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更なる追い討ち

ちょっとレアな展開が続きます

 数的不利。これはサッカーの大きな特徴である。野球の場合は退場者を出してもその代わりに誰かを出すことができるが、サッカーの場合は退場したらその枠は空きっぱなしだ。

 単純に一人多いということは、その分マークを余分につけることができたり、攻撃に厚みを加えたりできる。特に、剣崎に苦戦していたガリバーの守備陣にすれば、櫻井が自由を得た分、誰か一人が守りに専念できるから、後半はガリバー有利可能性は高い。

 だが、時としてこの逆境が血肉と化し、かえっていいサッカーができるようになることがある。できることが限られる分、それ一点に集中することができるからだ。つまりは割り切りだ。バゼルビッチから謝罪を受けて「バズのためにも」と皆が意識を統一。さらに剣崎は2点を取って絶好調とあって、やることが「剣崎につなげる」と明確になった。

 はたして後半の展開は、予想に反して和歌山が押す試合運びとなった。


「うらぁっ!!」

 剣崎のシュートの強烈なシュートは、ジャンプしたキーパー南口の右手をかすめてクロスバーを叩く。開始早々からアウェーのサポーターたちは、肝を冷やす時間が続く。


「くっそー、いったいどっちが数的不利やねん。押されっぱなしやんけ」

「両サイドハーフがすっげ馬力あるさかいに、うちのサイドが全然あがれやんからな」

「にしてもあの剣崎すげえな。めっちゃ怖いシュートばっかやん」


 ただ、だからと言って守備も互角というわけにはいかない。やはり、バゼルビッチが抜けた穴が大きく、パスが櫻井につながった瞬間はホームのサポーターが肝を冷やす。しかし、長山が俊足と運動量をフル活動して追尾し、内村がポジショニングでコースを限定し、友成がシュートを防いだ。当然これはスタミナの浪費にもつながり、櫻井のスタミナはみるみる削られていくが、懸命に追いかける長山も足がもつれるなどらしくないそぶりを見せ始めた。


「だいぶ足にきているようだな。交代要員は技術よりもフィジカルとスピードを優先して選ぶべきのようだな」

 ベンチに腰掛けてボードを手に作戦を思案するバドマン監督。しかし、監督が手を打つ前に、和歌山に更なる追い討ちがかかった。


「このっ!」

「しまった」

 関原の一瞬のスキを突き、元日本代表のサイドバック、久慈がボールを奪い、それを新藤につなぐ。受けた新藤は奪いにかかかったチョンとの呼吸をずらして、櫻井にパスをつないだ。

 受けた櫻井はすぐにドリブルで仕掛け、長山が追尾する。追いかける長山はふと気づいた。

(こいつ…あんまり距離が開かなくなってる。足にきてんじゃねえのか?)


 そう、長山の思惑通り、櫻井はガス欠寸前だ。まだ大きくはないが、ドリブルがイメージ通りのスピードにならないのだ。

(あーあ、ずいぶん疲れてるなぁ。ん?)

 ふと後ろを見ると長山が自分に近づいているのがわかった。

(頭数でこっちが有利なのによく走るよね。んじゃ、もっと楽にしよ)

 櫻井は、突然減速した。

「んなぁ!?」

 当然長山は間に合わずぶつかる。そして櫻井にもたれてしまう。櫻井は自分を脱力させながら、長山に自分を押し倒させた。審判の笛がなる。そして思惑通り、長山に二枚目のカードを出させた。

「なっ!いや、今のは不可抗力ですって!こいつが急に減速したから…」

 長山の釈明も、感覚的な問題は本人にしかわからないから言い訳にしか聞こえない。前半に文句をつけてきたこともあって、審判の印象も悪い。むなしく長山は肩を落としてピッチを去った。


「まさか9人になるとは…どうしますか」

 うろたえながら竹内コーチが聞く。さすがのバドマン監督も頭を抱えた。

「…今更仕方あるまい。ならば一気に手を打つしかあるまい。竹内君。君の息子と矢神、そして須藤を呼んできてくれ」




「うわー、まさかこんな試合でプロ初出場か…。緊張するっすね」

 ピッチサイドで交代を待つ須藤は、隣に立つ矢神に心境を吐露する。

「だがこういう状況での出番は期待の裏返しだ。お前のせいで負けても監督に責任押しつけりゃいいし」

「え〜ガミさん冷たっ」

「まあ須藤。言い方はともかく矢神の言う通りだ。自分のプレーだけ考えりゃいいさ。俺は楽しみだぜ。ユースリーグの得点王揃い踏みなんてさ」

「トシさん…。ウスッ、頑張りますっ!」

 バドマン監督は一気に交代枠三枚を使う。竹内をソン、矢神を内村、そしてルーキー須藤を関原に代えて投入した。あわせて最終ラインを大森、チョン、小宮で形成。毛利と竹内でボランチコンビを形成し、剣崎の両サイドに須藤と矢神を配置。3−2−3という、おおよそミニゲームでもない限りお目にかかることのない体制で残り時間を戦うことになった。


「おいおい。この俺様がセンターバック?あのじじいついにモーロクしたか?」

「お前はまあ、リベロってやつだろ。内村がいなくなった以上、ポジショニングで守備ができて、フィジカルコンタクトに強くて、どこからでも攻撃が組み立てられるのは、お前しかいないからな。小宮」

 毒づく小宮にチョンがそうフォローする。持ち上げられて溜飲が下がったか、小宮は鼻で笑ってこう言った。


「つまり俺様の才能は偉大だってわけだ。この状況で勝てば俺のお陰ってわけだ。ハハ」

「ま、そういうこと…かな。そういう態度は見てて飽きんな」

「天才は人を飽きさせないのさ」

 小宮の態度に、チョンは頼もしく思いつつも苦笑した。


 再開後、櫻井はまたもフリーキックを仕留めてハットトリックを達成。ここで御役御免となった。

「お疲れ小宮。ナイスハット」

 交代のため、出迎えたMF行神が櫻井を労った。

「なんか今日疲れたな…走りすぎましたよ」

「ま、それだけノリノリだったってことさ。あとはゆっくり休んどけ」

「へーい、頼んます」

 そう言って櫻井は行神を送り出した。しかし、その時、なんとなく嫌な予感がした。

「ほんとにこれで終わるのかな・・・。なんかまだありそうだけどね」

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