいよなぁ…久々のスタメンマジ嬉しいぜ」

「鶴さん、出るだけじゃダメでしょ。『ぜってーゴール決める』ぐらい言わねえと」

「けっ。お前に言われるとはな。剣崎」



「川久保さん、ラッキーっすね。すぐにオウンゴール取り返すチャンスが来て」

「ああ。おれもなんとか存在見せないとな。負けないぜ、タク」

「ま、お互い崖っぷちっすからね。いっちょうやりますか」

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