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否応なしのスタメンいじり

 J1のリーグ戦開幕から1ヶ月が経過。今シーズン唯一のJ1お初クラブのアガーラ和歌山は、2勝2敗1分けとますまずのスタートを切った。Jリーグカップも予選リーグ初戦を快勝しており、初のJ1での戦いぶりは「健闘」の部類に入る。


 そんな最中、攻撃の中核である小宮と守護神の友成に、日本サッカー協会からお呼びがかかった。クラブハウス前は人だかりができていた。



「えー、と。というわけで、我らが守護神友成と、司令塔小宮が、リオデジャネイロ五輪出場を目指す日本代表に選ばれた」

 リカバリートレーニングを終えた選手たちの前で、今石GMが経緯を説明。かつての経験者小宮はともかく、友成が呼ばれたことに誰もが驚き、祝福した。


「はあ…代表か。改めて見てると代表ってすげえんだな」

 マスコミの取材を受ける二人を見て、剣崎は羨ましそうに呟いた。

「まあ、なりたくてなれるわけじゃないからな。Jリーガーもそうだけど、敷居はやっぱ代表と比べらんないしな」

 ユース時代に代表経験のある栗栖も、チームメートの代表入りには、誇らしくも悔しくもあった。

「しかしこれであの二人は次の名古屋戦は欠場か。…大輔は張り切ってるだろうな」

 竹内の言うように、代表入りするということは、自分のチームに穴ができる。特にキーパーにとっては千載一遇のチャンスである。


「よーしナイスセーブ。キレてるぞ、大輔」

 キーパー練習では、いつも以上に気力が漲っている天野が、秋川GKコーチと共に張り切っていた。



 クラブから代表選手を出したとあって、周りは騒いだが、反して今石GMの表情はもうひとつ冴えなかった。



 代表選手の発表の数日前、クラブハウスに一本の電話が入る。声の主は五輪代表監督、叶宮勝良。今石GMが応対すると、叶宮は開口一番に尋ねた。


『究極の二択問題。剣崎クンと友成クン。いないと困るのどっち?』

「…一体どういう意味で?」

『小宮クンはもちろん外せないんだけど、剣崎クンと友成クンのどっちかも連れていきたいのよ〜。二人とも連れていってもいいけど、それじゃあお宅にも迷惑かけちゃいますしねえ〜』

「さいですか。そうっすねえ」

『あ、シンキングタイムは〜ナ・シ。即断即決でお願〜い。あんまり迷ってたら三人とももらっちゃうわよ』

「あんたな…。クラブの事情考えろよ」

『知ったこっちゃないわよ〜。アタシだって『五輪を逃した』なんて汚名着たくないの。メダルとるためなら一クラブの事情なんてどうでもいいのよ』


 さすがに今石GMはカチンときた。しかし、だんまりを決め込んで、本当に三人とも持っていかれても困るので、今石GMは怒りを押し殺して考えを巡らせた。

「なあ。なんでうちからそんなに選手を取ろうとする。それだけ聞かせてくれ」

『そうねえ。メダルを狙うためかしらね。今回の五輪代表はユース年代での世界大会出場を逃した、世界を知らないボンクラ揃いなの。だったら才能で対抗するしかないの。その理屈、お分かり?』

「…わかった。じゃあ友成を連れてってくれ。剣崎はまだこっちで揉まれさせたい」





(あのオカマ野郎…何考えてんだ?ま、こいつらがどういう顔して戻ってくるか、お手並み拝見だ)





 そして迎えた第6節、ホームでの名古屋戦。


 小宮、友成といった攻守の軸が不在の中、どのような布陣になるか注目されていた。


 それがこのスタメンである。


GK1天野大輔

DF15ソン・テジョン

DF26バゼルビッチ

DF5大森優作

DF7桐嶋和也

MF2猪口太一

MF3内村宏一

MF4江川樹

MF11佐川健太郎

FW16竹内俊也

FW9剣崎龍一


ベンチ

GK40吉岡聡志

DF22仁科勝幸

MF8栗栖将人

MF24根島雄介

MF32三上宗一

FW13須藤京一

FW36矢神真也



「関原がベンチ外…。意外だな。どっか怪我したのか?」

 スタメンとベンチ入りメンバーに首をひねったのは、クラブのオフィシャルライターの玉川茂樹。前日練習までは普通にレギュラー組としてプレーしていたからだ。

「ベンチのメンバーもスピードのある選手ばかり。しかもルーキーが二人ともベンチ入りしてますね。どういう意図があるんでしょうか…」

 同じようにいぶかしんだのは、専門紙Jペーパーの番記者浜田友美。バドマン政権に触れて2年目になるが、未だにバドマン監督の意図を読み切れない。

「名古屋相手に若手の力試しでしょうか。スタメンもテクニシャンが多い気もしますし…」

「しかし、名古屋を侮ってなきゃいいが。前も後ろもパワフルな選手がいるんだぜ?」



 記者がモヤモヤとしているのと同じぐらい、名古屋ベンチもモヤモヤしている。錦野監督は、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべていた。

「スカウティングがまるで役に立たなかったな…。使える情報もあるが、全くの未知が散らばってる。若手が多いのも正直厄介だな」

 錦野監督は、ぼやきながら頭をかく。

「J2の頃から奇策ばっかりやってきたそうですから、今回も我々の意表を突いたというか…」

「まあ、主力をオリンピックに引き抜かれたからな。逆手にとって大胆に行ったんだろ。否応なしにスタメンをいじらざるえないからな」


 自身もかつてアトランタ五輪で日本代表を率い、活きのいい主力を引き抜く際に恨み節を言われたことも少なくなく、Jでは代表クラスの選手を抱えながら戦ってきた。抜く側も抜かれる側も経験しているだけに、バドマン監督の行動には何かを感じずにはいられなかった。


「まあ、あれだけ若いメンバーで五分の星だ。お手並み拝見といこう」


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