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さっきと何が違うんだ

 立ち上がり間もなくエースの得点で先制した和歌山は、一気呵成に追加点を狙う。今日は攻撃力が持ち味のサイドバックが一列前でプレーしているのだ。その迫力にガリバーの守備陣は怯み、自陣で無為な時間を過ごしていた。

「くそっ!!」

 センターバックの岩上が足を伸ばしてシュートをブロック。何とかコーナーキックに逃げる。だが、なかなか和歌山の「俺のターン状態」は切れない。剣崎や大森のヘディングはバーやポストがはじき出していたが、セカンドボールは内村や毛利がことごとく拾い、何度も攻撃を展開する。気が付けば和歌山の自陣に残っているのは、友成、バゼルビッチ、長山の3人だけだ。

これほどまで和歌山の波状攻撃が続くのは、内村の存在も効いているが、何よりもバゼルビッチが櫻井を完封していたことにあった。苦し紛れにロングボールを放り込み、櫻井の個人技に一縷の望みを託すガリバーの反撃を、バゼルビッチが無力化していた。パワフルなチャージで動きを止め、タイミングのいいスライディングでボールを奪い返す。トリッキーな動きにもつられることもなく、本来はキーパーに使うものだが「守護神」の形容が相応しい活躍を見せていた。


「想像以上だな、あのセルビア人。あそこまで櫻井が封じられるとはな・・・」

 ベンチ前で戦況を見つめる長谷山監督は頭をかいた。切り札がここまで抑え込まれるとは予想だにしていなかったからである。

「確かに要注意であったが・・・。もはや和歌山の守備の中心だな。しかし、なんとか手を打たねばな・・・」


 一方で、押している和歌山サイドも次第に焦りの色が出始める。バドマン監督も毅然としているが、押している展開でなかなか追加点を取れないことに危機感を募らせた。

「むう。なかなか詰めがうまくいかんな。こちらとしては、バズ(バゼルビッチ)が耐えている間に突き放したいのだが・・・」

「耐えている?」

 指揮官の言葉に違和感を持った竹内コーチが聞く。

「確かにバズは櫻井に素晴らしい対応をしているが、プレイヤーとしての才能は雲泥の差がある。次第に櫻井と止めるタイミングが危うくなってきた」

 バドマン監督の分析に、竹内コーチはハッとする。よく見ると確かに、バゼルビッチの表情が厳しくなってきた。つまりは、櫻井がバゼルビッチの守備に慣れてきているということである。

「チャンスを逃し続ける代償は大きい。何とか追加点を奪ってくれ、諸君」


 指揮官が願うまでもなく、ピッチの選手たちはそれ以上に追加点をがむしゃらに狙っていく。しかし、捨て身のディフェンスで耐えられ、焦りが精度を奪う。そしてとんでもないリターンが返ってくる。

「ありゃ?」

 何度もセカンドボールを拾い続けた内村が、まさかのトラップミス。それをかっさらった櫻井が一気にカウンターを仕掛ける。予期せぬアクシデントに、バゼルビッチは慌てて止めにかかる。しかし、櫻井には余裕があった。

「もうそんなチャージは効かないよーだ」

 それまでになかった特異なリズムでかわしにかかる櫻井。バゼルビッチは完全に翻弄されたが、それでも止めようと強引なスライディングをかました。

「うわぁっ!」

 またも櫻井は吹き飛ぶ。今度は審判が笛を吹きながら駆けつけた。

 やってしまった。バゼルビッチはそう思った。しかし、予期せぬカードが掲げられた。赤だった。

『そ、そんな!どうしてレッドなんだ!今までとどう違うというんだっ!!!』

 まさかの一発退場にまくしたてるバゼルビッチ。それを内村がなだめながら、チョンや長山が抗議するが、主審は聞く耳を持たず淡々とカードの裏にメモを取る。バゼルビッチとしては、今まで通りのプレーで止めたつもりだ。多少強引過ぎた自覚もあったのでカードは覚悟していたが、一発退場は予期していなかった。

「今までとおんなじ感じのスライディングだったじゃないっすかっ!何が違うんすかっ!ちゃんと答えてくださいよっ!聞いてんのかよあんたっ!!」

 悪いことに抗議がエキサイトした長山もイエローカードをもらう。和歌山側はますますヒートアップし、サポーターは大ブーイングを飛ばした。


 一方でやられた櫻井はすでにボールをセットして試合再開を待っている。距離、角度とも絶好の位置でのフリーキックを得ていたからだ。

「わーわーわめいてるね。早く試合再開しようよ~」

「おまんが原因やからや」

 その傍らで新藤はあきれていた。

抗議は当然ながら覆らず、バゼルビッチは退場。そして再開後もフリーキックを櫻井があっさりと沈めて同点に追いついた。バドマン監督は、特に交代させることもなく、ボランチの位置でプレーしていた内村を一列後ろに下げ、さらに小宮も中盤まで下がらせ4-4-1という形で臨んだ。


「くっそー、バズの退場はしゃあねえや。またもっかい点の取りなおしだっ!!」

 自分たちがチャンスをものにできなうちに、追いつかれた挙句数的不利となった和歌山。剣崎はその責任を感じていた。

「前半のうちに抜いてやらあ。それで試合は俺たちのもんにすりゃあいい。コミっ!俺にボールよこせっ!!」

 鬼の形相でボールを要求する剣崎を、小宮は嘲笑する。

「この俺に命令かよ。だったら絶対に点取れ。負けたらバズのせいじゃない。バズを退場に追い込む流れを作ったてめえの責任だ。チャンスを不意にしたてめえのな。・・・だから尻ぬぐってこい」

 剣崎の要求に対して小宮も満点回答を示す。剣崎がぎりぎり追いつき、相手ディフェンダーがぎりぎり届かないところにパスを出した。

「くんのおっ!!」

 全力で走り、足を伸ばしてボールを受けた剣崎は、そのまま密集地帯に突っ込んでいった。



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