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あっちこっちの表情

 リーグ戦も早いもので間もなく開幕から2ヶ月が経つ。第9節からはゴールデンウィークにも絡むため日程も詰まる。つまり立て直す時間も減るため、この試合をとれるかどうかは大きかった。

 現在の和歌山は5勝1分け2敗と、初心者にしては出色の成績を残している。しかも3連勝中。失速気味のガリバーイレブンと比べても熱気は明らかに違った。

 そんな中でも、サポーターはいつも通り燃えていた。アウェーチームのスタメン発表。淡々とメンバーを読み上げるウグイス嬢に合わせて雄叫びを上げるのはアウェーチームのゴール裏席。オーロラビジョンの足元やバックスタンドの一角は、ガリバー大阪のカラーである青と黒のストライプに染まっていた。



 そしてオーロラビジョンに、ジュピターをBGMに和歌山の選手たちが次々と映し出され、最後はクラブのロゴがど真ん中に映し出された。同時に曲がボンジョビの「ラストマンスタンディング」に切り替わる。スタジアムDJが威勢よく叫んだ。


「さぁアガーラサポーターのみんなぁっ!大変お待たせいたしましたっ!続きまして、ホームチーム、アガーラ和歌山、本日のスターティングイレブンをご紹介しましょうっ!!!」

 そしていつものように、キャッチフレーズを交えて選手を読み上げていく。が、終わった後のホームゴール裏はざわついていた。


GK20友成哲也

DF21長山集太

DF26バゼルビッチ

DF5大森優作

DF35毛利新太郎

MF17チョン・スンファン

MF3内村宏一

MF15ソン・テジョン

MF14関原慶治

FW10小宮榮秦

FW9剣崎龍一



「も〜やだぁ〜なんでいきなり毛利と長山ぁ?関原もまだ軽めの練習しかしてなかったじゃぁん…」

 記者席ではJペーパーの和歌山担当の浜田が、金切り声で嘆いた末にノートパソコンの上に突っ伏した。プレビュー記事の〆切は試合前々日のため、予想スタメンはある程度外れても仕方はない。しかし、浜田が嘆くのはその頻度と内容。この試合で言えば長山も毛利も紅白戦ではサブ組でプレーし、ソンもレギュラー組のサイドバックでプレー。関原に至ってはゲーム形式の練習をほとんどしていなかった。因みに彼女が予想したスタメンはこんな感じだ。


GK20友成哲也

DF15ソン・テジョン

DF26バゼルビッチ

DF5大森優作

DF7桐嶋和也

MF2猪口太一

MF10小宮榮秦

MF16竹内俊也

MF8栗栖将人

FW25野口拓斗

FW9剣崎龍一


 比べてみて浜田記者が嘆く理由を察してもらえれば幸いである。

 ただ、記者がそうであるなら、対戦相手もそれ以上に苦虫を噛み潰す表情を見せる。ロッカールームでそれを知ったガリバー大阪の首脳陣は頭を抱えた。


「長山は辛うじて想定の範囲だったが…毛利と関原は完全に予想外だったな」

「…事前のミーティング、少し無駄になっちゃいましたね。監督」

 コーチの言葉に長谷山監督はうなだれるだけだった。




 同じ頃、スタメンを考えついたバドマン監督は、周りのざわめきににやついていた。

「人を混乱させるのは、なんとも楽しいねえ。ハッハッハ」

 松本コーチは頭をかき、竹内コーチの口は開いたままだった。



「は〜…今日は雑魚が多いな、うち」

「んだと!」

「…悪かったな」

 露骨な感想を呟く小宮に、長山はキレ、毛利は顔をひきつらせる。確かに今年出番が限られている二人は、試合勘の不安は拭えない。ましてや毛利は今シーズンの初陣である。

「ま、足手まといにならない程度に。車輪をひたすら回すネズミみたいに走り回るんだな」

「て、てめえ!それが先輩に対する態度かっ!」

「まあ別にいいでしょ長山さん。言ったところでどうにもならないし、そもそも言い返せるほど実力ないし」

「も、毛利〜。お前さばさばしすぎだって。ちょっとは言い返せよ


『チョンさんは俺のおもりってとこですか?』

『ま、そういうことだ。監督の言ったように、気にせずどんどん攻めていけ。テジョン』

『任せてください』

 傍らでは、チョンとソンが韓国語で会話をかわす。


「さー集合集合!円陣組むぞ〜!」

 剣崎の音頭で選手たちは肩を組んで円になった。そして剣崎は叫んだ。

「今日も勝つぞっ!」

「おぉっ!!!」


 円陣を解いて散らばっていくピッチのイレブンを見ながら、和歌山ベンチの面々は悶々としていた。特に前節にハットトリックを達成した野口は、試合に出たくてそわそわしていた。見かねた竹内が声をかける。


「拓斗、まだ始まってもないのに落ち着けって。後半になれば出番はあるよ」

「でもよ〜俊也。俺前の試合ハットトリックだったんだぜ?なんか落ち着かなくってさあ」

「ま、よくわかるよ。調子のいい時にゴール決めたいもんな」

 実際のところ、サッカーに限らず点数を無限に競うスポーツは、野球しかりバスケットしかりそんな簡単に点をとることはできない。特にFWはとった点数が最も評価される。調子がいいうちにとれるだけとりたいという思いは、FW全般の本音だろう。


「ま、あせったってしょうがねえさ。その鬱憤は出たときに晴らそうぜ」

 そうなだめた竹内も、内心は穏やかではなかった。指揮官の采配に納得はしているが、やはり主力として戦ってきた自負はある。出たときには監督にスタメンで使わなかったこと後悔させるぐらいの気概でプレーしている。


(早く出番下さいよ、絶対ゴール決めますから)


 竹内はそう思いなが、体をほぐしつつ、ちらりと監督の方を見ていた。



「なあコミ。代表ってどんな感じだ?」

 キックオフ前、センターサークルにボールをセットした剣崎は、傍らに立つ小宮に話しかけた。

「カスの集まりさ。FWに関しちゃな」

「カスって…お前な」

「実際カスさ。誰一人俺様の理想に入んねえからな」

 小宮の表情を見れと、本当に呆れているのだと、頭のたりない剣崎でも理解できた。それならばとついでに聞いてみた。

「じゃあお前の理想って誰だよ」

 小宮は鼻で笑った。

「ま、お前とあっちの9番(櫻井)。あとは…いや、まだいいや」

「あ?もったいぶんなよ」

「ま。いずれにしてもお前は代表に呼ばれる。それだけは俺様が保証してやる。感謝しろよ」

「なんでだよ」

「お前は俺様のイヌだからだ」

「ざけんな、馬鹿」


 そこでキックオフの笛が響いた。

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