なでしこに新風
特に需要はありませんでしたが、剣崎のストーリーを進める上で、一応ヒロインの相川玲奈の活動報告も必要かと。夕べテレビつけたらアルガルベ杯やってたんで書きました。
アガーラ和歌山が王者広島から金星を挙げてJ1の初陣を飾ってから数日後、女子サッカー日本代表「なでしこジャパン」がアルガルベ杯の初陣を迎えた。ワールドカップの前回王者日本の初戦はロンドン五輪王者アメリカ。いわばリベンジマッチである。
その戦いの舞台に、和歌山県唯一の女子サッカークラブ、南紀飲料セイレーンズのエースストライカー、相川玲奈が出場していた。
時期をさらに遡って2月中旬。アルガルベ杯を戦うなでしこジャパンのメンバーが発表された。
なでしこのバンディエラ、真田稀穂、イングランドでプレーするエース、大国優希ら主力が多数選出される中、最後に読み上げられたのが相川だった。日本の二部リーグでプレーする選手の選出は十分なサプライズ。しかし、長くなでしこを率いる佐々井則広監督は「刺激を与える存在」として召集の意図を説明した。
「世界の女子サッカーがどんどん組織化していくなかで、我々の強みであるスピーディーなパスサッカーだけでは通じなくなってきている。一方でフィジカル勝負になると対抗できる攻撃の駒が大国ぐらいしかない。確かに二部リーグでの実績しかありませんが、過去に代表で結果を残しているし、実現はしませんでしたが神戸が移籍のオファーを出しています。十分な刺激を与えてくれると確信しています」
改めて相川玲奈のステータスを紹介しておく。身長は一般男子並の175センチ。体重は66キロ。ついでにスリーサイズは上から83−61−85。利き足は左。ミドルシュートの精度、ヘディングの強さはもちろん、ドリブルの技術が高く、単独でゴールを奪える重戦車タイプのストライカーである。
幼い頃は剣崎、栗栖と同じチームでサッカーをはじめ、中学では男子に混じってプレー。エースとして活躍した。ジュニアユース代表に選出されると、ドイツのクラブからオファーを受け中3の春に渡欧。4年間プレーした後「生まれ故郷でサッカーがしたい」という思いから帰国し、南紀飲料セイレーンズに入団。二部リーグでは既に別格のプレーを見せているがその分マークも厳しく、チーム戦績に反映されず二年連続でなでしこリーグへの昇格を逃した。
それでもチームと故郷への愛着と、三度目の正直を果たそうと意気込みは強く、神戸からのオファーを断って今年も二部リーグで戦うことになっている。
その後行われた合宿にて、佐々井監督の期待に応えるポテンシャルを、主力メンバーに見せつけた。
「たぁいっ!!」
「ぐっ!」
セットプレー練習の時、オフェンス側でプレーした相川は、ゴール前の空中戦で常連DFに完勝。コーナーキックからのヘディングシュートをことごとく決めた。
「なんなのあのコ…めちゃくちゃパワーあるじゃん。おんなじ女とは思えないわ」
相川とマッチアップしたセンターバックの選手は、ボトルの水を飲みながらその凄さをぼやいた。若手キーパーも相川の実力を認める。
「滞空時間も長いし、空中での姿勢もきれいだし…あれじゃあよほど下手なクロスじゃない限り、ヘディング打たれますねえ」
さらに、日本屈指のプレースキッカーの深山あや子にこう言わしめた。
「今までサッカーやってて、あんな頼もしいターゲットはいないわね」
「なかなか頼もしいじゃない?ウチに来なかったのは勿体ないわね」
「あ、真田さん!」
クールダウン中、相川に真田が声をかけてきた。相川はレジェンドから声をかけられたことに緊張し、思わず声が上ずった。真田はそのまま相川をランニングに誘った。
「二部リーグに甘んじるだけの気弱な選手かと思ってたけど、百聞は一見にしかずとはよく言ったものね」
「あはは。まあ今時珍しいですもんねえ。本音は神戸行きたかったんですけど、チームメートもいい人ばかりだし、応援してくれる人もたくさんいるし」
「…ずいぶん正直なのね。じゃああなた、自分に結構無理してるの」
「いえいえ、ただ自分の思うようにしたらこうなっただけで。人生人それぞれだし、別に代表に呼ばれるのにプレーするクラブは関係ありませんから」
「自信があるのね」
「自分を信じてますから」
さりげない一言だったが、女子サッカー界の生き字引は、相川に大いなる将来性を感じた。
(自分を信じてる…か。この子になでしこジャパンを託す日は、そう遠くないかもね)
そして試合当日。
試合はアメリカの攻撃を、日本が粘り強く耐えてたまにカウンターという展開で前半をスコアレスで折り返す。しかし後半開始早々、アメリカのFWの猛烈なプレッシングにキーパーがキックミス。相手に当たったボールがそのままゴールに跳ね返って先制を許す。その直後、深山がフリーキックのチャンスを得るも、風の影響かバーを叩いて外す。劣勢の展開の中、佐々井監督は三枚目の交代カードに相川を投入した。
「向こうの最終ラインはリードもあって落ち着いているが、オフサイドが取れないなど疲れも出ている。うまく前線をかき回してくれ」
「わかりました」
「狙えるなら、ゴールもとってこい!」
「はいっ!」
佐々井監督に指示を受けた相川は、自分の頬を二度叩いて審判と共にタッチラインへ。主審が交代を認め、交代する大国を出迎えた。
「お疲れ様です。大国さん」
「はぁ、はぁ。後は頼むわ。思い切ってやりなさい」
「行ってきますっ!」
颯爽とピッチに立つ相川を見て、真田はある考えを思いつく。それをダブルボランチを組む深山に耳打ちした。
後半40分からの出場で時間はあまり残っていない。それでも前線を走り回り、味方の走り込むスペースを作ったり、パスを要求したりする。そんな中、深山と目があった。
「真田さんから伝言。『好きにしてこい』だって」
笑みを浮かべて、深山は鋭いパスを出す。それを足元に収めた相川も、呆けた表情からニヤリと笑って反転した。
「…。行っちゃいますかっ!」
相川はギアを入れてゴールと向き合ったままドリブルを仕掛ける。単独での中央突破は無謀とも言えた。
だが、相川のドリブルは、アメリカの想像を越えていた。
『えっ!?』
『ウソっ!』
潰しにかかった相手を、かわすのではなく直線的に振り切る。身体をぶつけられても、むしろそれを弾き返し、会場がざわめいた。
『サイドバックはサイドハーフのフォローを抑えて!センターバックはそいつを止めて!』
アメリカの守護神ヘンダーソンは、すぐに最終ラインに指示をだし、センターバックが相川のドリブルのルートに立ちはだかり、ボールの逃し所も抑える。しかし、ペナルティエリアの外にも関わらず、相川はシュートを選択した。右へ数歩ステップしてセンターバックの一人をつると、すぐさま重心を反対側に移してシュートコースをこじ開ける。
「いっけぇー!!」
左足から迷いなく放たれた一撃は、惜しくもポスト直撃。しかし、跳ね返ったボールはピッチに帰ってきた。
『クリア早くっ!…なっ』
すぐにキーパーが指示を出すが、こぼれ球にいち早く反応したのは、誰であろうシュートを打った相川だった。
「もういっちょぉっ!!」
今度はボールをつき出すようにシュート。倒れていたキーパーに、それを止めるすべはなかった。ネットが揺れた瞬間、相川は指をパチンと鳴らした。
「よしっ、同点ゴールゲット」
「やば…。あの子、なでしこの救世主かもね」
真田は満足そうに笑うのだった。




